第5章 驚愕の真実
第5章 驚愕の真実
さて、大口秀夫教授は、もはや、沖縄特攻に行く戦艦大和の艦長の気持ちになっていた。 沖縄戦に向かう戦艦大和には、護衛機も一機も無く、燃料は片道分しか積んでいなかったと聞く。正に、水上特攻の具現化であった。
日本海軍の最後の悪あがきであったと聞く。
自分は、今からこのK大学病院から、○○医療少年院の精神科医の小森忠医師に会いに行くよう、アポイントメントを取っていた。
「小森先生、例の少女の様子は、どうですか?」
「いつもと変わりはありません。イヤ、今日は、今までで最も、落ち着いているように見えますが」
「大至急、そうですね、車を飛ばして約1時間弱でそちらに着きますが、どうしても、彼女に会って聞きたい事があります。今から、彼女に会いに行って、彼女に会わせて頂けるでしょうか?」
「高名な、大口先生が自ら来て下さるのです。何をもって、反対すべき理由がありましょう……是非とも、お待ちしております」
こうして、カーナビをセットして、大口教授は、車を走らせた。
しかし、一体、どのような展開が待っているのであろうか?
果たして、彼女に、本当に猫神様は憑依しているのだろうか?
万一、本当に憑依していたとして、その主な原因は、一体何なのだろう?
ガチャリと、鍵を開けて、大口教授は、小森医師と、一緒に、昼なお暗い閉鎖病棟の一番奥の部屋に入った。
そこに、ベッドの上に、ちょこんと腰掛けている、アイドル並みの美少女がいた。
だが、彼女は、大口教授を見るなり、
「あっ、やっと、猫神様の存在を信じてくれる人が来てくれた。
嬉しい、嬉しい、嬉しいなあ!」と、涙を流しながら、迎えたでは無いか?
無論、大口教授とて全面的に信じている訳でも無いのだが、郷里の「猫神様神社」の宮司さんに会ってから、もしかしたら、本当に猫神様や、その霊の憑依現象があるのでは?と、内心、思いつつもあったのである。
現代科学では、説明出来ないのは、百も承知である。
敢えて、無理矢理、科学的根拠を持ち出すとすれば、一次元、二次元、三次元に時間を加えたこの世界とは、全く、別の次元に、それらは存在するとしか説明は出来ない。
だが、如何なる説明よりも、彼女が、大口教授の現在の心を読み込んでいる事だけは事実だ。これは、一種のテレパシーのような共鳴現象である。
このような事例は、大口教授は、患者の治療や研究中に、何度も経験していたのだ。
例えば、朝方、階段を踏み外して、左膝を怪我した時、初めて会った患者が、
「先生、左足の具合は、どうですか?外科に行かれたほうが良いのでは……」と、助言されるような、正に本人しか知らない事をズバリと当てられた事が何度もあったのだ。
彼女は、ただただ、正直なだけでは無いのか?
で、本当に、猫神様に憑依され、命令されて、「猫の首の畑」を、作ったのではなかろうか?
しかし、ここで、肝心な質問を忘れていた。
「貴方は、猫神様が命令したと言っておられます。私は、その話を信じますよ」
「でしょ、でしょ。私は猫神様の命令に従って、野良猫達の首を使って、あの畑を作っただけ何ですよ。ホントです」
「イヤ、良く、分かります。でも、一番最初の疑問なのですが、どうして貴方は、猫神様と、そう言う関係になったのですか?何か、思い当たる事でもありませんか?」と、大口教授は、宮司様から逆に質問を受けた、今回の事件の核心に当たる質問をしたのだ。
この質問には、彼女のほうも、逆に困惑したみたいだ。
最初は、彼女も、随分、考えていたようだ。
「何か、思い当たりませんか?」と、小森医師も聞いてくる。
「そう言えば、私とあの子猫の事が、一つのキッカケかも知れません……」と、遠慮がちに、彼女が言う。
「えっ、何か、思い当たる事を、思い出されたのですか?」と、大口教授が聞く。
「そ、それは、つまりこう言う事なんです。
極、手短に言いますと、確か、昨年の春先、私の家の前で、子猫の鳴き声が聞こえたのです」
「で、どうされたのです?」
「勿論、心配になって、外に出て見ました。
まだ、寒い、春先の事だったかと、3月下旬頃かしら。
ともかく、急いで階段を降りて、家の前に出て見ました。
すると、3匹の子猫が既に、低体温になって、家の前に捨てられていました。
急いで、家の中で、タオルとホッカイロを取りに戻り、直ぐに、体を温めましたが、でも、子猫三匹は、急激に弱って行きました。
で、近くの動物病院もスマホで、検索しました。でも、救急用の動物病院は近くにはありません。私は、車の運転も出来ないので、お母さんに頼むか、お父さんに頼むか悩迷っている内に、三匹の子猫達は、皆、死んでいったのです」
「で、その後、どうされたのです?」と、大口教授は聞く。
「可愛そうだったので、直ぐに近くの児童公園に、埋めて小さなお墓を作りました……」
「そうですか、まだ寒いのに、大変でしたね」と、小森医師も頷く。
「小森先生、少し、外でお話をしましょう」と、大口教授は小森医師を外の会議室へ誘った。
別室で、大口教授は、次のように言ったのだ。
「小森先生、彼女は明らかに嘘を付いています。私は、彼女の病気が分かりましたよ。まあ、猫神様の話を、信じるかどうかは別としてもね」
「大口先生、それは一体、どう言う意味ですか?」
「小森先生、彼女の話が本当なら、猫神様に感謝されこそすれ、恨まれる筈は無いのですよ。あの話には無理があります」
「ああ、確かに、そう言われれば、本当に、そうですね?
全く、気が付きませんでした。
では、大口先生は、これからどうされるのです?」
「今から、彼女の正体を、この私が直接、暴きます。
彼女は、生まれながらの精神病質者、つまりサイコパス(反社会性パーソナル障害)なんですよ!」と、大口教授は断言した。
再び、彼女の閉鎖病室に、二人して入った。
「お嬢さん、貴方にもう一度だけ、確認させて下さい。
本当に、子猫達は、既に死んでいたのですか?」
「ええ、絶対に間違いはありません」
「でも、真実は、まだ生きていたのでは?
貴方は、生きたままの三匹の子猫達を、児童公園にそのまま埋めたのでは無いのですか?」と、大口教授は、言い切った。
正に、その時、彼女の表情が、一変したのだ!
般若のような、鬼のような形相で、
「そ、そんな、馬鹿げた事など、私が、する訳が無いでしょう!」と、狂ったような大声を上げて反論したのだ。
その表情と声の大きさに、小森医師は、ぶっ倒れそうになった。
それだけでは無かった。
何と、天井や壁や床から、まるで、映画館の最新立体音響設備の放つような、
「ニャーァァァァァァァ……」と言う、得体の知れない、化け猫のような絶叫が、狭い部屋の中に、響きわたったのである。
おお、おお、猫神様が、怒っているのだ!!!
オカルト 対 児童精神科医 の話、どうでしたか?
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