差し込む光
入道雲が物凄い勢いで形を変えていく。鼓膜を破るほどの轟音が耳に突き刺さる。周りの人々が耳を抑える。その瞬間だった。僕は自分の目を疑った。入道雲の隙間から見えたのは巨大なミサイルのようなものだった。僕は命の危険を感じた。走馬灯さえ見た気がする。ただ、そんなことよりも、僕はただ走っっていた。近くにあったシェルターに僕は間一髪飛び込んだ。ドーン、と大きな音を立て、シェルターの窓は砂埃に覆われ、景色は無と化した。耳鳴りがする。頭が痛い。僕の意識はゆっくりと遠ざかっていった。
ゆっくりと目を開く。いつもどおりの天井だ。僕は朧気な記憶を見ていた。開かれた窓から涼しさを乗せて風が吹いてくる。
「もう秋か。」
僕はそう呟いて起き上がった。ベッドの上で座り込み、深くため息をつく。細い目で窓の縁を眺めていた僕にアッシュが声をかける。
「静かだね。」
「うん。一生こうしてられる。」
風に揺られる木々を眺める。平和な休日だな。そよ風がほのかな寒さを運んでくる。僕は名残惜しさを抑えて窓をゆっくりと閉めた。ザシュが目を擦りながら部屋から出てくる。
「おはよう。」
「ザシュ、おはよう。よく寝れた?」
「うん。」
ザシュは短い脚でちょこちょこと歩き、ソファーによじ登った。まだ頭が冴えていないのか、ソファーに横たわって、うとうとしていた。
耳が痛い。頭が痛い。体中が熱くて、ピリピリする。
「うっ…」
僕は呻き声を上げながらゆっくりと体を起こした。周りを見渡す。開いていたハッチは爆風によってか閉じられていた。ハッチの下には砂塵が散らかっているが、シェルターに大きな損傷は見られなかった。僕はホッと一息ついた。広いシェルターに一人、時間が経つとともに、僕は孤独感に苛まれていった。こうはしていられないと思い立った僕はゆっくりと立ち上がった。僕の足音が反響する。シェルターは長方形になっており、人がおよそ三十人ほど入る程度であった。覚束ない足取りでシェルターの倉庫に向かう。倉庫と思われる部屋に繋がる扉の隣には、西区三丁目と書いてあり、その下には文字が消された跡があった。僕は深く息を吸って扉を開けた。心配は無用だった。薄暗い倉庫の左側にはクローゼットのようなものがあり、大量のマフラーがぶら下がっていた。そういえば寒いな。僕はマフラーを一つ手に取り首の周りに巻いた。倉庫の右側に目をやると銃が三丁、ガスマスクが三つ、フィルターが一五枚、ニリットルの水がニ一本、缶詰が六三個保管されていた。おそらく三人が一週間生活できるように設計されたのであろう。僕はシェルターの収容人数と備蓄の差に疑問を感じていた。その時だった。シェルターのハッチがドンドンと叩かれた。あの爆発を生き残れるはずがない。
すなわち別のシェルターから来たのか。僕はどれくらい気を失っていたのだろう。僕はハッチの方に小走りで向かった。ハッチの向こうからは叫び声が漏れ出ている。
「大丈夫か。誰か中にいるのか。」
聞き覚えのある声だ。もしや…そう思い僕は急いでハッチを開けた。金属でできた分厚いハッチを両手で思いっきり押し上げる。少しずつ差し込んでくる光の先には目に涙を溜めたジャックがいた。
「ザック、生きてたのか。本当に良かった。」
ジャックは涙を拭って、僕から目を逸らした。もしや、ジョンの身に何かあったのだろうか。僕は恐る恐る口を開いた。
「ジョ、ジョンは…」
その瞬間差し込んでいた光が何かによって遮られた。ジョンの頭だった。
「あ〜、もうマジでふざけんなよ。面白くない冗談とかいう次元じゃない。」
ジョンとジャックは笑い転げていた。
「ところで腕がそろそろ限界なんだけど。早く入ってこい。」
僕はぷるぷると震えている腕を見ながら言った。にやっと笑った二人はゆっくり、ゆっくりと、ハッチをくぐってシェルターに入っていった。