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第三十五話 しろくまさんと暗いお話

「諏訪さんを狙う人って、どんな人だと思いますか?」

 笑っている。そう、明らかに笑っているように見える。

 でも、笑い方が嫌だ。

 何と言えばいいのか、どこか自嘲気味にも見えるけど、本当に何なんだろうか?



 自分自身を、嘲笑っているように見える。



 答えは慎重にしないと。

 下手をしたら、牧田さんも傷つけてしまう。芽依さんの友達だから、傷つけるのはよくない。

 まあ、誰も傷つけないで済むなら、それに越したことはないけど。

「それは、芽依さんは美少女だから、普通にイケメン男子じゃないのかな?」

「そうだったら、いいんですけどね」

 牧田さんはそう話すと、窓の方を向いてしまった。

 何だか、様子が変だ。

 いや、思春期の女の子は、だいたい変か。

 まあ、これも偏見だろうけどね。

 そんな牧田さんは、視線を窓から俺に向けてきた。

 どこか、強い視線だった。

 これも、気のせいだろうか?

「遺産目当てだったら、どうですか?」

 ドラマでよくある、遺産目当てか。

 カネに目がくらむと、人はどんなに卑劣な事が出来るというのは、本当かどうか分からない。

 見たことがないから。

 いや、あるか。

 友人にカネを貸したことがあるけど、何でカネが必要かと問うたら、随分と分かりやすい嘘を吐かれた。

 家族が病気で、治療にお金が必要なんだと。

 病状や治療に掛ける費用を詳細に説明するけど、その内容には穴があった。

 あからさま過ぎるし、人を馬鹿にしている。

 まるで、これで俺を誤魔化せると、そう思っているような感じだった。

 俺は、ショックだった。

 カネの前では、友情も何のその。

 それでも騙されてやろうと思い、一度お金を貸すと、今度は新しい病気が見つかったと嘘を吐き、またお金を求めたのでまた貸した。

 いつか、本当のことを言ってくれるだろうと、期待したからだ。

 だが、今度は家族が家の階段から滑り落ちて大怪我をしたので、またカネを貸してくれと言ってきた。

 友達の家族はマンション暮らしのはずなのに、家の階段から滑り落ちたって、よく言うなと思った。

 俺はカネを貸さなかった。

 いや、正確に言うと、カネが尽きたのだ。

 だからもう、カネは無いと返答すると、サラ金でもいいから借りてきてくれと迫ってきた。

 なんなら、サラ金を紹介してやると。

 俺に任せれば、サラ金からいくらでも借りる事が出来るから、お前は運が良かったなと。


 俺のように頼れる友人を持って、お前は幸せだよと。


 とは言え、彼の言っていることは本当かもしれないし、実は彼が騙されている可能性もあった可能性もある。

 とにかく、俺はお前の家族のお見舞いをしたいと申し出た。

 怪我の状態を見ない限り、効果的な助言も出来ないからだ。

 そう何度も何度もおかしなことが起きるなら、別の何かが原因かもしれないからだ。

 俺の助言に対して、友人の返答は笑った。

 大切な友人であるお前に、そんな迷惑を掛けたくないとか、そんなに気を使わなくていいとか。

  

 お金さえ出してくれれば、きっと病気も治ると。

 

 ああ、こいつはもうダメだと判断し、高額療養費制度などの救済策を教えてあげた。

 だって、怪我のはずが今度は病気になったんだから。

 すると、お前は友人じゃない、冷血人間だと非難してきた。

 俺の家族が困っているのに、お前はなんて冷たい奴だと。

 俺の家族が死んでもいいのか?

 何かあったら、お前のせいだとも言ってきた。

 なら、お見舞いに行かせろ、主治医と話させろと俺は言い返した。


 それだけだった。


 そいつとはそれっきりで、もちろん貸した金は戻って来なかった。


 カネの前では、友情も何も無い。


 いや、もしかしたら俺だけが、彼を友人と思っていただけかもしれない。


 思い込んでいたのかもしれない。


 じゃあ、本当のところ彼は、俺のことをどう思っていたのだろうか? 


 少なくとも、友人ではないだろう。


 嫌なことを思い出した。


 さっきまで忘れていたのに、思い出してしまった。


 いや、今は俺の話じゃない。現在進行形で問題を抱えている、芽依さんのことだ。


「遺産目当てって、親類とかが近づけさせないんじゃないのかな?」

「その親類が、積極的に諏訪さんにお相手を宛がおうとしているんですよ。彼女、もってもてなんですよ」

 なるほど、でも変だ。

「親類だって、遺産を相続するんじゃないの?」

「すべての遺産は、諏訪さんが相続するんですよ」

 なるほど、それでその遺産をモノにする為に、芽依さんに男が近づくと。

 中には、無理矢理にでも関係を結ぼうとしる奴も居ただろう。

 芽依さんは美人だし、しかもお金持ちだから、引く手あまたのはずだ。

 ああ、そうか。

 それで彼女は、高橋みたいな男が苦手なのか。

 やたら接近してくる、暑苦しい男が。

 芽依さんを襲うような、卑劣な男を。

 その目的が芽依さんの身体ではなく遺産だとしたら、思春期を迎えた少女にはやはりショックだろう。

「そんな時です。諏訪さんの煮え切らない態度にしびれを切らして、親戚のお兄さんが諏訪さんを襲ったんです」

 随分と早口だけど、抑揚のない言い方だった。

 何だろうか、どこか現実離れしているような、まるでここに居る我々とはまったく無関係の別人の話のように聞こえる。

「聞いてますか?」

「もちろん」

「まあ、未遂だったんですけど、親戚中で問題になったんです」

 抜け駆けということかな?

「それで?」

「それで今諏訪さんの後見役には、子供は女子しか居ない親戚が入ったんです」

「そう、それならいいけど」

 何が良くて、何が良くないのか分からない。

 でも、男が居なければとりあえずは安全だろう。

「でもね、養子を取ったんですよ」

 養子?

「私の兄です」

 え?

「一応、私も諏訪さんの親戚なんですよ。親戚って言っていいのか分からないぐらい、遠いですけど祖先を辿れば一応は親戚になります」

 なるほど、だから内情に詳しいのか。

「私の両親は反対だったみたいですけど、若い頃に借りがあったみたいで、どうしても断れなかったみたいです。兄が可哀そうです」

 そういうことか。

 牧田さんが何で、諏訪さんの家庭の踏み込んだ内容の話を俺にしてきたのは。

 彼女も、被害者なのか。


 どれだけ子供を振り回せば、気が済むんだ?

 牧田さんのお兄さんが成人だとしても、周りが傷つくような行為は、大人のすることっではない。


「でも、それが通るのかな?」

「まあ、通りませんけど。実際、揉めています。でも、半分は城田さんのせいです」

「え?俺?」

「先日の無断外泊の一件で、親戚一同が大騒ぎになったんです。誰が抜け駆けをしたのかって」

 ああ、そういうことか。

 俺が誰かの駒として使われたと、そう勘違いをしたのか。

「私も責められました。両親は庇ってくれましたけど、他の親戚は遺産を独り占めにする気かってね。酷いですよね。兄の件だって、反対したのに」

 ああ、嫌な話しだ。こんな子供を捕まえて、何を言うんだ。

 そもそも、そんなに遠い親戚なら、遺産相続の権利なんて無いだろうに。

 それでも責めるのか。

 まさに、カネの亡者だな。

「まあ、そんな訳で私は、諏訪さんを売ったという訳です。最低ですよね」

 それで、自嘲気味の表情をしているのか。

 しかし、それも仕方がないだろう。

 子供に何が出来る?

 正義感で動いたところで、事態が動く訳もないし、悪い方向に動くこともあり得る。

 それにさっきまでの話を総合すると、牧田さんは芽依さんの一族でもかなり弱い立場にあるらしいし、借りもあるという。

 それが無くても、カネに目がくらんだ亡者相手なら、俺でも対応が難しいだろう。

 カネの為なら、友人を騙すのも普通に出来るからだ。

 縁が切れるものなら、とっとと切った方がいい手合いだ。

「悪かったね。俺のせいだ」

「ごめんなさい、言い過ぎました」

「いや、大丈夫だ。実際、俺の責任だ」

「あなたのせいだけじゃないでしょう?全部、あいつらのせいでしょう?」

 とは言え、外部の人間である俺が、どこまで口出ししていいのやら。

 そもそも、俺が若くて元気で、しかも将来有望な人間ならともかく、もういい年だし、どう考えても有望な未来があるとは思えない。

 胸を張って、芽依さんを任せてくださいとは、とても言えない。

 それこそ、どこの馬の骨か分からない人間だ。

「どこの馬の骨に奪われるぐらいなら、私の兄と結婚させようって、それで一致したようです。その後は、まあどうなることやら」

「それで、納得したの?」

「さあ?分け前でもらえるんじゃないですか?私の兄を使って」

 すごく、嫌な笑い方をしている。

 年頃の少女がそんな笑い方をするものではないけど、そんな顔をさせた大人達のせいかもしれない。

 そもそもその兄は、このことをどう考えているんだろうか?

 案外、乗り気かもしれない。

 莫大な資産を継承するのだから。

 いや、その後を考えたら血みどろの争いになり、その渦中に飛び込むことになる。

 どっちにしろ、嫌な話しだ。

「言っておきますけど、兄はこの騒動に嫌気を差しています。うんざりなんです」

 心を読んだか?最近の女子高生って、怖いなあ。




「結局、あなたは諏訪さんとどうしたいんですか?」

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