冷たいタオル
気付けば数時間が経っていた。
「ああ、楽しかったな。」
ジャックが酒に酔って真っ赤になった顔で幸せそうに呟く。ジョンもまた赤い顔でジャックの方を向き、言った。
「お前食べ過ぎなんだよ。絶対割り勘じゃ駄目だろ。」
ジャックはニヤッとして返す。
「全然食べないお前たちが悪い。」
僕は二人の話を聞きながら幸せな気分でふらふらと歩いていた。
「そろそろ、帰るか。」
ジョンが口を開く。
「そうだね。」
僕たちは同意し、手を振り合った。
「じゃ、また明日!」
僕はゆっくりと足を自宅の方に向け、帰路についた。それにしても、二○四八年にもなって、まさかこんな錆びきった街が残ってるなんてな。そう思いながら僕はチカチカと点滅する街灯の下をくぐり抜け、家に向かった。
「ただいま。」
妻のアッシュが玄関で迎える。
「おかえり、ザシュが寝てるから少し静かにね。」
「うん。」
そう僕は答え、玄関で靴を脱いだ。こんな革靴で走っていたんだから足も痛くなるな。ヒリヒリと痛む足を虚ろな目で見ながら靴を仕舞う。
「風呂は湧いてる?」
「うん。」
「ありがとう。」
そう言って僕は風呂に真っ直ぐに向かった。暑苦しいスーツをバサッと脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。疲れた体に染み渡る湯ほど気持ち良いものはないだろう。僕は体を軽く洗った後、風呂に飛び込んだ。ザーッと湯が風呂の側面から溢れ出る。僕は思わず大きな溜息を吐いた。身体の中に溜まった疲れが風呂の湯とともに一気に流れ出ていく気がした。
「今日も良い一日だったな。」
僕はこのまま一生湯船に使っていたい気持ちを抑え、ゆっくりと立ち上がり、風呂から出た。洗面所の前で僕は幸せな時間を噛みしめるようにゆっくりと着替えた。このまま明日が来なければ良いのに。僕は水垢だらけの洗面台の蛇口をひねり水を出す。洗濯機の上に置いてある小さなタオルを手に取り、水で濡らす。至福の時間が待ちきれない。僕は蛇口をもう一度ひねり、水を止めた。タオルに冷たい水がゆっくりと染み込んでいく。僕はゆっくりとタオルを顔に近づける。冷気が顔で感じられる。タオルをギュッと顔に押し付ける。体中に爽快な涼しさが行き渡る。このために毎日生きていると言っても過言ではない。