【8】 質問させてよ眼鏡ラブ
海斗くんも、眼鏡ラブを使ってるの!?
使っているのに、あんなに無表情なの!?
それってさすがに、大丈夫!?!?
今、目にしているエンドロールも、見終わったばかりのストーリーも、全て頭から吹っ飛んだ。
頭の中は、聞こえてきたあの事実でいっぱいだった。
そのあとに行ったレストランは、何を選んで食べたのかよく覚えてない。
映画の感想を言い合ったけど、自分の動揺を知られないようにとひた隠した。
帰りの電車も、送ってくれるという学生マンションまでの道も、頭の中はぐるぐる回り続けてた。
そして何度も海斗くんの顔をチラ見してしまう。
極太黒縁瓶底眼鏡ラブも、何回もチェックしてしまう。
眼鏡ラブを使ってるのに、こんなに表情ないの?
じゃあ外してみたら、どうなの?
も~っと、無表情ってこと?
いや、でもそれって……さすがに、不安になる。
心の中で何度も海斗くんに尋ねてしまう。
(『ねえ、さっきの音、眼鏡ラブ、だよね?』『海斗くんも眼鏡ラブ使ってるの?』)
――――って、自分が使ってるって話してもいないのに、質問できるわけないよお!
頭から心の声が零れ落ちそうになっていると、別れ際に、海斗くんがぼそりと小さく口を開いた。
「……またよかったらさ……一緒に……出かけない?」
「え?」
海斗くんはいい人だけど、ちょっと気になる人だけど、でも…………
私は、言葉に詰まってしまった。
私たちの間に流れてしまった、暫しの沈黙…………
海斗くんは、それを私の答えだと受け取ったようだった。
「……変なこと言って……ごめん。……またバイトで。……じゃあ、おやすみ」
海斗くんは早口でそう言うと、今来た道を帰っていく。
黙ったままだった私はハッとなって、ピタリと張り付いていた喉の奥から、なんとか言葉を絞り出した。
でも、私の口から出てきたのは――――
「海斗くん、き、気をつけてね……!」
私が言えたのは、海斗くんには冷たく響く、その言葉だけだった。
*
翌日のバイトを、海斗くんは休んだ。
次の日も、その次の日も、来なかった。
もしかして、私のせい?
気まずくさせちゃったから?
このまま辞めたりしないよね?
あ、向日葵の親戚だからそれは無いか……
――――だとしたら、辞めるのは、私の方だよね……
私はリリコさんに、海斗くんがここ数日休んでいる理由を恐る恐る訊いてみた。
事情があって、10日間お休みするそうだ。
「海斗、また来るから大丈夫だって!」
とリリコさんに背中をバシバシだたかれた。
事情って……それって……?
海斗くんがいない向日葵。
だけど、ずっと海斗くんのことを考えてしまう。
どうして、眼鏡ラブを使ってるの?って、
海斗くんに眼鏡ラブのこと質問したい。
私と同じで、コミュ障やっぱり悩んでるの?
素顔の海斗くんにも、会ってみたい。
帰りに言ってくれたこと、嬉しかったよ?
でも…………
考えても考えても、結局は同じ答えに辿り着く。
とにかく、私、
海斗くんと会って、話したいよ…………!
*
海斗くんが休んでいる間に、カレンダーは9月になった。
大学の講義も9月中旬から始まるし、向日葵も学生客が増え始めた。
海斗くんが、久しぶりのバイトに入った。
どうしてお休みしていたかなんて、訊きたかったけど訊けなかった。
私はいつもどおり挨拶して、いつもどおりバイトの仕事をこなす。
ランチタイムを過ぎ、お客さんが途切れた。
リリコさんが、「二人とも、今のうちにまかない食べちゃって! そろそろ子ども帰って来るから~」と裏の自宅へ出て行く。
いつもどおり私と海斗くんは、別々の定位置に座り食事する。
だけど食事を終えた海斗くんは、いつものようにスマホに集中することはなく、すぐにイヤホンで音楽を聴きだした。
旦那さんが、「俺もちょっくら用事すませてくる。昼休み中の札出しとくから、ま、二人ともゆっくりしてー」と、ふらりと出て行ってしまった。
向日葵の店内は、重たい空気。
海斗くんは、目を閉じて曲を聴き入っている。
私は、ガタンと椅子の音を立てて、おもむろに立ち上がった。
夏菜~、がんばれ~っ!
夏菜への応援よろしくお願いします<(_ _)>
お読みいただき、ありがとうございます(^-^)/
明日は、いよいよ最終回!
第9話「お世話になりまして眼鏡ラブ」です♪
文量長めでお届けします。
ここまで読んでくださった皆様にも、お世話になっております<(_ _)>!