表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/47

第十八話  しろくまさんとクレープ

「私、疲れました。しろくまさん!私の為に、クレープ買ってきてください!」

「え?」

「え?ではありません。買ってきてくれたら、しろくまさんを許します!私、寛大な女の子です!」

 かんだいって、どういう漢字を当てればいいのかな?少なくとも、一般的な意味で使う、寛大ではないはずだ。聞き返したいところだけど、やめておこう。

 そうだよ、そんな面倒な事を考えてどうする気だ。さっさと用事を済ませることが、一番合理的なんだよ。

 ねえ、そうでしょう?

 そうだよね?

 そうだと言って。

 くじけそうだから。

「ええっと、では何がいいかな?」

「しろくまさんが、疲れ切った最愛の女性に元気になって欲しい、是非、食べて欲しいって思う、そんなクレープです!」

 何だ、そりゃ?難易度高過ぎじゃないか?

 いや、そもそも誰が疲れ切ったって?誰が最愛の女性だって?

 疲れているのは、俺の方だ。

 年だし。

 君は、敬老精神が無いのか?

 俺はまだ、高齢者ではないけど。

「真面目に、お願いしているのかな?」

「私、いつでもどこでも、どんな時でも大真面目です!」

「ああ、そうだったね」

 大真面目に遊んでいるんだったね。

 それも、全力で。

 

 おじさんはさあ、本当に疲れたんだよ。君らのパワーに、ついていけないんだよ。


 俺は首をフリフリしながら、女子が集まっているクレープ屋に向かった。


 すると、そこは整然と並んでいる訳でもなく、それでいて何となく秩序がある。

 どこが行列の最後尾か、俺にはよく分からなかった。

「すみません」

 俺に声を掛けられて、びっくりした様子の女子だった。何となく、こわばった表情だった。

 上から下まで、観察された。

 きっと、俺がそれをやったら、セクハラなんだろうなあ。

 それにしても、その態度は傷つくなあ。まあ、これが普通か。

「な、なんでしょう?」

 それぐらいで、警戒しないでよ。

「行列の最後尾って、ここですか?」

「違います」

 そう言い放つと、女子はスタスタとこの場を立ち去ってしまった。

 ええ?

「まずいな、営業妨害になっている」

 俺はしばらく、客の流れを観察することにした。観察していたら何となくだけど、法則めいたモノが見えてきた。これなら、いけそうだ。

 と俺が動き出す前に、しびれを切らしたのだろうか、いつの間にか芽依さんが俺の側にやってきた。

「しろくまさん!」

「ああ、はい」

「酷いです!」

「何が?」

「私ってモノがありながら、他の女の子をナンパするなんて!」

 ああ、そうだったね。そういうお遊びだったね。

 でもさ、こういった場所のローカルルールがよく分からないんだよ。

 俺、スタバみたいなところって、本当に苦手なんだよ。

「悪かったよ」

 正直、いちいち反論するのも、面倒だ。

 日本人はすぐ謝るっていうけど、これが一番の処世なんだと思う。

 だって、いちいちやり取りするのって、面倒じゃん。

 本当のところ、何もかも面倒だし。

 だいたい、俺はなんで、こんな場所にいる?

 俺は誰?ああ、芽依さんのしろくまだったか。

 ここに居るのは、城田国彦ではないのか。

「正直だから、許します!」

「そりゃどうも」

 芽依さんは俺にはよく分からない列に並び、クレープをひとつ買ってきた。


「はい!あ~ん」

 小さなスプーンで、そのよく分からない盛りだくさんのクレープを掬って、俺に差し出してきた。

「要りません。ダイエット中です」

「えええええ?せっかく、妻が一生懸命しろくまさんの為に、頑張って買ってきたんですよ?一口ぐらい、いいじゃないですか?」

 君自身の為じゃないのかな?

「とにかく、君一人で食べなさい」

「芽依」

「ああ、そうだったね。芽依」

 面倒なので、言われた名前を敬称無しでそう呼んだら、何故か彼女は俯いていた。

「しろくまさん」

「はい?」

「卑怯です!」

「ええっと、何が?」

「そんな、急に愛する俺の芽依なんて」

 スマンけど、俺がいつそんなことを言った?妄想?幻聴?

 そうか、きっと脳内変換に違いない。

 ちゃんと、アップデートしてる?

 言語変換エラーが起きているよ?

 たまにはさ、クリーンアップした方がいいと思うよ。

「嬉しいです」

「付く、付くよ!」

 芽依さんはクレープを手に持ったまま、俺に抱き着いてきた。

「しろくまさん!好きです!」

「ああ、もういいからクレープ食べなさい」

「は~い」

 意外に素直に、身体を離してくれた。

 芽依さんはニコニコしながら、クレープと言う名前の物体を食べていた。

 それを眺めている俺は、何をしにここに居るんだ?


 ああ、そうだ。


 芽依さんのおもちゃになる為だった。


「は~、いい年して何をやっているのやら」

「しろくまさん!」

「はいはい」

「だいすきで~す!」

「はい、俺も大好きです」

 ・・・・・・・・・・・しまった。

 つい、何も考えずに反射的に返事をしてしまった。

「め、芽依さん?あのね、今のは冗談だからね、ね?聞いてる?」

「ありがとうございます!!!やっと、正直になってくれたんですね!!!」

 ええっと、ねえ、どうしたらいい?正直って言葉を、ああ、もうどうでもいいか。

 きっと、最新版の辞書に、そう書いてあるんだろう。

 女子高生御用達の奴に。

「嬉しいです。やっと、やっと思いが通じ合うなんて。私の努力が、気持ちがしろくまさんに届いた!!!」

 思いではなく、重いの間違いだろうね、きっと。

 届くと押し付けるを、混同しないでねは、言わないでおこう。


 はあ~。もう、どうでもいいです。

 だからね、通行人の皆様、お願いだから俺をじろじろ見ないで。

 警察に通報しないでくださいね。


 最近、ため息吐くことが多いなあ。

 

 クレープを食べ終わった芽依さんは、再びあのファストファッションの店に戻ることにしたようだ。

「ほら、行きますよ!」

 芽依さんが俺に手を差し伸べてきたけど、俺はよいしょっと、一人で立ち上がった。

「む~、しろくまさんのいじっぱり!」

「はい、大人は意地っ張りなモノです」

「しろくまさん」

「はい?」

「行きますよ!ぷんぷん!」

 ずんずん歩き出す芽依さんの後姿は、どう見ても子供だった。


 そうだ、子供だと思えばいいんだ。


 ・・・・・・・・・。


 余計、まずいんじゃないのか?



 

「う~ん」

「ねえ」

「ん、ん~」

「もう、いいんじゃない?」

「静かに!」

「ああ、はい」

 ファストファッションの店に戻った俺と芽依さんは、俺の肩に次々に服を当ててきた。

 どれもこれも俺には似合わないけど、何で白っぽいのばかり選ぶんだ?

「う~ん、難しいなあ」

「諦めよう」

「諦めたら、そこで試合終了です!」

 それ、どこかで聞いたことがあるけど、ちょっと使い方を間違ってない?

 ああ、そう、聞いてませんよね。


 気が付いたら、俺たちは3時間も店内に居た。

 女子の買い物は長いとは聞いていたけど、ここまでとは思わなかった。

 正直、女子高生の体力を甘く見ていた。

 俺が先に、音を上げた。


 情けないなあ。

 

「そろそろ、休憩しない?」

「もうちょっとです」

「お腹空いたよ」

「私もです」

 偶然だねえ。でも君はさ、さっきクレープを食べたばかりだよね?

 ああ、俺もクレープを食べておけば良かったのかな?

 備えあれば、憂い無しか。

 でもさあ、どう備えればいいんだ?


「うん!やぱっり、これにしましょう!」

 最初に選んだ、真っ白なジャケットだった。


 

 この3時間は、いったい何だったんだ?



「しろくまさん!」

「はい、なんでしょうか?」

 まだあるのか?もう、帰りたいんだけど。

「来週のお休み、水族館に行きませんか?」

 芽依さんはハンバーガーを頬張りながら、俺に訊いてきた。

 ファストファッションの次は、ファーストフードだ。

 ファーストフードの割りに、注文してから出てくるのが遅い店だけど、ここのシェイクは美味しいからやめられない。

 そんな俺は、シェイクを飲みながら芽依さんに聞き返した。ちなみに芽依さんは、何故か紅茶だった。正直、ファーストフードで紅茶を飲む人が居るなんて、ちょっと驚いたけど。

「何で?」

「だって、動物園ではみっともない姿を、しろくまさんに見せちゃったんですから」

「そう?」

「はい。私だって、もっと可愛い自分を、しろくまさんに見せたかったのに」

 いや、十分可愛かったと思うけど?

 いや、欲しいのは言葉か。つくづく、女子は面倒だなあ。

「芽依さんは、そのままでも十分可愛いと思うけど」

 すると、芽依さんは震えていた。また、抱き着いてくるかな?

 どうかわすか?

「しろくまさん」

「はい?」

「恥ずかしいから、あっち向いててください!」

 抱き着いてくることを警戒していたけど、どうも違ったようだ。

「ああ、そうだね」

 俺は芽依さんの反対側に、顔を向けた。

 俺の視線の先には雑踏があり、若いカップルがそこかしこで闊歩していた。

 昔なら、こういった連中に対してむかつくなあと思ったけど、今はそんな気分にはならない。

 だって、俺もその一員になっているからだ。なっているよね?ただの不審者かな?

 とは言え、命短し恋せよ青少年と、今は純粋に思う。

 恋をするには、若さが必要だからだ。

 俺にはもう、そんな若さが無いからだ。

 だから、芽依さんを突き放せないのだろう。

 彼女が、輝いて見えるから。

 眩しいから。

 そんなことを考えていてら、急に甘い匂いと共に、頬に何かが触れた。

「え?」

 芽依さんの顔が、すぐ横にあった。

「なにを?」

「ふふっ」

 芽依さんの頬が赤く染まり、とても愛らしく笑っていた。

「もう。しろくまさんのえっち!」

 ええっと、何がどうなった?というか、なんで俺がエッチなのか?


「私、帰ります!!!」

「え?」 

 芽依さんが、走り去るように帰って行った。

 俺は、取り残された。

 若者の街に。

 いや、片付けてよ。

 青春って、やっぱり怖いなあ。

 俺は二人分のお盆を片付けようとしたら、店員さんが片付けてくれた。


 ありがたいけど、急にやることを無くした俺は、何だか不思議といたたまれなくなった。



 俺はまるで、迷子になったような気分になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ