表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/47

第二十一話 しろくまさんとバケーション

 何で、こんなことになった?


 俺と芽依さんは、どういう訳か仲良く一緒にお風呂に入っている。


 どうして?



 芽依さんは水族館のショップで、あわたんキーホルダーを二つ買った。

 友達へのお土産だと思ったけど、ひとつを俺に渡してきた。

「ほら、お揃いです♪」

 ああ、そうかい、そうかい。

 そういうのはね、同級生とでもやっておくれ。

「いいよ、気を使わなくても」

「私、しろくまさんに気を使ったことなんて、一度もありませんよ?」

 そうだったね。

 訂正しよう。

 少しは、気を使ったらどうだ?一応さ、俺の方が年上だし。知ってるよね?

 でも芽依さんは、うきうきしていた。

 だいたい、何だ、あわたんって?

「お返しするよ」

「本当ですか!」

 何だ、その反応は?

「ああ、何か手ごろなのを」

 芽依さんはさっそく、店内で物色をし始めた。俺の意見というか、お願いを無視して。

「しろくまさん!」

「はいはい」

「これがいいです!」

「指環?」

「はい!」

「ふ~ん、こんなのがいいんだ。いいよ」

「やったあ!!!」

 俺はその指輪をレジで会計し、芽依さんに手渡した。

「着けてください!」

 ああ、そういうことね」

「はいはい」

 俺は袋から指環を出し、芽依さんの指に着けようとして、ちょっと戸惑った。

「あの~、芽依さん?」

「はい!」

「何で、一本だけ突き出しているのかな?」

「この指に、はめてください!」

 薬指をこれ見よがしに突き出しているけど、ちょっと変じゃない?

「しろくまさん!早く!」

「ええっと」

 芽依さんは薬指をぐいぐい突き出してきたので、俺は仕方がなくその指に指輪をはめることにした。

 というか、人目が気になったので。

「んんんんん~!!!」

 芽依さんが感極まったというか、ぷるぷる震えていた。

 一体、何が始まる?

「芽依さん?」

「いやったあ!!!!!!!!!!」

「ちょ、ちょっと、芽依さん?」

「これで、婚約成立です!」

 はあ?君、何を言っている?だいたい、土産物店の指環で、何をほざいているかな?

「芽依さん、あのさ?」

「しろくまさん!私、一生尽くします!」

 尽くす前にさ、人の話を聞こうよ?言えないけど。

「しろくまさんに後悔させません!」

 いや、すでに後悔しているけどね。

「ほら、次に行きますよ!」

「ああ、もう好きにして」

 しまった!迂闊だった。

「本当ですね?」

「いや、今のは言葉の綾というかね」

「大丈夫ですよ、食べたりしませんから」

 いや、そのにやりと笑う顔を見ると、信じることが出来ないんだけど。

 まあ、いい。これ以上、ひどいことにはならないだろう。


 この時の俺は、心底そう信じていた。


 はずはなく、もうどうでもいいやと少し投げやりになっていた。


 

 

 ふたりでてくてく歩きながら橋を渡り、目的地の江ノ島に到着した。


 さて、話に聞くエスカーで頂上へ向かうのかと思いきや、彼女は江ノ島の入口にある瀟洒な建物に入っていこうとした。

 なんだ、ここは?

「しろくまさん!早く、早く!」

「ああ、今行くよ」

 そこは、江ノ島アイランドスパという施設らしい。

 スパ?

 縁がないなあ。

「ほら!」

 俺が逡巡していると、しびれを切らした芽依さんが俺の背中をずんずんと押し、無理矢理館内に入ることになった。

 こういう場所こそ、同級生と行けよと思う。

 だいたい、スパねえ。俺にどうしろって、言うんだ?

 もう、どうでもいいや。

 ここを早く消化して、とっとと帰ろう。

 

 その時の俺は、本当に気楽だった。だって、まだ今日中に家に帰るって、本気で思っていたし。いや、今日帰れなくなるなんて、考えもしなかった。



 館内はごった返しているほどではないけど、そこそこ混んでいた。

 いずれも、カップルばかりだ。

 バカップルめ!いや、俺たちもそうなるのか?

 いやいや、少なくとも俺たちは親子に見えるだろう。

 きっと、そうだ、そうに違いない。

「しろくまさん、私、入館の手続してきますね」

「ああ、俺も行くよ」

「大丈夫ですよ、ちょっと待っててください」

「ああ、お金、お金」

「後でいいです!」

 芽依さんはすたすたと、カウンターに向かった。

「やれやれ」

 暇を持て余した俺は、館内の案内図を見ていた。

「もしかして、ここは日帰り入浴施設か?」

 嫌な予感がするけど、ここが日帰り入浴施設なら、俺は一人でゆったりお湯に浸かれるだろう。

 それはそれで、贅沢な時間を過ごせそうだ。

 これはいい!温泉サイコー!おひとり様万歳!


 男女混浴禁止万歳!


「しろくまさん!お待たせ!」

「ああ、ありがとさん」

「はい、これ」

「うん?」

「タオルと水着です」

「え?なに?」

「タオルと水着です」

「何で?泳ぐの?」

 お風呂では泳いではいけませんって、芽依さんは習わなかった?

 そういやあ、お風呂で泳いではいけないって、俺はいつ習ったんだ?

「混浴ゾーンに入るには、水着着用が必要だからです」

「ああ、そう。混浴ねえ」

 聞いてない。いや、そもそもここに来るまで、俺には何も情報が与えられなかったけど。

 残念だ。ひとりでゆったりした時間を、過ごすはずだったのに。

「あ、しろくまさん、少しえっちな顔をした」

「え?本当?」

「嘘です!さあ、着替えてきてください。ここって、富士山も見えるんですよ」

「ああ、分かったよ」

 一体、いま何が起きている?

 何で水着なんだ?

 というか、混浴ってなんだ?

 

 俺は、何をしている?


 

 脱衣所と言うべきか、更衣室と言うべきか、俺は芽依さんに渡された水着に着替えた。


 正直、恥ずかしい。お腹出てるし。


「俺は、何をしている?」

 最近、独り言が増えたなあと思いながらも、それも仕方がないと思う。

 だいたい、俺は何を間違えたんだ?

 女子高生ときゃっきゃっうふふで混浴なんて、とてもではないが出来ない。


「諦めるか」

 俺は何かを悟ったように、混浴ゾーンに向かった。


 混浴ゾーンは意外に広く、泳げそうな気もするけど、皆ぷかぷかお湯に浸かっている。

 どうも、不思議な雰囲気だ。

 水着を着てお風呂なんて、違和感しかない。

「よく、こんなのに入れるなあ」

 そんなことを考えていたら、後ろからタックルされた。

 芽依さんだった。

「おまたせ!」

 セパレートの水着を可憐に着る女子高生は、それだけで絵になる。

 とっても、キュートだと思う。

「ねえねえ、しろくまさん!感想は?」

「うん、まあまあだね」

 嘘です、本当はよく似合っています。言わないけどね。

「ぷ~、それだけ~?」

「はい、それだけです」

「しろくまさんのいじわる~」

「はい、俺はいじわるです」

「でもでも、とっても優しいんですよね。私に婚約指輪をくれたし。私、可愛いお嫁さんになるのが夢だったんです!」

 何と答えればいいのやら。

 どう答えても、俺が不利になることは確定のようだし。

 というか、くっつきすぎでは?

「芽依さん、少し離れて」

「どうして?」

 そのきょとんとした目で、俺を見るな、胸を押し付けるな。動揺するだろう。

「ここは公共の場です。節度ある行動で、かつ慎み深くお願いします」

「しろくまさん、教頭先生みたい」

 教頭先生にエールを贈ろうかな?というか、教頭先生の指導がなってないから、この娘はこんな風になったんじゃないのか?

 学校にクレームを付けようか?いや、これは自爆行為か、自殺行為か。

 どっちにしろ、アウトだ。

「しろくまさん!入りましょうよ」

「ああ、はいはい」


 世間の人達は、俺たちをどう見ているんだろうか?


 どう見えているんだろうか?


 

 もう、どうでもいいか。



 ああ、やっぱりお風呂は温かいなあ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ