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第三話:解決編 真犯人の正体


 窓の外に他所の猫が来ている。

 顔が小さい。ほう、雌のキジトラ猫だな。


 そういえばときどき庭に来るね。


 そのたびにむぎちゃは「うにゃ、むにゃ、むにゃにゃにゃ~」と低い声を出していたな。

 ガラス越しにアタックしてくるキジトラ猫に、むぎちゃも負けずにアタックし返してるし。


 おかげで掃き出し窓のガラスは、内側も外側も、肉球模様の泥汚れがペタペタ付いて掃除がたいへんなんだよ。


「むぅ~……」


 ふつうにニャーと言えないのがうちのむぎちゃの特徴だ。

 わたしへ向いてもう一度「うにゃっ」って。何を言ってるのかな。縄張り争いのケンカの加勢を頼んでいるわけじゃないよね。対面して穏やかにおしゃべりしているし、じつは君たち、仲良しなんでしょ?


「にゃ」


 キジトラ猫はガラス越しだけど、わたしへ何かを訴えているような……。


「う~ん、わかんないなあ。君たちはいったい何を言いたいのかな?」


 真面目に話しかけていたら、ほんとに話が通じていると思われたのだろうか。


「にゃ!」


 期待を込めたまなざしでわたしを見上げるキジトラ猫の後ろから、そろそろと小っこいキジトラ子猫が現れた。

 うん、さっきからなんかいるなー、とは思っていたよ。


 子猫は口になにかを咥えている。


 ぽと。


 小鳥が一羽、掃き出し窓の外へ置かれた。

 顔が白っぽくてクチバシが黒い小さな鳥。

 これはムクドリだな。


 ムクドリを置いた子猫が下がり、つぎの子猫が進み出る。あ、この子は三毛だ。


 ポト。


 ぐったり伸びたスズメ一羽。


 そして、最後の三匹目の、サビ柄子猫が置いたのは――


 真っ白い、ネズミが一匹。


 うわ、見た目が可愛い。子ネズミみたいだな。そう思うとかわいそうな気もするが……。ネズミは猫の獲物だから仕方ないか。


 親のキジトラが「にゃっ!」と短く鳴いた。


「え? 何を言いたいのだ、君は?」


 キジトラ猫は獲物三匹を見て、私の顔を見上げた。

 これってまさか――――わたしへの、おみやげなの!?

 わたしは開いた口が塞がらなかった。


「まさか、嫌がらせみたいなお届け物の犯人は、君たちだったのか?」


 猫たちはつぶらな目でじーっ、とわたしを見ている。


 見られている。

 見つめている!


 あかん、四匹の目力に負けそうだ。(むぎちゃは目をつむっており、参加していなかった。さすがに飼い猫としての最低限のわきまえはあったようだ……)


「そんな目で見ないでよ~~~~」


 で、どうしたかというと。


 幼気(いたいけ)な子猫から、貢ぎ物までもらっては致し方ない。

 その場でキジトラの親猫と子猫三匹を保護した。――というか、わたしがにらめっこに負けた時点で掃き出し窓を開けたら、母子は堂々たる足取りで家の中へ入ってきた。


 うちの猫になる気満々である。


 それならそれでかまわないから、急いで純水仕様のウェットティッシュで足を拭かせてもらったけど。

 こうして、むぎちゃとキジトラ猫たちは同じ家の猫となった。


 毎日毎日、仲良くよりそい、昼間は昼寝を、夜はぐっすり眠っている。


 子猫たちはむぎちゃの子ではないと思う。やんちゃざかりの子猫たちは生後五ヶ月くらいだ。むぎちゃが猫の保護活動をしているNPO団体に一時保護されて去勢手術を受けたのはもっとずっと前だったはずだから。


 それにしても――――……。


 どうしてむぎちゃが我が家の庭で、子猫たちに狩りの仕方を教えているのだろう。

 あ、べつにむぎちゃが子猫たちに狩りを教えるのはかまわないんだよ。


 バッタ、クモ、トカゲ、ネズミ。


 みんな、獲るのがすごく上手だね。


 でも、大きなクモとヤモリが獲れても、わたしの膝元までわざわざ持って来なくて良いからね。

――……そうだよね。生後半年足らずの子猫が土鳩やイタチなんて大物を狩れるわけがないんだ。


 モグラなんて、土の中にいるんだもの。誰かが教えないと、三匹まとめて獲るのは難しいよね。

 じゃあ、お母さん猫の教育かな。


 あの獲物たちがわりあいに潰れたりしていたのは、母猫が狩ってきた獲物を子猫たちに与えて、狩りの練習をさせていたから?……――と、思いたいけど、こうして見ていると、あのお母さん猫、狩りが下手だわ。


 ほら、またスズメを逃がした。


 むぎちゃはまた成功したね。


 わたしは今日まで、きみが狩りの名人だなんてまったく知らなかったよ。

 だってむぎちゃは、おみやげを持って帰ってきたことなんて無かったよね。


 いつか一度だけ、お庭にいたところに声を掛けたら、ふり向いた君の口元に、ハトの羽が付いていたことがあったけど……。


 現物は庭のどこにも無かったし、たまたまそこらに落ちていた羽が一本、お口に付いただけだと………………。

 考えてみたら、そんな偶然あるわけないか。


 きみだって、猫だしね。


「そうか、黒幕はむぎちゃだったのか」


 わたしは声に出して呟いていた。だからって、どうするわけでもないけど……。


 でも、これ以上狩りで獲物を増やされても後始末に困る。


 そろそろ皆、庭から呼び戻そう。

 わたしは台所へ、とびっきりの猫用おやつを取りにいった。

                 



 あとで猫の保護活動をしているNPO団体〈ミナネコ保護会〉の人にこの親子猫を見たことがあるか訊いてみたら、隣町で見かけた人がいたらしい。


 母猫の妊娠中に見つけていたが、ものすごく用心深いので一度も捕まえることができなかったとか。


「でも、親子でまるごと引き取ってくれるお家を自力で見つけられたんですから、幸せな猫たちですよね」


 NPO団体の人たちにはすごく感謝されたけど。

 本当に、そうなのかなあ……――。


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほどですねー。
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