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第十七話  しろくまさんと洋服屋さん

 よく考えたら、この三連休ずっと芽依さんと一緒だ。

 普通に考えて、あんなに若い子が俺みたいなおっさんと貴重な休日に一緒に過ごすこと自体、ちょっと変だ。

 彼女、もしかして暇なのか?


 天下の女子高生なのに?


「しっろくっまさ~ん!!」

 だから、声が大きいって。

「し~」

 芽依さんは首をちょこんと横に傾け、いかにもなんでしょうという感じだった。

 可愛いけど、可愛ければなんでも許されると思うのは、まあそう思うこと自体がよくないか。

 可愛いは無敵だったか、何だったかな?

 よく、分からん。

 だから俺は、早々に諦めることにした。

「もう、いいです」

「しろくまさん!今日の私の格好は、どうですか?イケてますか?」

 イケてるって、君はいつの時代の人間だね?

 今日の芽依さんはいつものフェミニンな格好と違って、どこかボーイッシュという感じだった。

 長い黒髪もまとめてキャップに収め、トップスは白いシアー素材のインナーの上に黒いシャツを羽織り、ボトムスはデニムのパンツと、いつものお嬢様なファッションと違って、どこか活動的な感じだった。耳に付けている小さなイヤリングが、ちょっといい感じだった。

「うん、よく似合うよ」

「えへへへへへへ」

 芽依さんは、はにかみながら鼻をこすり、実に嬉しそうだ。

「それで、今日はどこに行く気だい?」

「ファストファッションのお店です!」

「ええっと、芽依さんのお洋服を買うのかな?」

「しろくまさんのです!」

「ああ、やっぱりね」

 ちなみに今日の俺のファッションは、ああ、別に興味ありませんよね。

 ええ、分かってますよ、どうでもいいって。

「では、参りましょう!」

 芽依さんは俺の手を取ると、ずんずんと歩き出した。

 俺はと言うと、まさに引きずられながら歩くというより、どこかに連行されているような感じだった。

 いや、おかしいだろう?

「ちょ、ちょっと、そんなに引っ張らないで」

「時間は有限です!さあ、私たちの未来の為に、急ぎましょう!」

 すまん、本当に何を言っているのか分からない。


 ああ、聞いても無駄か。


 そんな不毛なやり取りをしつつ、とあるファストファッションのお店に到着した。

 彼女には、きっと悪気は無いんだろうけどさ、少しはさ、頼むから俺に気遣ってくれよ。

 人の目が、気になって仕方がないんだ。

 休日の繁華街なんて人の目だらけだし、ましてやこんな洒落た洋服店なんて、出来れば踏み込みたくないし。

 俺はスタバとこういう洋服屋には、絶対に行かないって決めているんだ。

 嘘です、ただ怖気づいているだけです。


 そんな普段の俺とは縁の無い店内は、カップルや家族連れでごった返していた。

「俺、場違いだと思うけど?」

「オレって、言ってくれるんですね」

「もう、君の前で取り繕っても、面倒になっただけだよ」

「それって、私に気を許してくれたってことですよね?」

「まあ、そうなるかな」

「やったあ!!」

 いきなり、抱き着いてきた。

 周りの人たちが俺たちを、見ていたと思うのは自意識過剰かな?

「だから、そういうのやめなさい。みんな、見てます」

「見たい人には、見せつければいいんですよ。誰も私たちの間を、引き裂くことなんて出来ないんです!」

 それ、何のお話?

 少女漫画?

 それともドラマ?

 元ネタを言いなさい。クレーム付けるから。

 青少年に、悪い影響を与えていますよと。

 でも、何で青少年なんだ?少女はどう呼ぶ?

「とにかく、これじゃ歩けないから、離れなさい。迷惑になるから」

「は~い」

 芽依さんは俺からすっと離れたと思ったら、今度は腕を絡めてきた。

「あの~」

「はい?」

 目をキラキラさせながら、俺を見上げる芽依さんの顔を見ると、なんだか無駄な抵抗をしている気分になる。力も抜けてきた。

 そう、もう無駄なことはやめよう。

 疲れるから。

「それで、何を買うの?いっとくけど、予算はあまり用意してないよ」

「私が出しますから、しろくまさんは安心してください!」

「はい、却下」

「えええええ?何で?」

「年下に、しかも女子高生に洋服を買うお金を出してもらう程、俺は落ちぶれていません」

「何ですか?富める時も貧しき時もって、あの時誓ったじゃないですか?」

 いつ、そんな誓いをしたのかね?ああ、どうせまた、何かの物語かな?その物語の結末を、俺は是非知りたいね。喜劇だといいね。

 結末が悲劇だと、正直やりきれないんでね。

 そういうのはね、もううんざりなんだよ。

 いや、芽依さんなら力づくで、悲劇を喜劇にするだろうけど。

「とにかく、お金は大事にしないといけません」

「確かに、しろくまさんの言う通りです」

 おや、珍しく素直だ。

「将来の結婚費用の為に、お金は大事にしないとですよね」

 ああ、そういうことか。まあ、でもお金は大事だし、そのお金の最終的な使い道は、違うことにだって使えるしね。


 お金に色は無いし。


「諏訪さん?」

 芽依さんがビクッとした。こういう反応の時は、少し警戒しないといけなかった。でも、杞憂だった。

「諏訪さんですよね?諏訪芽依さんですよね?」

 俺と芽依さんが振り返った先に居たのは、年恰好は芽依さんとほぼ同じぐらいの、恐らくは女子高生だった。でも、どこかで見たことのある子だった。思い出せないけど。

「牧田さん」

「ああ、やっぱり。いつもの格好と違うから、別人かと思ったよ」

「牧田さんも、ここで何を?」

「何をって、お洋服を見に来たんだよ。そういう諏訪さんは?」

「私もです」

「ああ、そう」

 牧田さんと呼ばれた子は、俺をチラッと見た。それは胡散臭いモノでも見るような目でも無ければ、どこか怪しい人を見る目でもなかった。ただ、見ているだけだった。

 それはそれで、緊張するな。


 向けられる悪意に慣れていると、普通の視線がかえって怖い。


 そういう訳で俺は軽く会釈をしただけで、何も話さなかった。というか、何を話せばいい?

「もしかして、城田さんですか?」

「はい?」

 何で、俺の名前を知っている?どこかで会ったことは、間違いないのかな。まきたさんと呼ばれる女子の方は、俺のことを知っているんだから。

 でも、どうしても思い出せない。

「あの時は、お世話になりました」

「ああ、どうも、ご丁寧に」

 ダメだ、本当に思い出せない。どこかで会ったような、そんな気はしたけど。年かな?

 と言うか、俺はあなたに何の世話したの?

 思い出すまで、適当に話しを合わせよう。

 ここは、社会人スキルが試される場面だ。

「ところで、諏訪さんとどのようなご関係ですか?」

 と思ったら、いきなり核心を突かれた。

「ええっと、どう説明したらいいのかな」

「前は遠縁とか、婚約しているといったことをおっしゃっていましたけど?」

「はい!結婚を約束しています!」

 すまん、これ以上話をややこしくしないでくれるかな?

 というかさ、いつ、どこで、どうやって結婚の約束をしたのかな?

 俺さ、覚えていないんだけど?

「本当ですか?冗談と思っていましたけど?」

「もちろん、冗談です」

「ひっど~い、私は本気なんです!」

 本当にすまんけど、もう黙っててくれるかな?

「そうですよね、いくらなんでも年が離れすぎていますよね」

「その通り。ええっと、まきたさんだったかな?あなたの言う通りだと思うよ」

「しろくまさん!浮気する気ですか!」

 おいおい、どう見ればそうなる。

「あははははは。諏訪さん、心配しなくても大丈夫よ。私はこう見えても、おじさん趣味はありませんから」

「しろくまさんは、おじさんなんかじゃありません!」

「ああ、はいはい。そうですね」

「とにかく、休みの時間を邪魔してはいけないから、何だったら君たち二人でゆっくり話でもしたらどうかな?積もる話でも、あるんじゃないのかな?私は、もう帰るから」

 これはこれで、絶好のチャンスだ。芽依さんをまきたさんに押し付け、もとい、預けて俺は早々に家に帰る。

 だいたい、芽依さんには年相応の友達と交際すべきで、こんなに年が離れているオジサンなんかと、一緒に居ていいはずはない。

 だいたい、話しが合わない。

 いや、これは合う合わないの問題じゃなかったか。

 趣味の問題か?

 そうか、芽依さんの趣味なのか?

「いえ、私はもう行きますので、おふたりでごゆっくり」

「え?」

「しろくまさん、何ですか、その、え、は?」

「いや、何でもないけど」

「む~」

 そんなに、むくれなくても。ああ、まきたさんは店の外に出て行ってしまった。

「しろくまさんは、ああいう髪の短い、大人っぽい女性が好きなんですか?」

「大人っぽかった?」

「違うんですか?」

「俺から見たら、芽依さんもまきたさんも変わりがないよ」

「牧田さんは、大人っぽい素敵な女性なんです!」

 ああ、そうかい。俺には、どうでもいいけどね。

 すると、芽依さんは俺を置いて、すたすたと店の外に出てしまった。

 店内にひとり置いて行かれた俺は、芽依さんを追って店を出ることにした。

 このままこんな場所に一人で居たら、間違いなく不審者だろうから。


 いや、俺を置いて行かないでよ。


 芽依さんは早足で歩いていたので、俺も合わせて歩いた。決して、追いついて並ばないように。

 すると、芽依さんは急に立ち止まり、こっちを振り返った。

 俺は驚き、キュッとその場で立ち止まって芽依さんを見つめた。

 そういえば、こんなのは初めてだ。


「私、気分サイアクです!責任取ってください!」

 ホント、面倒だ。今度は、何の遊びだい?

 でも、お遊びでも付き合わないとダメだろう。

 付き合ってあげなきゃって、そう思う俺が居る。

 ああ、ダメなのは俺の方かな?

「どうすれば、許してくれるかな?」

「私、甘いモノが食べたいです!」

「ああ、そう。なら、どこかに入ろうか?」

「あそこがいいです!」

 芽依さんが指を差した方向にあったのは、クレープ屋だった。


 それも、若い子でごった返している、俺にとっては最大限難易度が高い店だった。


「しろくまさん!買ってきてください!」


 ああ、やっぱり。


 これが、罰ゲームか。


 俺、浮気なんかしてないんだけどね。


 そもそも、俺は君と付き合ってないんだけど。

 

 ねえ、いつ俺が君と、結婚の約束をしたの?


 はあ~、もう面倒だ。若い女子は面倒って聞くけど、本当だったなあ。


 とは言え、俺と芽依さんの関係って、一体何なんだ?


 俺と芽依さんの関係を、どう定義づければいい?



 その前に、俺、生きて帰れるかな?

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