貸金庫 VS ブービートラップ
四葉銀行で貸金庫から10数億円が盗まれるという衝撃的な事件が発覚した。犯行は行員の単独によるものと発表され、世間は一時的に大きく騒ぎ立てたものの、銀行側の巧妙な情報操作もあって、やがて事件は世間の記憶から薄れていった。
しかし、これで幕が閉じるはずもなかった。
事件から半年後、主人公であるフリージャーナリストの佐伯真は、独自に入手した内部資料と匿名の情報提供者からの証言をもとに、銀行内部に潜む闇に気付き始めていた。佐伯の推理によると、この10数億円の窃盗事件は氷山の一角に過ぎず、実際には銀行ぐるみで常習的に貸金庫の中身が操作されている可能性が高かった。
「普通の行員が、貸金庫を勝手に開けるなんてことができるだろうか?暗証番号や鍵はもちろん、複数人の承認が必要な仕組みがあるはずだ。それなのに、単独犯で片付けられるなんておかしい。管理者たちは何をしていた?」
佐伯は知り合いの元銀行員やセキュリティ専門家にも話を聞き、次第に実態が見えてきた。銀行内部では長年にわたり、顧客の貸金庫から高価な宝石や現金を少しずつ抜き取る行為が行われていたというのだ。被害者は高齢者や頻繁に貸金庫を利用しない顧客が中心であり、その多くが異変に気付かないまま命を終えるケースが多い。
銀行に不信感を抱いた顧客たちは徐々に噂を聞きつけ、利用者同士で情報交換を始めた。そして、一部の利用者たちは激怒し、ある行動に出る。貸金庫に「仕掛け」を施すのだ。
佐伯が最初にその事例を知ったのは、匿名で送られてきた動画だった。貸金庫を開けると、内部に仕込まれた弓矢の仕掛けが作動し、壁に突き刺さる様子が映されていた。さらに調査を進めると、同様の仕掛けは全国の貸金庫に広がり始めており、中には毒針や爆薬を使ったものもあった。
「やり過ぎだろう……」
佐伯は思わずつぶやいた。だが、利用者たちの怒りはそれほど根深かった。銀行への復讐心から致死的な罠を仕掛ける者まで現れたのだ。
一方、銀行側もこの事態に頭を抱えていた。貸金庫の仕掛けが発見された場合、警察に届ければ事態はさらに悪化する。貸金庫が勝手に開けられていることが公になると、銀行の信用が地に落ちるだけでなく、倒産の危機にすら陥る可能性が高い。
「報告はするな。いいか、絶対にだ」
幹部たちは青ざめた顔で密談を繰り返し、貸金庫に仕掛けられた罠を極秘裏に解除する特殊チームを編成した。しかし、利用者たちの工夫はその一歩先を行く。仕掛けを解除しようとする行員が次々と罠にかかり、命を落としたり重傷を負ったりする事故が発生した。
佐伯はこの異常事態を世間に公表するかどうか迷っていた。すでに銀行内部の証拠をいくつか掴んではいたものの、この事実を暴露すればさらなる混乱を招くことは明白だった。
「真実を隠すべきか、暴露すべきか……」
葛藤の中、佐伯は貸金庫利用者の一人である中年男性と接触する。その男性は、妻の形見である指輪を貸金庫に預けていたが、いつの間にかすり替えられていたことに気付き、罠を仕掛けた一人だった。
「銀行がやっていることは許せない。だけど、俺だってこんな方法に頼るべきじゃなかったかもしれない……」
男性の震える声に佐伯は胸を痛めた。しかし、そこには大きな真実の欠片が隠されていた。
果たして、銀行と顧客、そして真実を追う佐伯の運命はどう交錯していくのか?
闇に覆われた四葉銀行の貸金庫事件は、予想を超えた形で世間を震撼させることとなる。