春のメッセージ~真犯人の真相と彼らの後日談~
それは突然の再会だった。
「おにいちゃん!」
「おー、ひさしぶりだなー。元気だったか」
「おにいちゃんこそ! いつのまにか姿が見えなくなったから、みんな心配してたのよ」
「はっはっは、悪い悪い。気に入った家があるんでやっぱり引っ越したんだよ。何も言わなくて悪かったなー。それより、お前、専業主婦が良いなんて言ってたろ。あれからもう、ダンナと一緒になったのか?」
「ええ。でも……うまくいかなくて、じつは、逃げてきたの」
「なんだって!? 相思相愛の恋人に家に入ってもらって、一緒に暮らすって言ってたんじゃ……!?」
「おかあさんが……ぐすッ、彼のこと、気に入らないって……追い出したの。どこの馬の骨だかわからないような相手は絶対認めない、うちの家には入れないって……」
「お前の相手って……たしか両親そろったけっこうでかい家に住んでたんだよな。一応、仕事もしてるって言ってなかったか?」
「うん、自宅警備員だって。親の方針で、あんまり外へは出ないって言ってたわ」
「あー……――まあ、最近はよく聞く職業だが……。それはそれで悪かないと思うがなあ。俺も似たようなもんだし。……ただ世間的には心証がいまいちかもなあ」
「でも、でも、毎日きちんと家のすみずみまで丁寧に見回りをする、几帳面で真面目な、優しい人だったのよ。生活だって、二人でいても暮らしていけるはずだったのに……。おかあさんはひどいわ。あんなに孫の顔を見たいといってたくせに……」
「子どもができたのか?」
「うう……、それが、ひどいの。父親があれなら子どもを生ませるわけにはいかないって。もうお腹が大きくなっていたのに……、ひっく、かかりつけのお医者様に相談して、その時期からでも子どもを生ませない手術はできるって聞いてきたって、おかあさんが……。うかうかしてたら、むりやり病院へ連れて行かれそうだったから、逃げてきたの……。だから、子どもを生むときは一人だったの」
「ひでえ話だ……。それで、今おまえのダンナはどうしてるんだ?」
「彼ね、わたしと付き合ってたことが親にバレて、自分の家に閉じ込められているわ。最近は家に近づくことも出来なくなったわ。ぐすん……」
「……そうだったのか。かわいそうに……。よし、俺の家へ来い。お前と子どもくらい住める広さはある。なにせ庭付き一戸建てだからな。メシのことなら心配すんな。俺がなんとかしてやる!」
「だめよ、勝手にお邪魔するわけにはいかないわ。おにいちゃんは居候なんでしょ?」
「ちがわい、俺の方が保護者みてーなもんでな。あの家主はな、昔っからおっちょこちょいであぶなっかしくて見てられないから、やっぱり今生もまた一緒に住むことにしたんだよ。もちろん今回も生まれる前に、ネコネコネットワークでちゃんと計画してきたから問題ないんだよ」
「そうなの? わたしにはおにいちゃんのいうことがときどきよくわからないけど……。それでもわたしが子連れで押しかけたら、どっちにしたってご迷惑よ。私、歓迎されないのにお宅へうかがうのは嫌なの……」
「だーいじょうぶだって! おにいちゃんにまかせとけ。あっと、そうだな、手みやげのひとつも持ってきゃ、イチコロよ」
「手みやげ? そうね、きちんとご挨拶はしたほうがいいかもね……。でも、うちのおかあさんはわたしが何か渡すのをあまり好きじゃなかったわ。ときどきは良い子ね、って言いながら受け取ってくれたけど、目がぜんぜん喜んでなかったの。私の気持ちをなだめるためだけに言ってたみたいで……やっぱり継母だからかしら……」
「まあ、人には好みってものがあるからな。なんなら、いくつか試してみりゃいい。たとえ本当に気に入らなくたって、こっちがせいいっぱいの誠意を見せりゃ、誰だって悪い気はしないもんだ」
「そうかしら……?」
「そりゃそうさ。だから、がんばって用意しようぜ。そうだな、毎日違うものを届けるってのは、どうだ? こっちの努力だってわかりやすいだろ」
「そういうものかしら……。でも、私は獲物を自由に選べるほど、うまくないから……」
「俺が手伝うよ。夜は自由に出られないけど、昼間のうちに俺が手を貸して用意すれば、お前達は朝に届けるだけですむだろ」
「そうね。そうすれば子ども達も協力できるわね」
「よし、じゃあ、さっそくそこにいるスズメで練習しよう! おーい、みんな、木登りの練習はやめて、こっちへおいで。おいちゃんがスズメの獲り方を教えてやるぞ~」
「わ~い!」
三匹の子猫たちは上っていた低い木の幹から滑り降り、急いで母猫と、その側にいる彼らからすれば伯父の猫のもとへ走ってきた。
そして数週間後――――。
「おいちゃん、あたち白い鳥とった!」
「お、上手になったな!」
「見てみて、ひとりで獲れたよ!」
「おお、スズメ! すごいじゃないか!」
「僕のも見て~」
「お、真っ白い子ネズミか。いいね、おみやげの定番だぞ。よ~し、せっかく数がそろったんだ、明日の朝はみんなでおみやげを玄関先へ置きに行くんだぞ!」
「は~い!!!」
こうしてみんなで頑張って用意したおみやげは、すべて家主に納めてもらえた。
これらのおみやげは、じつは自分たちの食事は自給自足もできるから、という覚悟も込めたメッセージだったのだが、それは家主の心を非常に打ったらしく、以後は自分たちで二度と狩りをする気になれないくらい美味しい猫食が毎日提供されるようになる。
そして先住の飼い猫むぎちゃの思惑通り、むぎちゃの妹猫とその子猫たちは、子猫の可愛さにメロメロになった飼い主に、でろっでろに甘やかされる日々が始まったのだった――。
〈了〉