【1】 コミュ障を救う眼鏡ラブ(1)
この作品は、高取和生様主催「眼鏡ラブ企画」参加作品です。
ポチリ。
うわあ、ポ、ポチってしまったあ!!
い、一万九千八百円もするのにいっ……。
いくらモニター特別価格だからって、大学生の身には高額だよ!?
私は右手の人差し指ともう色の変わらない注文ボタンを見つめながらぶるっと震えて、即決で押してしまった自分を攻めまくった。そして、さっき自分が読んだばかりのスマホの画面にもう一度目をやった。
ポチってしまったその商品の名前は、
「眼鏡ラブ」。
見たところなんの変哲もない、ただの眼鏡。
でもこの眼鏡にはすごい機能があるらしくって。
今一度、宣伝文句を読んでみる。
『特許出願中 眼鏡ラブ』
この眼鏡をかけるだけで、あなたの好感度アップは間違いなし! いつのまにか素敵な恋人もゲット(できるかも)♡
只今モニターキャンペーン中! 正規価格99,800円のところ、今ならモニター価格19,800円!
…………怪しい。
怪しすぎるよね!?
うわーん! バカバカ、私のバカ~!
我ながら、なんでこんな怪しい商品にひっかかってしまったんだろう!?
だけど、キャンセルするという勇気はこれっぽっちも無かった。
だって、私は藁をもすがる気持ちだったのだ。
*
――――なぜ、私がポチってしまったのか。
それは数時間前のこと。
夏休み前の最後の講義を受講していた私は、就職内定のメールをゲットしたのだ。7月には就活学生の8割は内定をもらえるらしいのだが、私も無事その仲間になれた。
結局第3希望の電気メーカーだったけど、贅沢は言っていられないよね。就職できることが嬉しくって嬉しくって、私は家族や親友に、
「やったー! 内定連絡、キター! 面接、死ぬほど頑張って良かったよ~( ノД`)」
と速攻でRineした。
すると皆が同じような文言を返してきた。
「夏菜、内定おめでとう! でもそのコミュ障でせっかくの就職が首にならないように気をつけてよ(笑)」
……「コミュ障」。
そうなのだ。私は慣れない人には緊張しちゃって、顔も強張るから微笑むこともままならない。
だから就職の面接で、面接官に良い印象を与えるなんてこと、逆立ちしても難しくって。
親友のハルカに何度も面接練習に付き合ってもらって、ダメだしをもらいまくったのだ。
練習の甲斐も無く、やはり第1第2希望共に面接で落ちてしまった私。笑顔が作れなくて泣きつく私に、ハルカは頼もしかった。
「もうわかったよお、夏菜! そのガチガチにぎこちないキモい位の笑顔をするんだったらさ、顔はそのままでいいから、夏菜の真面目さ一本で勝負しよう!」
ハルカ監督の路線変更は大当たりして、第3希望の就職面接を見事成功へと導いてくれたのだ。
その親友ハルカは、大学の入学式に話しかけてくれた子だ。
そんな私だから、もちろん友人作りも苦手で。だからいつも誰かに話しかけられて友人ができるパターンで、自分から話しかけて友達を作ったことなんか無い。
「……そうだ。私、このコミュ障、いい加減なんとかしなくっちゃ……!」
皆から同じことを指摘されて、改めて自分の問題に気がついてしまったよ。
今までは知らない人を避けていても、それなりに楽しくやれてたけど。
私、このままじゃまずいよ?
だって社会に出たら、一人でなんでもやっていかなきゃならないよね?
入社式で誰にも話しかけてもらえないかも? 話しかけてもらえても、その人と同じ部署とは限らないんだよね? 万が一誰かと仲良くなっても、突然の転勤で人間関係ゼロからのスタートとか? 孤立して仕事教えてもらえなくなっちゃったりとか、定年までボッチでお弁当食べるとか??
(定年までって……約40年位? 今までの人生の2倍、ずっとボッチ弁当!? そ、そんなの、イヤだよ~っ!!(泣) やっぱコミュ障、直さなくっちゃ。でも、どうやって……?)
悲しすぎる未来予想図を浮かべながらよろよろと帰り道を歩いていた私の目に飛び込んできたのは、以前にハルカと一度だけ入ったことのある古民家カフェ『向日葵』の求人募集の貼り紙だった。
『ホールスタッフ募集中! 未経験者歓迎』
接客業……!
そうだ、これだ~~!!
うん、これならお客さんに対応するときに笑顔の練習もできるし、知らない人と少なくとも注文聞きで話すし、慣れてきたら常連さんと世間話とかできるかも?
ハルカと来た時、お店の人も優しかったし、それになんか田舎のおばあちゃんちを思い出してほっとする雰囲気だったし!
明日から大学は夏休み。絶好のチャンスだよ?
私は、コミュ症克服せねば! と勢いこんだまま古民家カフェ「向日葵」のドアを開けた。
面接してくれた店主の奥さんのリリコさんは、私の引きつりまくった表情を気にするより、おそらく私の気迫に押されたのだろう、その場で採用が決定した。
「夏菜ちゃーん、明後日からよろしくね」
と、リリコさんの明るい笑顔に見送られながら店を後にする。
7月半ばだというのに、すでに気温は35度。内定連絡を受けてから頭の中もカッカと熱くなっていたけれど、学生マンションの見慣れた部屋に帰って来て冷房をつけたら、急に頭が冷静になってきた。
明後日から「古民家カフェ」でバイト?
この作り笑顔も全くできない私が?
ウェイトレスなんてホントにできるの!?
怖くなってきた私は、慌ててググってみた。
検索ワードは、「笑顔」「作り方」「好印象」。
ググ様から私に与えられた知恵は、「口角をあげる」「ウイスキーと言う」「割り箸をくわえる」「堅くない自然な笑顔が一番」。
だから、鏡の前で頑張って練習してみた。
割り箸をくわえながら口角を上げて、「ウイスキー」って言いながら、そして堅くない自然な笑顔を……
って、できるかぁっ! そんなこと!!
割り箸なんかくわえてたら、そもそも喋れないし、自然なワケないじゃん!
こんなことで簡単に笑顔ができたら、苦労しないっちゅうの!
自棄になった私は床にダイブして、スマホをぼーっと見ていた。
すると、あの広告が。
眼鏡をかけた笑顔の素適な美人女性が優しくほほ笑む画像。
『特許出願中 眼鏡ラブ』
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最短で明日のお届け。
――――心がググ~っと傾いた私は、ポチリ、と申し込みボタンを押してしまったのだった。
はじめまして あるいは こんにちは(^^)/
作者のあき伽耶です。
この作品は、全9回。8月19日(土)~8月27日(日)まで、一話2000字程度、毎日投稿します。
サクッと読めるコミュ障改善青春恋愛コメディを目指しました♪
どうぞお楽しみください! <(__)>
※非会員さまも感想欄書きこみできます♪