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第十三話  しろくまさんと罪と罰と

「と、とにかく、落ち着いてください」


「所長さん、お願いですから、私の子供を、大事な娘を帰すようにこの人に言って下さい」


「ほら、親御さんもこのように心配していらっしゃるんだ。城田さん、お嬢さんを解放しなさい」


「所長、私には話が見えてきません」


「この期に及んでも、君はしらばっくれるのか?」


「ですから、概要をお願いします」


「もういいです。警察に動いてもらいましょう。貴社にも、それなりの責任を取って頂きます」


「ちょ、ちょっと待ってください。まだ帰さないとは、彼は一言も言っていませんよ?」


「でも、さっきから誤魔化すばかりで誠意がありません。これでは、進展がないじゃないですか?」


「城田君。いくら君があの子と仲が良くても、彼女は未成年なんだ。法的にも問題ですよ?」


「もしかして、私が教育を担当した、あの女性アルバイトの話ですか?」


「さっきから、そう言っているじゃないか?」


 いや、初めてだけど。きっと、パニックに陥っているんだろう。冷静さを欠いているから、話の要領を得ないのだろう。


 彼女が未成年だって?


 俺はそれすら、知らなかった。だいたい歓迎会で、彼女は飲酒や喫煙をしていたけど?というか、本当に16歳だったのか?


 たばこの吸い方は、実に堂に入っていたけど。


 いや、俺だけが知らなかったのか。


 俺だけが、彼女のプライバシーに踏み込もうとしなかったから。


 だから、俺だけが何も知らなかったのだろう。


 そうか、彼女はまだ16歳で、行方知れずなのか。


 だから、こんなに騒いでいたのか?日中に働いていたのだから、彼女は中卒か?いや、夜間高校に通っている可能性もあるかな?いずれにせよ、普通の子ではないだろう。


 あれだけ堂々と人前で、お酒を飲み、しかもたばこを吸っていたのだから。


 そうか、あの子が居なくなったのか。


「所長」


「何だ」


「もしかして、こちらの方のお嬢さんの行方が、分からなくなったのですか?」


「はあ?何を今更?」


「今さらも何も、私にはそんな情報が来て居ませんよ?」


「必要ないだろう?だって、君の家に居るんだろう?」


 ああ、やっぱりそうか。そうなるのか。


「何か誤解があるようですが、私の家には誰も居ません。私は一人です」


「嘘を吐くな、君とあの子が一緒だったと、見たという人が居るんだ」


 誰だ、それ?だいたい、あの子と一緒に居たというのなら、ライン長も同じだろう。彼女と一緒に、仲良く昼飯食ってたし。


「所長、私は彼女の指導役を仰せつかりましたけど、それは仕事上の話で、プライベートには一切関りがありません」


「君が一緒に居たって、私はそう聞いたんだ」


「誰ですか、そんなデマを流すのは。いずれにせよ、彼女が行方知れずなら、他を当たるべきでしょう」


 実際、16歳なら16歳の女の子らしい交友関係があるはず。そっちを当たる方が、手っ取り早いはず。


 しかし、現役の高校生でなかったら、交友関係は公式には分からない。


 学校に問い合わせるという、ある種の禁じ手が使えないからだ。


 でも、行方知れずって、どういうことだ?


 事件ということか?


 そうだ、あれだけ可愛い女の子だから、ストーカーみたいな奴が居ても不思議ではない。


 ああ、もっと彼女のプライベートな部分に、踏み込んでおけば良かった。


 もしかしたら、彼女から何か、俺に相談してきたかもしれない。


 男に付きまとわれていて、実は困っていると。


 そうすれば、こんなことにはならなかったかもしれない。


 まったく、彼女の周辺の情報が、一切皆無だ。


 どこで何をしているやら。


 無事だといいけど。


「困った、まるで手掛かりがない」


「あんた、まだ誤魔化すのか?」


「お願いよ、娘を帰してください。何でもしますから。お金が必要なら、いくらでも払いますから」


 おいおい、これでは俺は誘拐犯じゃないか。いや、すでに誘拐犯扱いなのか。


「落ち着いてください。私はこの件では、本当に無関係です。ですが、一時とはいえ娘さんを指導した関係ですので、私も彼女を心配しています。他に、心当たりはないんですか?」


「最低」


「はい?」


「最低!最低!最低!最低!最低!最低!最低!この変態!!犯罪者!!!」


 ダメだ、興奮しているせいか、すっかりパニックになっている。所長も狼狽えているだけで、何もしてくれない。まずいな、この状況は。


「娘を返して!」


「ですから、返すも何もありません」


「おい!あの子はまだ16歳なんだぞ?」


「それも、今知りました。とにかく、私も心配しているんです」


「あんた、何をやっているんだ?娘を汚して、どう責任を取るつもりだ!」


「自分は、何もしていません」


「お前は、変態だ!未成年を監禁して!」


「違います、そんなことはしていません。娘さんがどこに居るのか、誰と会っているのか自分は一切分かりません」


「このロリコン!お前みたいな奴は、死刑になってしまえばいい!!」


「だから、本当に娘さんが心配なら、他を当たってください」


「警察に通報してやる!」


「だから、落ち着いてください」


「お前は終わりだ!後悔しろ!」


「ええっと」


「犯罪者め!」


「私は」


「もういい、城田君」


「所長」


「我が社もこの件を重大視していますので、最大限協力を惜しまない方針です」


「だったら」


「このように、お嬢さんを匿っている城田の説得は失敗しました。後は、警察に頼るしかありません。まずは、警察に相談しましょう」


「この変態を警察に突き出せば、それで終わります!娘は助かります!」


「だったら、私も警察に同行します。そこで、自分の身の潔白を証明します」


「警察を誤魔化せると思うな!この変質者!!社会の敵!!!」


「はい、おっしゃる通りです。警察を誤魔化せる者は、居ないと信じます。それに未成年の女子をかどわかすような奴は、ご両親のおっしゃるように社会の敵です。自分もそんな奴は、大嫌いです。だから、ここは合理的に動きましょう」


「城田君、もう黙りなさい」


「しかし」


「黙れと言っている。君のせいで、会社がどれだけの迷惑を被ったか、分かっているのかね?」


「私だって、迷惑を被っています」


「明日、辞表を出しなさい」


「しかし」


「いいね。会社に迷惑を掛けたんだから、責任を取りなさい」


「はい」


 ダメだ、これは。俺の話に、誰も耳を貸してくれない。


 この状況を作ったのは、俺なのか?そうか、コミュニケーションをまともに取らなかった、俺のせいなんだ。


「今日はとにかく、自宅に戻りなさい。それで、彼女とよく話し合うんだ」


 俺の家には話し合うような人なんて、誰も居ませんけどねとは、何とか飲み込んだ。


 どうせ、何を言っても無駄だろうから。


「失礼します」


 もう、どうにも出来ないだろう。


 俺の背に向けて、何か罵声を浴びせてきたようだけど、最後はどうも泣いていたようだ。


 泣きたいのは、俺の方だ。


 しかし、身内のしかも娘の行方が分からないのだから、親がパニックになるのも仕方がないのかもしれない。


 俺は会社を後にして、帰宅することにした。


 いっそ、このまま警察に行くか?


 いや、更に面倒になる。


 昔、言われたなあ。


「お前は、仕事だけしてりゃあいいんだ!」


「お前みたいな奴は、結婚する資格はない!」


「人間扱いされたければ、一人前になってからにしろ!」


「そんなに結婚したけりゃ、外国人としろ!」


「お前みたいな男が、日本人と結婚出来ると思うな!」


「身分を弁えろ!」


 あの時は反発したけど、今考えると、的を射た助言だった。


 俺みたいな人間が、女性に近寄ること自体が間違いだったんだ。ましてや、若い女性にはだ。


 今思うと、彼女の指導役を断れば良かったのかな。


 俺が断らなかったから、こうなったんだろう。


 若い女性の相手が出来るって、心のどこかで喜んでいたのかもしれない。


 だから、バチがあたった。


 これが俺の、罪なんだろうか。


 悩んでも仕方がないけど、どうしても考えずにはいられなかった。


「どうしようか」



 家に戻った俺は、とりあえず辞表を書くことにした。


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