表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/47

第四十一話 しろくまさんと諏訪一族

「それで、あなたは何なんですか?」

「城田国彦と申します」

「私達が伺っているのは、あなたは何なんですかということです!」


 まずは挨拶代わりはジャブだと思うけど、いきなりストレートを打ってきた。

 やれやれ。

 人の話を聞かないのは、もはや血筋かね?



 来るんじゃなかった。



 芽依さんは親戚一同と、きちんと向き合って話をすると決めたようだ。

 俺も付き添うことになったけど、それでいいのかよく分からない。 

 俺の立場は、どう考えても説明出来ないからだ。

 でも、芽依さんの本当の意味で味方になってくれる人が居ない以上、誰かが側に居るべきだろう。

 問題は、俺が役に立つかどうかだ。

 しかも厄介なのは、その芽依さんの決意だ。

 18歳になったら、俺と一緒になると親戚一同に宣言するそうだ。

 正直、話しがややこしくなるからそれはやめて欲しいと思うけど、どうせ俺の言う事なんか聞くはずはないだろうから、そこは黙っておいた。

 どうせ、俺に罵声が飛んでくるだろうから。

 そこで対処すればいい。 

 うまく芽依さんの盾代わりが出来たら、俺にとっては上々だろう。

 とは言え、一緒になるということは婚姻関係だけではなく、養子縁組もあるんだけど俺はあえてそこは伏せておいた。

 ここでそれを言ったら、また面倒なことになりそうだから。

 一応、逃げ道は作っておかないとね。

 俺は、ずるい大人だから。

 詳細に質問しない、芽依さんが悪い。

 だいたいさ、奥様は女子高生なんて、ドラマだけの話しだと思うよ。知らんけどね。


 だから、今はあえて平地に波乱を起こす必要は無く、可能な限り穏便に済ませないといけない。


 ねえ?


 分かってるよね?

 

 俺の話し、理解しているかな?


 理解してくれてると、いいなあと心から思うよ。


 

 何だかさ、うきうきしている君の顔を見るとさ、不安しかないんだけど。



 そんなこんなで、芽依さんのお家に到着した。

 当然だけど、芽依さんは問答無用で家の中に入って行った。

 玄関で躊躇する俺を、芽依さんはまるで不思議なモノでも見るような目を向けたけど、すぐにあのいつもの表情、つまり二ヤッと笑ったのだ。

「お帰りなさいませ、だんなさな♪」

 三つ指ついてお辞儀をする芽依さんは、本当に楽しそうだ。

 というかさ、君、リラックスし過ぎじゃないか?俺が、意識しすぎなのかな?

「ええっと、お邪魔します」

「むう~!しろくまさん真面目!」

「お帰りなさい之チュ~は?」

 取り合えず、ん~とキス待ちの芽依さんにデコピンをかました。

 今はこんなことをして遊んでいる場合ではないと思うけど、ああ、でもこれがいつもの芽依さんか。

 ため息しか出ないなあ。

 芽依さんはご不満なようだけど、俺だってご不満だよ。

「ほら、遊んでる時間がないよ?」

「は~い」

 うな垂れている芽依さんだけど、俯いた瞬間、にやりと笑ったのを俺は見逃さなかった。

 何かする。

 警戒しないと。

 いや、そもそも芽依さんの為に俺はここに来たのに、何で芽依さんの事を警戒しないといけないんだ?


 おかしいだろう?

 

 とは言え、先手を打つことが出来ない以上、都度都度対応するしかない。

 俺は首をフリフリしながら、芽依さんに促されるまま家の中に足を踏み入れた。

 芽依さんのお家というより、お屋敷の中に入ったのは初めてだった。

 芽依さんのお家のお手伝いさんとお話をしたのも、玄関前だったし。

 何と言うか、落ち着かないなあ。

 いや、女性の家だからではなく、このたたずまいが何と言えばいいのか、威圧感があるというか、ちょっと居心地が悪い。

 広い玄関、広いホール?調度品等々。これが家なのかと、俺は思った。

 少なくとも俺なら、こんな家では寛げない。

 いかんいかん、これではまるで遊びに来たようだ。

 遊び気分を払拭しないと。


 芽依さんのお屋敷のいわゆる大広間に入って、親戚たちが来るのを芽依さんと一緒に大人しく待っていた。


 そんなはずあるか!


 彼女がそんなに大人しくしているはずは無く、私の部屋に行きましょうと誘われるのを通り越して、無言で俺の腕をぐいぐい引っ張って自分の部屋に連行、もとい俺を連れて行こうとする彼女の誘いを懸命に断り、というか抗い、大広間の高そうなソファーにしがみついていたのは、想像に難くないと思う。


 この期の及んで、君は一体何してくれる?


 いいかい、これは遊びじゃないんだと言っても、ええそうですよ、だんなさま♪と返されるに違いないから、もう無駄なことはしない。


 ここで体力を消耗するような、そんな愚を冒すほど俺は馬鹿ではない。


 いや、ここに居る時点で、俺はやっぱり馬鹿なのだろう。


 すると、玄関あたりが賑やかになった。

 

 さあ、戦闘開始だ。


 しかし、芽依さんの親戚達が広間に入って俺を見ると、皆一様にギョッとなる。


 ちょっと傷つく。


 でもまあ、分からなくもないな。


 それが、普通の反応だろうから。


 そして当然の如く、こういった質問が飛んだ。


 いや、罵声だ。


 いつもの。


「だいたい、あなたはいくつなんですか?」

「恥を知りなさい!」

「どうせ、お金目当てなんでしょう?」

「いい年をして、恥ずかしいと思わないの?」

「相手は未成年よ?分かってる?」

「この変態!警察呼ばれたくなかったら、とっとと出ていきなさい!」

「死ねばいい!」

「ゴミ!」

「クソブタ!」


 何と言うか、久しぶりだと思う。

 こんなに罵られたのは。

 ああ、あの時の動物園の光景と、どこか似ているな。


 なんというか、ヤギの集まりにしか見えない。


「まあまあ、落ち着いてください」

 牧田父がこの場をなだめようとするけど、あのエリート然していた感じはすっかり鳴りを潜め、ちょっと気の毒だった。

「だいたい、あなたがしっかりしていないから、こんなことになったのよ?」

「そうよ、そうよ」

「いつまでもいつまでも、優柔不断で」

「そうそう、だからこんなにこじれたのよ」

「とっとと既成事実を作れば良かったのよ!」

「女なんてね、ちょっとぐらい強引な方がいいの!」

 おい?

 今、何て言った?

 既成事実だ?

 強引だ?


 それこそ、犯罪じゃないのか?


 俺は確信した。

 

 こいつらは、少なくとも芽依さんの味方ではない。


 だったら、俺の敵だ。


「牧田先生」

 怒号飛び交う中、俺は牧田父に質問した。

「とっとと既成事実を作ればとか強引と言う発言ですけど、詳細を教えてくれませんか?」

 何だろう、牧田父は動揺している。でも、牧田娘が割り込んできた。

「芽依さんをレイプしてモノにしろって、そういうこと。そうですよね?おば様方?」

「な、なにを言ってるの?」

「そ、そうよ。そんな酷いこと、するはずないじゃない!」

「言葉の綾よ、そうよ言葉の綾よ」

「わ、私達はこの子の幸せを願っているの」

「そうそう」

「普段から、いやらしいことを考えている証拠ね?教育がなってないんじゃないの?」

 

 同時に喋られると、何を言っているのか分からない。

 牧田娘も戸惑っていたけど、そういえば何でこの子はここに居るんだ?

 まあ、助かるけど。

 ただ、芽依さんだけは無言だった。


「だいたい、親の居ないこの子の世話をしてきたのは、私達なのよ?」

「そうそう、あなたに何か言われる筋合いじゃないわ」

「だいたい、牧田さんがしっかりしていれば、こんなどこの馬の骨か分からない男に、騙されたりしないわ」

「女子高生に取り入ろうなんて、最低な変態ね。ホント、死刑になればいい!」

 芽依さんが急に立ち上がった。

「この人の・・・」

 芽依さんが発言したら、急にシーンとなった。

「この人のことを、悪く言わないでください」

「そ、そんなことは」

「ええ、そうよ」

「私たちはね、あなたのことを心配しているのよ」

「あなたにはね、幸せになって欲しいのよ。だからね、分かってね?」

「私はこの方にお願いして、ここに来てもらっています。それだけは、覚えておいてください」

 何だろうか、いつもの芽依さんではなかった。

 凛々しいというより、何だか毒があるような?

「とにかく、今後について芽依さんよりお話があるそうですので、皆さんはご静粛にお願いします」

 と最後まで言う間もなく、また喧々囂々の状態になった。

 どうも、牧田父は存在感がないというより、親戚の中では非主流派なのかもしれない。

 芽依さんは諦めたように、ソファーに腰を下ろした。


 そっと、俺の袖をつまんでいたけど。


 しかし、主導権を取るには力不足なのは否めない。

 もちろん、俺に至っては余所者扱いだろう。

 いや、もはや犯罪者かもしれない。

「早く、お相手を見つけないとね」

「省吾さんではダメなの?」

「優良株よ?損はしないわ」

「大丈夫、私達に全部任せて」

「きっと、これで良かったって、そう思うわ」

「みんな、あなたのことを考えているのよ?」

 何て、勝手な。

 俺が何か言う前に、芽依さんに先を越された。

「私、誰とも結婚しません!」

 え?

「な!何を言っているの?」

「そうよ、このままだとあなたも寂しいと思うからこそ、お相手を用意したのよ?」

「行き違いがるようだけど、私達の真心は分かってくれるわよね?」

「私たちはね、あなたのことを心から心配しているのよ?」

「そう、そう。だからね、私達に任せなさい。そうすればね、きっと幸せになるから」

「私の幸せは、私が決めます」

「でも、私達は会長から、あなたのことをお願いされたのよ?」

「そうそう、私達にすべてを委ねるって」

「牧田のおじさま、本当ですか?」

「ええっと、遺言書にはそのようなことは書いてありません」

 すると、また大騒ぎになった。

 死人に口無しとも言うが、遺言書がある以上、そのおばさま方がどう騒ごうが、法的にはどうにもなるまい。


「それで、レイプって、事実ですか?」

「未遂です」

 芽依さんが、割って入ってきた。

 すごく、強い視線を俺に向けてきた。

 年頃の女の子には、きつい話しなんだろう。

 でもね、ここは重要なんだよ、分かって欲しい。

「うん、そうだろうね。でもさ、未遂も既遂も同じ罪なんだよ」

「私、まだ処女です。信じてください」

「ええっと、うん、信じてるよ」

 いや、君が処女かどうかなんて、ここでは関係無いけど、女の子には重要なのかな?

「城田さん、デリカシー無さ過ぎです」

「ああ、すみません」

 牧田娘にまで、注意された。とほほ。

「ええっとですね、それは親族間の話し合いで、一応解決しています」

 とは言え、牧田父も負けてはいないのではなく、なんとか存在感を出そうとしているようだ。

「芽依さんは、それで納得しているの?」

「納得してません!」

 大広間が一瞬で凍り付いた。

「私、嫌だったんです。怖かったんです。でも、牧田のおじさまがこれ以上、騒いでも何もいいことは無いって言うから、信じて我慢することにしたんです」

「それって、どういうことですか?」

 俺は牧田父に聞いたが、芽依さんは続けて説明した。

 俺に聞かせるように。

「私に男をあてがい、どうにかしようとしたんです」

「ち、ちがうわよ」

「そうよ、みんな将来有望な男子よ」

「そうよ、そうよ。私だって、羨ましいぐらいよ」

「あなたに相応しい人って、厳選したのよ?」

 だからさ、それを芽依さんに聞いたのか?

 聞いてないんだったら、ただの押しつけだろう。

「私、当時はまだ中学生でした。何で、私の未来を決めつけるんですか?」

「だ、だって、私達は会長から・・・」

「そ、そうよ、会長から」

「だって、会長が」

 やれやれ。自分達ではなく、今度は会長がか。

「牧田先生」

「はい」

「その遺言書には、何て書かれているんですか?」

「実は、芽依さんが成人になるまで、その、ええっと」

「牧田のおじさまが、私の後見人として遺産を預かっています」

 芽依さんだった。気丈に振舞っているけど、大丈夫だろうか?

「つまり、遺言書には芽依さんにすべての財産を譲るとでも、書いてあるんですか?」

「ええっと、一応、一族で分配するようにと書いてありますけど、それは芽依さんが成人してからとなります」

「そうですか」

 だいたい、分かってきた。

 芽依さんに、財産分配の差配が委ねられているのか。

 芽依さんには悪いけど、何て祖父だ。

 若い芽依さんに、どれだけあるか分からない莫大な財産を預けた結果、鵜の目鷹の目がこうして集まったとそういうことか。

 そして、死肉でも啄ばむがごとく、芽依さんにたかっている訳だ。


 酷い話だ。


 こういうのは、当人が生きている間に何とかするものだろう?

 子供に持ちきれない重荷を背負わせて、どうする気なんだ?

「では、生前贈与とか無かったんですか?」

「あなたには関係ないでしょう?」

「そうそう、さっきから何なんですか?」

「あなたには関係ないって、さっきからそう言っているでしょう?」

「警察呼びましょうよ?」

「静かにしてください」

 芽依さんの一言だけど、彼らは今度は黙らなかった。

 確信に近づいたからか、主導権を取り戻そうとしているのか、いずれにせよ困った人たちだ。

「馬脚を顕したようね」

「そうそう、やっぱりお金が欲しかったのね」

「幼いこの子を騙して、お金を巻き上げようって、そんな魂胆なのね?」

「見え見えね。最低」

「まあ、可愛い女の子を騙して、ホント最低なクズね」

「幼い子に、何て酷いことが出来るんでしょうね」

「この子を騙せても、私たちを騙せないわよ」

「ホント、子供だから騙せるって、本気で思ったのかしらね」

「ホント、愚かな人」

「これはね、少女性愛者って言ってね、一種の病気なのよ」

「やっぱり、そうだったんだ」

「そうそう、やっぱりね、警察に相談しましょうよ」

「こういうのは、すぐに逮捕してもらわないと」

「こんな変質者を野放しにするから、被害者が出るんだわ」

「この子が可哀そう」

「やっぱりね、私達で守ってあげないとね」

「ねえねえ、牧田さんのとこがダメなら、今度は当てがあるの?」

「ああ、私の遠縁にいい人が居るから、その人にしましょう」

「大丈夫?」

「大丈夫よ。国立大卒の官僚だから、将来有望よ」

「でもその前に、この男をなんとかしないと」

「私、いい弁護士を知ってるわ」

「だったら、最初からそっちにお願いすればいいのに」

「だって、会長が指名したのよ。それは無理よ」

「じゃあ、これからはそうしましょう」

「そうそう、まずはこの男を何とかしてもらいましょうよ」

「何とかって、何よ」

「それは、なんとかよ」

「まるで、海に沈めるつもり?」

「あははははは。それ、良いわね」


 ため息が出そうだけど、一応我慢した。


 こいつらはSNSに居そうな、馬鹿の集まりだったか。


 弁護士である、牧田父はだんまりを決め込んでいるし。


 牧田娘は心なしか、涙目になっているし。


 最悪だな。


 芽依さんはというと、反対の方を向いていたので、俺からは表情が見えなかった。


 もしかしたら、泣いているのかもしれない。


 俺は、どうすればいいんだろうか?


 でも、俺は芽依さんの側に立つと決めたんだ。

 

 そこだけは、明確だ。


 だから俺は、芽依さんに声を掛けようとした、その瞬間だった。


 俺の隣に座っていた芽依さんが、おもむろに立ち上がった。


 芽依さんの唐突な動きに、俺はギョッとなった。

 

 立ち上がった芽依さんは、すたすたと歩きだした。


 もしかしたら、トイレだろうか?


 何だか、様子が変だけど。



 芽依さんはこの場に居る全員が、凍り付くようなことをしでかした。

 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ