表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

超短編小説『千夜千字物語』

『千夜千字物語』その24~自殺

作者: 天海樹

車の前にフラフラっと青年が飛び出してきた。

男は急ブレーキをかけ、

間一髪青年の目の前で止まった。

そして車を降り

「死にたいのか!」

と青年に詰め寄ったが、

放心状態の青年を見て男は考えた。

「車に乗れ」

青年を助手席に押し込み車を出した。

「死にたいならその命私にくれないか?」

男は車を走らせながら言った。

一時間走っただろうか、

男はある古い建物の前で車を停めた。

中に入ると古めかしい椅子に青年を座らせ、

後ろに組ませた手と椅子の背を共にロープで括り、

両足も縛って身動きができない状態にした。

「しばらくこのままでいろ」

とだけ言って男は出て行った。


「朝飯だ」

男はそう言って

細いチューブを青年の口の中に入れ、

200ccぐらいの液体を2袋分流し込んだ。

生きる気力を失った青年に

食べる気力などないだろうと考えてのことだった。

次の日もその次の日も男はやって来ては

流動食を与えていった。

青年の顔色はみるみる良くなり生気が出てきた。

やがて青年は正気を取り戻したが、

今の状況がすぐに飲み込めなかった。

「なんでこんなになってんだよ」

暴れるが身動きができない。

そこでこれまでの経緯を思い出した。

「命取られてる?」

青年は思い出し青ざめた。

すると男がやって来た。

「やっと正気を取り戻したか」

「何をする気だ」

「君の命は私のものだ。どうしようが勝手だと思うが」

「なら、早く殺してくれ!」

男は笑って青年の前に座った。

「死に体のヤツを殺しても面白くないだろ?

 これからだよ、お楽しみは」


いつどうやって殺されるのだろう。

想像を超える不安のまま

青年の無意識レベルに恐怖心を植え付けるのは、

10日間もあれば十分だった。


男がいない間はまだ平穏でいられるものの、

男が来ると身体は震え血圧は急上昇する。

「そろそろいいかな」

男はゆっくりと立ち上がり

青年の前へと歩みを進めた。

そして青年の後ろに回ると

縛っていたロープを解き始めた。

青年は隙を見て逃げようかとも考えたが、

身体が震えてそれも叶わないと諦めた。

しかし、男はロープをすべて解くと

「さあ、解放してやる」

言って両手を広げた。

訳も分からず青年は戸惑っていた。

「信用できないか? ならば説明してやろう」

と言って話し始めた。

男は10年前に娘を亡くしていた。

だから生きたいと願う娘は死にんだのに、

生きられるヤツが自ら命を捨てるのが

許せなかったのだと。

「お前はもう十分に死の恐怖を味わった。

 もう簡単には死ねない身体だ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ