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第三十二話 しろくまさんとゆるキャラ

 裏口らしき扉から、少女が出てきた。

「お待たせしました」

 そんなに待ってはいないが、まあ社交辞令という奴だろう。

 ちなみに、彼女は制服姿だった。

 芽依さんと同じ制服だった。

 まあ、そうなんだろうけど。

 きっと、工場見学の時に会ったんだろう。思い出せないけど。

「どこか、お話出来る場所に行きましょう」

 俺は牧田さんと、近くのファミレスに入ることにした。



「それで、一体何の用でしょうか?」

「諏訪さんとは、どのようなご関係でしょうか?」

 質問に質問で返すか。

 まあ、それもそうだよな。

 俺と話す必要があるとしたら、俺ではなく俺と関わった人の話しだよな。

 世間が俺に、興味や関心を持つはずないから。

 ましてや、相手は女子高生だ。おじさんなんて、もはや敵と同義だろう。

「そうですね、説明が難しい・・」

 俺の説明を遮るように、牧田さんは決めつけてきた。

 それも、どこか蔑むような目で。

 でも、俺は怒ったりはしない。

 懐かしい目だと思うから。

「いかがわしい関係ですか?」

 まあ、一般的にはそう見えるのかな?

 でもなあ、俺はともかく、芽依さんはいかがわしくないだろうけど。

 いたずら好きというか、やたらとちょっかいをかけたけど、今思うと悪い気はしなかった。

 それでも第三者の目には、いかがわしい関係に見えたかもしれないし、そもそも俺と芽依さんとの関係なんか他人には分からないだろうし、だいたい俺もよく分かっていない。


 俺と芽依さんの関係って、いったい何なんだろうか?


「友達と知人の間と、そんな感じになります」

 芽依さんがここに居たら、恋人です!とか言うんだろうか?

 いや、あれで意外に分別があるような、無いような。う~ん、よく分からん。

 思うに、本当に困った子だ。

 何をするか、予想がつかない。

 ふと、デジャブを感じた。

 なんだろうか、思い出しそうな感じだ。

 ああ、そうだ。

 思い出した。

「君、服屋で会ったよね?」

「はい」

 そうだ、あの時の服屋に居た。

「工場見学の時も、居ましたけど」

 それは記憶に無いけど、きっとそうなんだろう。

 制服を着た女子高生は、みんな同じに見えたし。

 ただ、芽依さんだけは違った。

 何がどう違うのか、今となっては分からない。

 ただ、彼女だけは分かった。

 まあ、盛大にアピールしていたからね。

 おまけに、彼女は目立つし。

「諏訪さんと、あれから会っていますか?」

「いいえ?」

「学校にも来ていません」

「え?どうして?風邪?」

「病気なら、そう連絡がくるはずです。ただ、しばらく休ませますと、保護者から連絡があっただけです」

 親ではなく、保護者。

 何だろうか、違和感がある。

 でも、今はいい。

「何か、あるんじゃないかな?」

「あなたにあります」

「私がですか?」

「はい」

 何と言うか、とりとめないと言うか、要領を得ないというか。

「すまないけど、話しが見えてこない。もっと、単刀直入にお願いできないかな?」

 すると、牧田さんは明らかにムッとした。

 芽依さんが不機嫌になると、それでも可愛らしさがあったけど、彼女はちょっと違った。

 そう、少し怖い。

 まるで、気持ち悪い者を見るように、俺を見ている。

 若干、殺意も感じる。さすがに気のせいかもしれないけど、それだけ目力がすごい。

 でも、それが普通なんだろう。

 そう、女子ならそれが普通であり、芽依さんがおかしいのだ。

 俺はそのことを、すっかり忘れていた。

 忘れてしまうほど、芽依さんとの時間は楽しかったんだ。


 それだけ、芽依さんとの時間が、俺に取って普通になったんだ。


「諏訪さん、無断外泊したんです」

 え?

「実は口裏合わせを頼まれたんですけど、諏訪さんの保護者から私の親に連絡がいって、それでバレたんです」

 ああ、そうだったんだ。変だなあと思ったんだ。

 牧田さんは俯いていた。裏工作がばれてしまい、結果として芽依さんが学校に来なくなった。

 きっと、その責任を感じているんだろう。

 意外に、素直な子じゃないか。

「あなたのせいです」

 違った、素直だからといって、いい子であるというのは、ただの思い込みだろう。

「何で、私のせいに?」

「諏訪さんはしろくまさんと旅行するって、そう言っていました」

 口軽いなあ。騙すなら、もっとうまくやらないと。

 まあ、公言するよりはまだマシか。

 俺の顔にそんな考えが浮かんだせいか、牧田さんは言い訳めいたことを言った。

「諏訪さんは私の家にお泊りすることにして欲しいって、そう言っていたんです」

「ああ、そう」

「それで私は、どこに行くのと聞いたら、江の島って言ったんです。江の島に行ったんですよね?」

「ああ、行ったよ」

 だからどうして、そこで目をキッとしながら俺を睨むんだ?

「誰と一緒かと聞いても、内緒としか言ってくれませんから、カマをかけたんです」

 なるほど、一応は考えていたんだね。

「もしかして、城田さんですかって」

「すると、違います。しろくまさんですって、嬉々として答えたんですよ。私、バカみたいじゃないですか?」

 どこがどう馬鹿なのか、正直俺には分からないけど。

「あなたは、城田さんなんですか、しろくまさんなんですか?一体、どっちなんですか?」

「同じですよ」

「諏訪さんは、違うって言っていました」

 違うって、何がどう違うんだろうか?

 それこそ、芽依さんに聞くべきだろう。

「どう違うのか、教えてください」

 牧田さんは執拗だったけど、俺の方が知りたいよ。

「それこそ、諏訪さんに聞いたらどうかな?」

「諏訪さんとは会えませんから、あなたに聞いています」

 ああ、そうかよ。この子も、面倒だな。

「同じです。私は城田であり、しろくまは諏訪さんが私に付けたあだ名です」

 牧田さんは首を傾げ、この人、何を言ってるんだろうって顔をした。

 困ったなあ。どう説明したらいいだろうか。

「ええっとね、記号論は知っている?」

「知りません」

 ああ、そうだろうよ。

 本当に、面倒だな。

「例えばだけど、君は制服を着ている。これによって、女子高生となる訳だ」

「コスプレはどうなるんですか?」

「そう、そこ。コスプレはその典型で、その格好をすることで自分以外の存在になるんだ」

「意味が分かりませんけど?」

 ああ、いいね、そのうんざりした顔。ホント、おっさんてウザイって感じがして、むしろ懐かしい感じがする。

 でもさ、質問したのは君の方だけど?


 女子高生の制服を着れば、中身がどうであれ認識は女子高生となる。


 そうか、芽依さんにとって俺は城田ではなく、しろくまという記号化された何かの象徴なんだろう。


 しかし、目の前に居る少女にとって俺は、城田でもしろくまでもなく、ただのおっさんだ。


 女子の敵だ。


「簡単に言えばね、私は城田というおっさんではなく、擬人化されたしろくまと言うことなんだよ」

 いやだなあ、また首を傾げているぞ。目つきも険しくなって来たし。

 まあ、人の話を聞く気が無い人に、何を言っても本当は無駄なんだろうけど。

「ええっと、つまり諏訪さんは、しろくまさんとお付き合いをしているのであって、私の目の前に居る城田さんとはお付き合いしていないと、そういう理解でいいですか?」

 意外だ、よく分かっているじゃないか。

 いや、うまく解釈したということかな?

「まあ、そういうことかな」

「変です」

「何が?」

「だって、そうなるとしろくまさんって、存在しないじゃないですか?」

「そう、存在していないよ」

「じゃ、目の前に居るあなたは、一体何なんですか?」

 何だろうね?

 それって、存在証明をしろというに等しく、俺には俺の存在を証明しようがない。

 だって、人が認識した数だけ、城田でもしろくまでも居るんだから。

 そしてそれはすべて、俺であり俺ではない。

 でも、認識しなければ?

 認識しなければ、存在しないも同じだけど、しかし存在しないことにはならない。

 それは俺の認識であって、芽依さんはもちろん、牧田さんのような女子高生には、俺みたいな奴が存在すること自体が許されないのだろう。

 ああ、面倒だ!

 もっと、シンプルに行こう。

「アイドルみたいなものだよ」

「?」

 こいつ、馬鹿?みたいな表情やめてくれるかい?

 結構、落ち込むんでね。

「アイドルってさ、存在してないじゃないかな?」

 やめて、胡散臭そうな目で見るの。さっきの、こいつ馬鹿の方が、まだいい。

「アイドルだって食事はするし、生活もある」

 排泄する云々は、やめておこう。

「でもアイドルってさ、キレイな存在じゃないかな?」

「では、あなたがキレイだと?」

「違うよ、諏訪さんの目から見たら、そういう存在だと言うことだ。実際の私は、まったく別の存在だから」

 だからこそ、彼女は俺に関わろうとするんだろう。

 アイドルに入れ上げる、若い女子のように。

 今だったら、ゆるキャラかな?


 ああ、そうか、俺はゆるキャラか。


 それで、しろくまだったのか?


 俺はすとんと、腑に落ちてしまった。


 でも、新たな疑問が沸いてきた。



 ああ、俺も面倒な人間のようだ。


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