カノジョは三年保証付き
何年保証付きだのショッピング番組でよく言っているが、それは人間にあてはめた場合どうなるのだろうか。
もとより人間関係に保証なんてないのだ。親友だって喧嘩をしたままになったり、なんとなく話さなくなったり、いつの間にかいなくなっている。
使う道一つ、選ぶ言葉一つで縁というものは簡単になくなってしまう。
俺はあの日、最悪の選択をしたのかもしれない。
俺、天長約雨は中学生である。
中学生活を終えた俺は公園で一人背伸びをした。長い間座らせられるだけの卒業式は、退屈そのものだった。泣くのは俺に縁のない人ばかりだから、当事者の一人であるという自覚は薄れていた。
朝はまだまだ寒かったが、雨のせいか今はさほど温度を感じなかった。暑いわけでも寒いわけでもなく、どの季節とも呼べない空気が漂っている。
俺が一人公園でぼんやりしている間、クラスメイトだった者たちはまだ教室で歓談したり写真を撮ったりしているのだろうか。別に寂しいわけではない、好き好んでこの公園に来たのだから。しかしお目当ての人物はやっぱり来ないようだ。
もう何年だ? あの日約束を破ってから、いまだ引きづって、未練たらしくここにいるなんて情けないようだ。子供だからなんて言い訳は子供の俺が使うと白々しい。
俺がいい加減雨に飲まれていたころ視線を落とせば、透明にも褪せぬような黒猫がうずくまっていた。
思い起こしたのは不良が『お前も俺と同じか……』なんて言いながら、捨て猫を拾いあげるようすだ。どこかの漫画で見たようなあるあるとして流れてきた光景に思わず不信感を募らせた。
中途半端に手を出さないほうがいいに決まっている。
猫にエサをあげないでと書かれた張り紙と俺は毎日出会っているのだ、この猫よりもよっぽど愛着がわいている。
でもまあ、首輪をつけているということは飼い猫みたいだし、傘に入れてやるくらいはいいか。
そう思って猫の上に傘を置いたときだった。背後から水の跳ねる音がしたのは。その音は優しくて、車のものとはまるで違った。
俺が振り返ると、そこにいたのは同じく中学生のようだった。かなり高く傘を持っているので顔までよく見える。ミディアムヘアは跳ね返っており、スカートは短くセーラー服はリボンなどなにもついていない。見た目でわかる明るく元気そうな美少女だ。よくも悪くも天真爛漫、そんな雰囲気が漂っている。
明るい性格の人物はあまり好きではないが、色素の薄い亜麻色の髪や瞳、中学生に相応しい胸と華奢な体つきには好感が抱けた。
彼女は傘を閉じ、その先を俺に向けてきた。
「久しぶり、お兄さん」
見た目に似合う可愛らしい声で告げると彼女は不敵に笑った。
俺と目の前の美少女はあったことがあるらしい。もしや彼女はあの日約束していた子なのだろうか。
考えに自信が持てず、何と答えるべきか黙り込んだ。仮にこの美少女が俺に縁もゆかりもないのならば、かなりの不審人物だ。いや、雨の中一人傘もささずに立ち尽くす俺も同類か……。
「その子私のぬこなんだ。傘、ありがとうね」
美少女は傘の先を地面につけ、微笑んだ。
「ど、どういたしまして………」
「相変わらず中途半端に優しいんだから」
俺が返事をする間に小声で何か言ったようだが雨の音のせいもあってよく聞こえなかった。二次元のキャラクター以外で独り言なんて珍しい。
「お礼といってはなんだけど、私がカノジョになってあげる。安心していいよ。私は三年保証付きだから」
「え?」
え? ぇ? ぇ? ………っと、脳内セルフエコーしている場合ではない。この美少女いい笑顔でサラッととんでもないこと言ってくれたな。
ニヨニヨしてこちらを見ているが、俺が混乱するのも顔を赤くするのも当然の反応だ。だってまだ中学生だからカノジョいない歴=年齢でおかしくないだろう!!(彼氏は一瞬だけいたけど……)。というか俺は身長平均以下だし全部平凡な一般モブだよ。身長170㎝以上はないと無理なくせに、モブを誑かして遊ぼうなんて許されるべきではない。
「からかうのはやめてくれませんか」
恥ずかしさから俺は彼女を睨みつけた。
彼女はそんな俺になぜか目を細めた。
「私は本気だよ。今日から三年間、お兄さんは私のカレシだ」
三年間──その言葉にはっきりとした線を引かれた気がした。直線と線分のようなことだろうか。明確にされるとそうするしかできないような気になる。
彼女はこちらまで歩いてくると猫を抱き上げて傘を差しなおした。片手で猫と傘を持つなんて中々器用だ。おもむろにポケットを探りだしたかと思うと、おそらく制服に付けていただろうリボンを差し出してきた。
「これ、約束の証、ずっと持っといてね」
半ば押し付けられるようにしてリボンを受け取ると、彼女は俺の制服のボタンをむしり取った。そしてすぐポケットにしまい込む。そんな簡単に学ランのボタンとは取れるのだろうか。
「私はこれ持っとくから、次は高校で会おうね」
ひらひらと手を振りながら、謎の美少女は消えてしまった。
どうして彼女の言うがままになってしまったのだろうか。もしかしたら、記憶はなくとも俺は彼女を知っているのかもしれない。
本当に彼女の言う通り高校で会うことになる。そんな予感がした。
受け取ったリボンの裏側には佐藤心愛と書かれている。
佐藤心愛と出会ってからも特段変わったことはなかった。
春休みも終わりに近づいてきた今日の午後、とある客が訪れた。
ピンポーンというインターホンの音を聞いて、返事をしながら俺は自室から玄関へと下りた。のぞき穴を見ると外にいるのは友達の優瑠だ。
玄関のドアを開けると、そこには見たとおり美浦優瑠……と、その妹の彩夏ちゃんがいた。
優瑠は成績優秀スポーツ万能眉目秀麗と絵にかいたような王子様なのだが、少々発言がナルシスト気味で、現在の医療では治療できない程のシスコンだ。そして大の甘いもの好き。小学校高学年の頃からの親友でもある。
彩夏ちゃんもおおよそ優瑠と同じようなスペックを持っている。サラサラの髪に大きな瞳、白い肌ととても幼い(それにしては胸のサイズが違和感だな……)可愛らしさを携えている。優瑠と違って謙虚で異常なほど兄が好きというわけでもない。すごくいい子だ。甘いものは苦手でなめくじや蛾が好きというちょっとしたギャップもある。
「いったいどうしたんだ?」
どうして彩夏ちゃんがいるのかと俺は優瑠に視線を向けた。優瑠は一瞬彩夏ちゃんを見て、それから心底嫌そうな顔をして口を開いた。
「可愛い可愛い彩夏ちゃんがお前の第二ボタンを貰いそびれて落ち込んでるから連れてきたんだよ。お前なんかのを欲しがるのは癪に障るけど、可愛い可愛い彩夏ちゃんの願いを叶えるのが兄の役目だからな」
なんだその殺意マシマシの目は。コイツ俺を殺しに来たのか?
「お兄ちゃんその呼び方やめてって言ったよね?」
「・・・・・・・」
恥ずかしそうに顔を赤くして頬を膨らませる彩夏ちゃんに優瑠が尊死しそうになっている。しかし彩夏ちゃんがいる限り優瑠はゴキブリの様に生き延びるのだろう。永遠に妹分を貪り続ける悲しき生命体だ。
優瑠いわくボタンを貰いに来たらしいが、彩夏ちゃんにボタン集めなんて趣味があったのか。確かにボタンって可愛いもんな。この前佐藤(?)にもむしり取られたし。
「とりあえず二人とも上がりなよ、第二ボタンがどこかわからないし」
俺は二人を自室に招き入れると、お茶を準備しにリビングに向かった。そして自室に戻ると優瑠は早速勝手に俺のベッドで漫画を読んでいる。コイツは漫画のラベルを栞がわりにするので傷んでしまうから最悪だ。
俺が机にお茶を注いだコップを置くと、お行儀よく座っていた彩夏ちゃんはお礼を言ってくれた。俺も座って話をすることにする。
「第二ボタンって何なの?」
俺の質問に彩夏ちゃんはかなり驚いたようだ。おめめとおくちがぽっかり開いている。まさか一般常識? 誰もが知っていることなのかと俺があせりだしたのに気づいたのか、彩夏ちゃんはにっこりと笑った。
「口頭では説明しずらいから、約雨くんの学ラン持ってきてくれますか?」
「わかった」
俺は今まで通り掛けっぱなしの学ランをハンガーごと彩夏ちゃんに渡した。
学ランを見た彩夏ちゃんは僅かに驚いたそぶりを見せて、困ったといった感じに眉を寄せて笑いなおした。
どうしたのだろうか。
「あはは……ここのボタンなんですけど、もう誰かにあげちゃったんですね………」
彩夏ちゃんが指さすのはこの前佐藤にむしられたところだった。なぜそこなのだろうかと思うが、女の子にはきっとロマンティックなこだわりがあるのだろう。下手に口出ししない方がいい。
彩夏ちゃんはかなり落ち込んでいるようだ。これはかなりまずい。優瑠に殺されてしまう。ダラダラと冷や汗が流れ出した。
優瑠さんの様子をそろりそろりと目線だけ動かして伺うとぱっちりと目が合ってしまった。ヤバい。しかし優瑠は以外にもそこまで怒ってはいなかった。
「優瑠……?」
本当に優瑠なのかと思わず俺は疑った。彩夏ちゃんファーストで彩夏ちゃんに何かすればヤのつく人にしか見えないあの優瑠なのだろうか。
俺がじっと見つめていると優瑠は気持ち悪いくらい口角を上げて笑った。これは必死に怒りを堪えているときの顔だ。彩夏ちゃんに醜態を晒さないためになんとか耐えているのだろう。
「約雨」
「ハイ!」
ドスの聞いた優瑠の声に俺は勢いよく手を上げて返事をし、向き直った。
「よくも俺の妹、可愛い可愛い彩夏ちゃんを悲しませてくれたな……? 死んで詫びて然るべき状況だか……お前にはいくつか借りがある、許してやろう。せいぜいこれからも俺の頼みを断らないことだ」
「アリガトウゴザイマス!」
中学のころよく王子様だの言われていたがコイツは魔王だ。間違いない。
「可愛い可愛い彩夏ちゃん。コイツはこの通り断れない性格だし、バカだ。他のボタン全部むしっていいから許してやれ」
断れないのはお前の圧のせいだよ。バカってなんだよ。しかも全部むしっていいって……まあ、要らないけど。
「…私は別にお兄ちゃんみたいに怒ってないもん」
彩夏ちゃんは口をとがらせて、そっぽを向いた。あ、また優瑠が尊死しそうになっている。
「でも……」
なにか言いたげに彩夏ちゃんは俺に視線を向けた。
「ボタン全部欲しいならあげるよ?」
俺が安心させようと笑うと、なぜか顔を赤くしてはにかんだ。そして何やら悩んでいるようである。確かに自分の趣味について要求を述べるのは恥ずかしいかもしれない。俺も隠している本に関しては母に話せそうにない。
「あの……できればでいいんですけど、学ランごとくれませんか?」
「別に良いけど……」
いや、なんで?首を傾げたいところだがここで余計なことをすると今度こそ優瑠に殺されてしまう。
大人しく学ランを差し出すと彩夏ちゃんは何故か目をそらして受け取った。
「ありがとうございます。大事にしますね」
「うん」
本当になんで学ランごと欲しいのだろうか。ま、なんか喜んでくれてるみたいだしいいか。
相変わらず優瑠は俺のことを凄い形相で睨んでいたが、この後は無事に二人とも帰って行った。
約雨宅から美浦兄妹は帰る途中だ。
嬉しそうに約雨の学ランを抱きしめて歩く彩夏に、優瑠は複雑な感情を抱いていた。
「その学ラン、変なことに使うんじゃないぞ。可愛い可愛い彩夏ちゃんの兄としても、約雨の親友としても怒るからな」
「わかってる。使わないよ。……お兄ちゃんは約雨くんのことを思ったより気にしてるんだね。別にいいでしょ?好きになるのは悪いことじゃないって二人とも言ってくれたから」
彩夏の言葉に優瑠は黙り込む。アイツはお前の全部を知って言ったわけじゃないと分かってるだろ?そんな言葉を飲み込んだ。
彩夏ファーストである優瑠が彼女を追い詰めるようなことは言えるわけがない。
そんな優瑠が約雨について気にするのは彩夏が約雨を好きになった原因に優瑠も一枚かんでいるからである。それだけならまだよかった。さすが彩夏も優瑠の妹と言うべきだろうか、彼女も普通ではなかった。
約雨に危害が加わるのではないか、優瑠は心配なのである。
何か言うべきだと優瑠は目を伏せたが、その後はただ、遠くなった快活な妹の背中を眺めていた。
可愛い可愛い彩夏ちゃん、君が恋する人がただのモブなら良かったのに。
兄の気なんて知らないで妹は自分の部屋へと駆け込んだ。パタンと扉を閉めて鍵をかける。
なにか文句を言われると思ったが兄は大人しく部屋に戻ってくれたらしい。
彩夏は抱えている洋服に顔を埋める。その匂いは昔は学校帰りの兄からよくしていた。今は、約雨の匂いだと分かっている。
いったい誰が約雨の第二ボタンを受け取ったのだろうか。切れた糸がまだ残る跡をなぞりながら、彩夏は得体の知れない恋敵を想像した。
まるっきり思いつかない。
入学式。
俺の隣の席にカノジョはいた。言った通りだと言わんばかりに笑った。やっぱりイタズラっ子のような笑みがよく似合う。
「おはよう、お兄さん」
「……おはよう」
ズッと俺のボタンを見せつけて来たので、俺もポケットからリボンを控えめに覗かせた。
ちゃんとまた、出会ってしまった。
佐藤心愛と俺の今が当然のように置かれていて、俺は恐怖した。その意味はまだ知らない。
どうやら俺と佐藤はクラスが別らしい。慣れない高校で一つ安心があるとするならば、優瑠と同じクラスになれたことだろう。妹の彩夏ちゃんが絡まなければ優瑠の安心感はえげつない。
無事に学校初日を終え、帰ろうと優瑠に声をかけようとしたとき教室のドアが大きな音を立てた。ボロい我が母校であったらドアは外れているだろう。
あまりの勢いにどうしたものかと皆がそこに視線を向けた。
立っているのは亜麻色の髪の美少女、言わずもがな佐藤心愛である。彼女は人目を気にせず教室内を見渡した。俺と目があった。もしかしなくても俺に用があるのだろう。
「アイツお前の知り合いなのか?」
流石普段からたくさんの人に見つめられているだけあって、視線を追うのが得意らしい優瑠は普段の不機嫌顔で俺を睨んだ。クラスメイトは皆佐藤を見ているので王子様フェイスが鳴りを潜めている。
説明しようとしたときだった。
「お兄さん、カノジョが迎えに来たよ~」
ニモニモという擬音が似合う笑顔でブンブンと手を振る佐藤の視線の先、俺に今度は注目が集まる。優瑠は瞬時に社交的な笑みを貼り付けた。
クラスメイトたちは皆驚いた顔をしている。なんでこんな可愛いこのカレシがこいつなんだろうとでも言いそうだ。それは俺も聞きたい。
優瑠の友達やってるだけあって人の視線には慣れていると思ったが、対象が隣の人と自分ではかなり感じ方が違うらしい。視線ってこんなに痛かったっけ?
ってか、隣にイケメンがいるのにどうして俺の方だと思うんだよ。なんでだよ!
「あ、教室入りまーす」
あっさりとそう言って佐藤は俺の方に歩いてくる。
「約雨、いろいろ聞きたいことがあるが、行けよ。カノジョさんが可哀想だろ」
「はぁ? 助けてよ優瑠。俺の頭はパンク寸前なんだ」
今日は帰りにお前に話を聞いてもらう予定だったんだと縋り付いても優瑠は取り合ってくれなかった。
「お兄さん? カノジョを無視するなんてひどいじゃないか」
優瑠と話すうちにいつの間にかいた佐藤の手が俺の肩に置かれた。
「いやいやいやいや! よく考えたらいろいろおかしいんだよ! なんでこうなってるんだ?!」
「あーあ。パンクしちゃった。その手どかしてもらえますか? 今のコイツにお姉さんの相手ができるとは思えないので、要件は俺が聞きます」
さっきは俺を差し出す気満々だった優瑠が何故かかばってくれている。本当にコイツの考えることは分からない。
「お兄さんいつの間にか友達ができてたんだね。しかもいい友達」
佐藤は目を細めた。雨の日の公園で見せたのと同じどこか寂しそうで懐かしそうな笑みだ。俺もそんな気持ちになる。「でも高校初日から契約違反とは感心しないね」
「契約ッ!?」
「なんだ、お前レンタルカレシでもやってるのか?」
「やってねぇよ!」
契約ってなんだ。そして優瑠はなんでその思考にたどり着くんだ。
あとギャラリーはいなくなってくれ。
「まあまああの日から、以上でも以下でもなく3年間私達はカレシとカノジョなんだからさ。そういう契約ってことにしたから」
「したからって……」
3年間以上でも以下でもなく、恋人以上でも以下でもなく、そういうことだろうとはわかるが。あの日の出来事は契約だなんて思えなかった。
どちらかといえば……
「あれは約束じゃなかったのか?」
いや、約束の形すら成していなかった。ただ、一方的に佐藤が話して俺は何も言わなかっただけ。言えなかったんじゃない、言わなかったんだ。
「いろいろ身勝手だと思う?」
だから『沈黙は肯定を表すんだ』なんて指さされても何も言いたくなかった。
「……俺はどうすればいいんだよ」
納得がいかないような俺の敗北宣言に佐藤は笑った。
「取りあえず今日は一緒に帰ろう。友達には後で私のことちゃんと紹介してね」
帰る準備万端だった俺はそのまま手を引かれて教室を出た。急いで優瑠に「また」と挨拶したが、黙って王子様スマイルのまま手を振るのみだった。このときの優瑠は可愛い可愛い彩夏ちゃんに何と言おうか考えていたのだが、そんなこと誰も気づくわけがない。
(厄介なことになったなぁ)
俺が小鳥のさえずりを聞いたのは暖かい夕焼けの歌がよく似合う昼頃のことだった。
「ユビスマ1!」
「ユビスマ0」
「アアアッ」
「ハハハ、お兄さん弱いね」
「0はなしだろ!」
「ルール上何の問題もないよ?」
「もう一回」
「はいはい」
あの子との約束の場所であり、佐藤と俺が恋人になったらしい公園で、俺と佐藤はユビスマしていた。
お昼がまだなのでそろそろ帰りたいと思っていたが、負けるのは悔しい。
そんなこんなで小一時間ほど経っていた。
「何でそんなに佐藤は強いんだよ」
「お兄さんが弱いだけじゃないかな」
苦笑いしながら佐藤は公園の時計を見上げた。
「いい時間だね。お昼が遅くなりすぎそうだし、また明日」
「………また」
なにかと楽しんでしまった。気恥ずかしさから控えめに言っても気を悪くすることはせず、佐藤は手を振りながら帰っていった。
そういえばアイツ荷物持ってなかったけど、大丈夫なのか?