第二話:これは何のメッセージなのか?
そして今朝は、白い子ネズミの死骸が三匹。
もう悲鳴は出ない。なんなら驚きすらしないよ。
「そろそろ警察に言うべきか……」
毎日、我が家の前には何かの死骸が置かれているんです……と。でも、こんなの対処してもらえるかなあ。
「うーん、ご近所トラブルなんて身に覚えが無いんだけど……」
その日一日もやもやした気持ちを抱えつつ過ごした翌日。
こんどは薄茶色の毛皮をした長い胴体の生き物が転がっていた。小柄な猫並みの大きさだ。
「これって、イタチだよね……?」
イタチが口から血を吐いてご臨終していたのである。
さすがに驚いて、速攻で保健所へ連絡したら、イタチはすんなり引き取ってもらえた。
なんか置かれるサイズがだんだん大きくなっているような……。
そして本日は、ぷよんとした黒い塊がこんもりと。
よく見たらそれは三つで、一つ一つに小っちゃい手足が付いている。
昨日のイタチよりも小さな動物三匹だ!
「え、なにこれ、きもちわる……」
とはいえ、玄関先にあるから逃げ出すわけにもいかず、スマホで写真を撮って写真検索してみたら……。
「モグラ? これ、モグラなの?」
うわあ、初めて本物を見た!
こんなに小っちゃいなんて驚きだ。
この近所には広めの庭とか畑もあるから、どっかにモグラがいても不思議はないけど。
わたしのイメージ的にモグラは、もっと大きな生き物という感じで……そう、その辺をほっつき歩いているふつうの飼い猫くらいの大きさだと思い込んでいた。
いや、問題はそこじゃない。と、自分で自分に突っ込みをいれるわたし。
「モグラが三匹、どうしてうちの玄関先で死んでるのよ~!?」
イタチより小さいモグラは、引き取ってもらえるかと市役所へ連絡してみたら、うちの自治区では引き取ってもらえるとのこと。
しょっちゅう連絡するもんだから、すっかりなじみになった市役所の職員さんに来てもらい、昇天済みのモグラを無事引き取ってもらった。
「あの、猫を飼われているんですよね?」
帰りぎわに職員さんは、わたしの横におとなしくたたずんでいるむぎちゃへ、ちらと視線を走らせた。
「その猫が狩りで獲ってきた獲物の可能性はありませんか? 猫は飼い主に獲物をプレゼントすることがあるそうですから」
そういや、そんな話をどこかで聞いたことがあったような。
たしか、猫が狩りの獲物のネズミを飼い主の枕元へ運んできて、飼い主は毎朝のように恐怖の悲鳴と共に目覚めるというなかなかホラーテイストなエピソードだった気がする。
「でも、この子、すでに野生が無いので、狩りはしないと思うんですよね。それに、この獲物が玄関に置かれていた時間帯って、わたしと一緒に寝ていたアリバイがあるんです」
そう、猫の狩りの獲物っぽいことは、わたしもうすうす気づいていた。
どう見たって、死骸の殺され方に動物同士の争いのあとが見えるもんね。
しかし、むぎちゃは容疑者からはずれているのだ。
深夜から早朝にかけて、むぎちゃは外出していない。夕方にはしっかり戸締まりをした。
むぎちゃは翌朝まで家の中に居た。
我が家の玄関扉と勝手口は用心のため、外へ直接出られる猫用ドアは付けていないのだ。むぎちゃはわたしが扉を開閉できる時間帯でしか、外へは出られないのである。
朝は早起きなので早朝散歩もするがすぐ帰ってくるし、玄関前の様子は新聞を取る際にわたしが自分の目で確認している。
むぎちゃは昼間に遊びに出ても、夕方までには必ず帰ってくる賢い猫なのだ。わたしが悲鳴を上げるようなおみやげは、持って帰ってきたことが無い。
「ねえねえむぎちゃや。犯人はどこのどいつなのか、わからんかね?」
「にゃ」
むぎちゃはおざなりな返事を残し、ルーティンの昼寝をするため猫ベッドへ移動した。
「ちょっとちょっと、うちの警備隊長さん。なんのための毎日のパトロールなの? 朝は玄関先の鉢植えの裏側に始まり、二階へあがってベランダの柵の隙間から庭を見下ろし、さらに寝室の押し入れの奥までかかさずパトロールしてんのに、家の周りをウロつく怪しいやつにはぜんぜん気づかなかったの?」
そんなもの知りませんがな、とでもいいたげに尻尾が揺れている。
「むにゃ!?」
ネコベッドに転がっていたむぎちゃがバッ! と顔を上げた。