表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/47

第三十六話 しろくまさんと思いの先に

「結局、あなたは諏訪さんとどうしたいんですか?」

 唐突だったけど、当然の質問だろう。


 それでも考えたことが無いと言えば、嘘になるだろうか?


 今までの俺は、どちらかと言えば彼女を邪険にしてきた。


 彼女との時間に心地よさを覚えていたけど、どこかに違和感があった。


 ずっとこのままでもいいんじゃないかという思いと、このまま俺なんかの為に時間を浪費していい訳はないと思った。


 どうしてか?


 芽依さんと俺とでは、住む世界があまりにも違うからだ。


 本来なら、接点を持つことすら許されない関係だからだ。


 芽依さんの住む世界からしたら、俺の存在すら認識していい話しではない。


 だから、


 だから、


 だからこそ、俺の人生に最後の彩りを与えてくれた芽依さんに、何かお返ししないといけない。


 それが大人であり、責任というものだと思う。


 だから、だから、だからこそ、俺は。


 俺は、


 そうだ、どうもこうもない。

 何も考えるまでも無い。

 俺がどうしたいかではなく、芽依さんがどうあって欲しいのか。

 でも、俺に何が出来るのか?

 俺の望みは、大それたことではないのか?


 それでも、彼女の幸せを望むことは、悪いことではないはず。


 芽依さんに、いつも微笑んでいて欲しい。

 芽依さんに辛い思いや、悲しい思いはしてほしくない。

 芽依さんの進む未来が、明るく希望に満ちていて欲しい。

 俺が芽依さんにそんなことを望むのは、もしかしたら間違っているかもしれない。

 俺には、そんなことを願うような資格は無いのかもしれない。

 でも、それしかない。

 だから、彼女がいつも幸せそうにしている、いつも笑っていられるには、どうしたらいいのかを考えるし、考えないといけない。

 俺には、それしか考えられない。


 俺のことなんか、この際どうでもいい。


 だって、俺には未来が無いんだから。


 違う、これは俺のエゴだ。



 俺の欲望だ。



 でも、それしかない。


「そうだね、芽依さんが幸せになる。これ一択だよ」

 牧田さんは眉を顰めた。

 何言ってんだ、こいつはという顔だ。

 というか、顔に出過ぎだろう?

「抽象的ですね?それで、具体的にどうするんですか?」

 具体的にと言われてもなあ、俺にはどうしていいのか分からない。

 ただ分かるのは、このままでは誰も幸せになれないということだ。

 牧田さんのお兄さんもだ。

「とにかく、芽依さんのお家に伺う」

「はあ?」

 明らかに呆れた顔をしたけど、なら対案はあるのかと問いたくなったが、やめておいた。

 ここでこの子と言い争いをしても、何もいいことはない。

 少なくとも、牧田さんは敵ではない。

 味方かどうかはちょっと分からないけど、彼女の兄の為と言うなら、お互いに利害は一致しているはず。


 なら、お互いを利用し合えばいい。


 むしろ、お互いの目的がはっきりしている分、信用出来るはず。


 最終的にどうなるかは、その時に考えればいい。


 今は、突破口を探らないと。


「いったん家に戻り、スーツに着替えてくる。それからだ。ああ、芽依さんのその保護者の情報を、俺に教えてくれないか?」

「ちょ、ちょっと待ってください」

「君だって、それを望んでいるんじゃないの?」

「どうして」

「だって、それ以外に見当がつかないから」

 兄を救う、それが牧田さんの願いだろうから。

 本当のところ、彼女にとって芽依さんは二の次だろう。

 親戚なのに、同じ学校の生徒なのに、芽依さんのことを諏訪さんなんて他人行儀で呼ぶ。


 本当のところ、芽依さんなんてどうでもいいんだろう。


 ああ、だから俺なのか?

 芽依さんには、俺しかいないのか?

 本当の意味で、味方になってくれる人は、もしかしたら居ないのかもしれない。


 心を許せる相手が、どこにも居ないのかもしれない。


 それって、悲しいことじゃないのか?

 でも、だからといって俺が芽依さんに手を差し伸べることも、芽依さんから差し出された手を取ることも、本来なら許されないだろう。


 でも、それしかないのなら。


 それしか、本当にそれしか道が無いのなら、俺のすべきことは決まっている。

 

 後は、覚悟だけだ。

 

「とにかく、少し落ち着いてください」

「うん」

 まあ、確かに性急過ぎる気もするけど、その一方で急がないといけないとも思っている。

 だって、相手は手段を選ばないんだから。

 そこに芽依さんの気持ちとか、芽依さんの将来とかはどうでもいいはずだ。

 目的は芽依さんのおじいさんの遺産であり、つまりはカネしか見ていないんだ。

 そんな大人の身勝手さで、芽依さんの未来を奪っていいはずはない。


 それに、追い詰められている芽依さんを、これ以上放っておけない。


 俺の内側に、何だかよく分からない感情が沸いてきた。

 でも、冷静にならないと。

 あくまでも、芽依さんの為に動かないといけない。

 俺の感情なんてどうでもいいし、この際邪魔だ。


「それで、城田さんが諏訪さんのおうちに行くとして、それでどうする気ですか?」

「ええっと、芽依さんと外泊をしたのは私であり、そこに一切の他意はありませんと」

 何だろう、本物のバカが居るよ、本当に居るよ、こんなバカは見たことが無い、というか、もうこんなバカは死ねば、いっそ死んでと、そんな顔をしているような気がする。

 一言で言うと、まあ虫を見るような目かな?


 気のせいだと思いたい。


 気のせいで無かったら、正直心が挫けそうだ。


「はあ~」

 思いっきり、ため息を吐かれた。

「あの~」

「そんなことをしたら、火に油を注ぐようなものですよ?」

「でも、どうしたらいいのか?俺には分からないんだよ」

 だって、これは芽依さんの家庭内の問題であり、部外者の俺が口出しをしていい話しじゃない。


 そうなんだ、俺は完全な部外者だ。


 親戚でもない、関係者でもない。


 何者でもない。


 ただ、芽依さんの遊び相手だ。相談相手ですらない。


 俺はそれでいいと思ってきたはずだ。

 芽依さんには芽依さんに、相応しい相手がいるはずだと。


 それなのに。


 でも、相応しい相手が居ない、むしろ芽依さんの周りに邪悪な人しか居ないとしたら、俺がダメな理由は無いはずだ。


 そうは言っても、手詰まり感はぬぐえない。


「私の父に相談しましょう」

 何で、この子のお父様と相談を?

 だって、一族の中で一番立場が弱いはずじゃ?

「私のお父さんが、諏訪さんの代理人弁護士なんです」

「はい?」



 いきなりすぎて、俺はちょっとめまいがしてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ