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第七話   しろくまさんと約束

「しろくまさん!お願いがあります!」


「はい、もう何でも聞きますよ」


 何だか、もう面倒になってきた。


 正直、疲れたし。


「え?本当ですか?」


 やめてくれるかな、キラキラと目を輝かせるのを。

 

 というか、本当にキラキラするんだな、人の目って。


 初めて見たけど、そのうちレーザー光線でも出すのかな?


 何となくだけど、女子高生なら出来るかもしれない。


 女子高生って、やっぱり怖いな。


 焼き殺されないように、言葉には気を付けないと。


 でも、言うべき事は言わないとね。


 一応、大人だし。


「結婚以外は」


「しろくまさん、いじわるです」


「はい、大人と言うモノは、そういうものです」


「分かりました。では、私とデートしてください」


「はい、いい・・・・え?」


「デートしましょう」


「ええっとね、何を言っているか分かっているのかな?普通に考えて、私、逮捕されるよ?」


「大丈夫です。私、もう成人ですから」


「学生証を見せて」


「断固拒否します!」


「いやさあ」


「女の子とデートしたら、なんでしろくまさんが逮捕されるんですか?おかしいですよ」


 おかしいのはこの社会か、俺か芽依さんか。


 どっちなんだろうね。


 いやいや違う違う。


 そんな哲学的なことはこの際置いておいて、一般社会における常識でいこう。


 その方が、楽だしね。


 今まで、よく考えない奴は馬鹿だと言って、悪かったと思うよ。


 俺が馬鹿でした。


「君は子供、私はいい年をしたおっさん。普通にアウトでしょう」


「知りません、そんな難しいことなんて」


「なら、これから覚えてください。これは社会常識です。君が、大人だと言うんならね」


「デートしてくれるなら、私、考えます!」

 

 何で、そうなる?


 おかしくないか?


 前言撤回。よく考えない奴は、ええっと、何だったっけ?


「そろそろ、着くころかな?」


「ああ、はい、そうです。ありがとうございます」


 一応、時間も時間なので彼女の家の住所を聞き出し、ナビに入力して彼女を送ることにしたけど、その際に色々と面倒なやり取りがあったことは、もう思い出したくない。


 本当に疲れたし。


 心から疲れるって、こういうことなんだなあ。


 もしかしてこれが、世代間ギャップという奴か?

 

「意外に、会社に近かったじゃないか?」


 なんで、湾岸エリアまで行く羽目になった?


「はい、いつでも来ていいですよ。あ、でも前もってお願いします。私、しろくまさんが来るまでに、お風呂に入って身体を隅々まできれいにして、とっておきの勝負下着を身に着けて、しろくまさんが来るのを待ってますから!」


「そういう冗談が言えるようなら、もう安心だね」


「冗談じゃないのに」


「冗談じゃなかったら、そっちの方が問題だよ」


 てへぺろをやった女子というか、そんなことをする人は初めて見た。


 なんというか、可愛いなあ。


 いかん、集中、集中。


「は~い」


 素直なところが、やっぱり可愛いかも。


 ダメだ、俺は何を考えている?


 どこかの壁に、思いっきり頭突きがしたいかも。


 でもそんなことをしたら、間違いなく通報されるだろうけど。


 俺は気を取り直して、芽依さんの自宅のすぐ側まで、車を着けることにした。


「ほら、もうお帰り」


「あ!私、お茶淹れます!」


「いいから、私は会社に戻るんだから」


「え~、しろくまさん真面目!」


「普通です。いいから、車から早く降りなさい。ご近所迷惑になるから」


 芽依さんは渋々、車から降りてくれた。


 降りたではなく、降りてくれたという表現が正しいぐらいに、後ろ髪引かれたというか、つまらなそうにしていたから。


「じゃ、しろくまさん!デート約束ですよ!」


「あ!待て、そんな約束してない!」


 ニマっと、笑い顔を俺に向けた。


 彼女はそのままの姿勢で、スキップしながら家の門に入った。


 器用だな。


 彼女が家に入るのを見届けてから、俺は会社に戻ることにした。


 彼女が家の門に入る瞬間、振り向きざま投げキッスをしてきたのは、きっと気のせいだろう。幻覚に違いない。そうに違いないと、俺は確信する。


 何故なら、俺は疲弊している。


 そう、俺は疲れている。


 だから、幻覚の一つや二つは、見るのも珍しくないだろう。


 そうだ、今まで芽依さんから聞いた話は、すべて幻聴に違いない。


 そうだ、そうだ、なんていく訳はあるか!


 ああ、本当に面倒だ。頭が痛い。


 誰のせいだ?なんだか、腰や肩も重いし。


「結構、大きな家だったなあ」


 本物のお嬢様かな?そうだとすると、このお遊びも、一種の反抗期の表れかな?


 俺は念のため、車のナビに入力した、芽依さんの家の住所の検索履歴を消しておいた。


「高橋がこれを見たら、何をするか分からんからな」


 すると、灯りの点いた玄関から、ちょっと年のいった婦人が出てきた。

  

 母親だろうか?にしては、ちょっと年がいっているような?


 祖母にしては、ちょっと若いような気がするけど、母親って雰囲気じゃないな。


 芽依さんはその女性と、玄関前で少し話をしていた。


 ご婦人は、にっこりと微笑んでいた。

 

 すると、そのご婦人はこっちに気が付いたようで、軽く会釈をした。


 俺は驚き、慌てて会釈を返した。


 品の好さそうな女性だったけど、下げた頭を戻すと芽依さんを促すように家の中に入って行った。


 車を降りて挨拶すべきだったと、今にして思ったけど、もう今さらだろう。


 今度こそ、お茶を飲む羽目になるから。


 俺は、何となく急いで車を出した。




 会社に戻った俺は、所長に一応報告した。


 お台場での出来事は、言わなかったけど。


 というか、そんなこと言えるか!


 所長は気にしなかったようで助かったけど、肝腎の高橋について質問したら、意外な返答だった。


 高橋は、謹慎処分となったそうだ。


 随分と早い処分だった。


 恐らく、減給処分となるだろう。


 まあ、自業自得だろうけど。

 

 警察沙汰にならないだけ、マシだろう。


 そう、警察沙汰になるよりは、遥かにいい処分だろう。


 俺は車両課に車の鍵を戻し、いつものように帰宅することにした。


 業務は残っていた者がやっておいてくれたようなので、俺の仕事は無かったから。


 誰も、ことの顛末を聞いてこなかった。


「やれやれ。家に帰って、風呂にでも入ろう」


 ホント、今日は疲れた。


 ああ、俺もお台場で甘いモノでも食べておけば良かったと思いながら、まっすぐ帰宅することにした。買い物をする元気も、もう無い。


 夕飯は華やかさから程遠い食事になりそうだけど、これが本来の俺だ。


 そう、それが俺なんだけど、俺らしくない俺になりそうだ。


 俺はそれを、どことなく歓迎している。




「しっろっくっまさ~ん!」


 最近だが、この呼び方にも慣れてきた。


 彼女が俺の隣に座るのも、もう違和感がない。


 身体をぴったりと寄せるのも、特に違和感がない。


 いやいや、それはおかしいだろう?


 ダメだ、慣れるな!


 考えろ、馬鹿!


 とは言え、うれしそうにしている芽依さんの顔を見ると、もうどうでもいいやと思う自分が居る。


「しろくまさん!この前は、私をドライブに連れて行ってくれて、ありがとうございました!海、とってもキレイでした!」


「あのさ、言い方には気を付けよう?私は君を、ドライブに連れて行ったわけじゃないよ。海なんか、知らないよ」


「年頃の男女が一緒の車に乗って、海辺を走るのをドライブって言いません?」


 はい?誰が年頃か?少なくとも俺は、とっくに年頃を越えている。


 ああそうか、あれ自体がすでに罠だったのか。


「言いません」


「ええ?じゃあ、何て言うんですか?」


「送迎です」


「ぷっぷ~、しろくまさんひっどい!」


「酷くありません」


「ええ?だって、海で一緒の時間を過ごしたじゃないですか!」


「だから、言い方には気を付けよう。私は、君を、家まで、送っただけです。それがたまたま通ったのが、海だったというだけのことです」


「私、初めてだったのに!」


 知らんよ、そんなこと。


「はい、大人と言うモノは酷いモノです。だから、君も被害に遭ったんでしょう?」


「被害?」


「ええっと、見学会の時のこと」


「ああ、高田さんですね?」


「いや、違うけど」


「高田さんとしろくまさんは、全然違います!」


 だから、聞けよ。


 あとさ、高田ではなく高橋ですけど、もうどうでもいいか。


 いや、よくないか。


 全国の高田さんに謝れなんてジョークが、俺の頭に浮かんできた。


 俺もう、ダメかも。


 ああ!もう面倒だ!


「同じ男です。ただ、年齢が違うだけです」


 そう、年齢と経験値の差だろう。


 俺も高橋の頃は、夢も希望もあった。


 家庭を持ちたいと、そんな大それたことを考えていたし。


 でも、それがそもそもの間違いだった。


 少なくとも、俺が嫌われているとは気が付いていなかった。


 今なら、分かる。


 高橋も、いつかは分かるだろう。今回は、その代償を支払っただけだ。


「それで、今度のお休みですけど」


 話の腰を折るなよ。だいたい、休みは休むためにある、何で出かけないといけない。


「却下です」


「まだ、なにも言っていないですよ?」


「デートでしょう?同世代の子と、一緒に行きなさい」


「嫌です、しろくまさんと行きたいんですぅ!」


「私と一緒に居ても、面白くもなんともないんですよ」


「面白いとか面白くないとかではなく、一緒に居たいかどうかです」


「一緒に居て、何が楽しいのやら」


「いいんです、私が楽しければ」


 ええ?俺はどうなる?


 ああ、そうだった。この娘は、女子高生と言う生き物だった。


 女子高生と言う生き物は、もはや我々とは別の存在でもあった。


 つまり、俺とは違う次元で生きているし、見えている風景も違うのだろう。


 だから、はっきりさせないと。


 でも、何をはっきりさせるんだ?


「私は楽しくないな」


「ええ?じゃあ、私もっと頑張ります!しろくまさんが、楽しめるように!」


「頑張らなくていいから、もっと自分の時間を大事にしなさい」


「はい!やっぱり、しろくまさんは私に優しい」


「ええっとね、話をよく聞いてね」


「じゃあ、今度のお休みの日に、駅前に10時集合です」


「あの、私の話を聞いてくれないかな?」


「駅前におっきな木があるので、その下で待ち合わせです」


「あの~」


「もし来てくれなかったら、私、泣きますから」


「だからさ」


「大声で泣きますから」


「だ、だからさ、そういうのはね・・」


「しろくまさんに捨てられたあって、駅前でわんわん泣きますから!」


 おい?やめろ。


「ちょ、っちょっと、」


「じゃ、私、今日は急いでますので!明日は来れませんから、次に逢うのはお休みの日ですよ」


「あのさ」


 行ってしまった。


 風のように。


 つーかさ、人の話を聞けよ!


 ああ、人の話なんか聞かないか。


 俺は、どうすればいい?


 ひとりぽつんと取り残された俺だが、途方に暮れてしまった。


 どうして、俺は失敗した?何がまずかったんだ?


「まあ、10時ならいいだろう」


 明るいうちに解散すれば、まあ大丈夫だろう。不純異性交遊だったか、青少年健全育成条例には、引っかからないだろう。


 多分。


 問題は、何を着ていくかだ。


「女子と一緒に歩けるような服なんて、俺は持ってないぞ」


 一瞬、退社後に買いにいくかと思ったが、それだと俺が負けたような気がするので、普段着で行くことにした。


 これは、俺にとっての最後の意地みたいなものだから。


 つまらない意地だけど、これすら無くしたらもう歯止めが効かないような気がするから。


 そして彼女は、そんな歯止めなんかお構いなしに突撃してくる。


 そもそも、意味なんかあるのか?


 彼女の突破力は、ちょっと普通ではないし。


 なんだ、最初から俺は詰んでるんじゃないか?


 俺は、空に向かって思いっきり、ため息を吐いた。


 どこかに逃げたい。



 こうして、彼女にとっての待望のお休みの日が来た。



 俺にとっては、憂鬱な一日になりそうだけど。

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