大切なもの
早朝の重い目を朝日に照らされながらゆっくりと開ける。目には、風に吹かれ命を吹き込まれたかのように大きく揺れるカーテンが映る。白いカーテンには所々何かをこぼした跡があり、端はレースで丁寧に装飾されている。ゆっくりと起き上がるとカーテンにバタッと叩かれた。少し苛立ちを感じながらベッドから降りるとそこには窓があった。窓を覗くと、街で賑わう人々の姿がそこにあった。風はほんの少し蒸し暑さをのせて、窓を通り抜けている。男は時計をぼーっと眺めていた。何かを優しい目で見守るようにじーっと見守っていた。すると彼は何かに気づいたのか慌て始めた。乾燥機にかけた後のほんわりと暖かいシワだらけのTシャツを頭の上からかぶり、まだ乾ききっていない少し濡れたジーンズを履いて、家を出た。少し蒸し暑い外の空気は彼を憂鬱な気持ちにさせた。彼は透き通った青い空を見上げた。蒸し暑さをのせた風が男を横切って進んでいく。男は駅へ向かって全力で疾走した。男と同じように急いでいる人たち、ゆっくりと歩きながら、走る人々を憐れむ目で見る人たち、その瞬間、男は時間の流れが止まったかに思えた。いや、それは止まったのではなく終わったのだ。それは、時間ではなく、それ以上に大切なものだった。