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宇宙大戦争

作者: 眞基子

                    (一)


 秋元実日子は、野代亮が来るのを阿佐ヶ谷駅で待っていた。昨日、亮から映画のチケットを貰ったので行かないかとラインがきたのだ。実日子と亮は高校二年生。小、中学校では同級生だったが、高校は各々別の学校に進んだ。会うのは久し振りと言いたいが、家が近所なので時々出会う。

 「よう」

 「もう、十五分遅刻よ、遅刻」

 「相変わらず細かいな。そんなんじゃ高校で嫌われてないか?」

 「うるさいわね」

 「心配してやってんだよ、幼馴染みとして。いや、出来の悪い妹を思ってかな」

 「バカじゃん、何が出来の悪い妹よ、大体同じ歳だし、大きなお世話。ところで何の映画なの?」

 「あれ、書いてなかったか?新宿の映画館でやってる宇宙大戦争っていうやつ。今、すげえ人気の映画だけど知らないのか?ひょっとしてラブコメでも期待してたとか?」

 ちょっとムッとした実日子だが、言い返すのも面倒だし、まあ、いつもの亮だしねと、スルーして映画館に向かった。確かに人気らしく館内は満席だった。

 映画が始まると客席は照明が落とされ、スクリーンは大音響と共にブラックホールが渦を巻き、観客が吸い込まれるような感覚になる。余りの迫力に実日子は目を瞑り、亮の腕にしがみついた。


                    (二)


 その時、人類の預かり知らぬところで、巨大な宇宙大戦争が動き出そうとしていた。宇宙には、人知では計り知れない巨大な空間が広がっている。そう、太陽系以外にも解明されていない銀河系が数知れずある。

「艦長、総合司令室にある宇宙モニターの端にある太陽系で、異変が起きています。どうやら太陽系の中にある小さな惑星、地球が狙われているようです」

 副艦長のガレが、艦長室に入ってくるなり声を上げた。艦長のグラニットは大柄で、ロマンスグレーの巻き毛にいかつい顔立ち。きりっとした大きな目で睨まれたら縮み上がりそうだ。ガレは若くスラッとした体型だが以外と筋肉質で頭脳明晰、グラニットから心服の信頼を得て、副艦長の座に付いている。

 「そんなに焦って話すことでもなかろう。たかだか、端っこにある太陽系の小さな惑星だろう?どこの艦隊が狙うと言うのだ」

 グラニットは、ちらっとガレに目線を向けただけで大して興味を示さず、ゆったりとしたソファにふんぞりかえって言った。

 「しかしながら、その惑星に目を付けているのが、軍艦シュート号のダストロン人ですが」

 ビックバンにより誕生した大宇宙には、ダストロン人初め、いくつもの宇宙人がいる。それら宇宙人を束ねているのが、グラニットを長とするモホロヴィチッチ人である。無限に広がる巨大な宇宙には、太陽系を初めとする多数の銀河系の集団があり、それらに目を配り管理するのは容易なことではない。この宇宙の掟を守らせねば、大宇宙の崩壊に繋がりかねない。ちっぽけな惑星が自滅するのはどうでもいいことだ。実際、今まで惑星が自滅していくのは、数え切れないほどあった。ただ宇宙人が、その惑星の崩壊に関わってはいけない。これは宇宙人の、いや宇宙の掟である。

 「何だと。その事を早く言え。宇宙の覇者たる我々、モホロヴィチッチ人のテリトリーは大宇宙すべてだ、それを承知で事を起こすとは。

しかし、なぜ地球を標的にしたのであろうか。消滅させるなら月ほうが手軽ではないのか?余計な人類もいないことだし。しかし、地球にしろ月にしろ宇宙の掟を破る者を見過ごすことはできん。すぐにメカニックエンジニアのトルーシに調べさせ、詳細を報告しろ」

ガレは慌てて艦長室を出ると、急いで総合指令室に向かった。総合指令室は、この艦船の心臓部で、宇宙を巧みに運航する要だ。

 モホロヴィチッチ人は、巨大戦艦マントル号で、常に宇宙の平和を維持する為に監視している。ダストロン人はその平和を阻害し、モホロヴィチッチ人から巨大な宇宙を奪い取り、ダストロン人が宇宙の覇者となるべくことを画策。ダストロン人の艦船はマントル号に比べようもないほど小型ではあるが、その分小回りが利く。その手始めに、モホロヴィチッチ人の監視の目を搔い潜って、太陽系の中で蠢いている。地球や月、土星や火星など幾多の惑星を消滅或いは手中に収め、最終的には太陽を我がダストロン人が支配する。それを足掛かりに全宇宙支配を決行し、モホロヴィチッチ人から我らが大宇宙を奪還する。太陽系の中のさざ波が大きな波となって、モホロヴィチッチ人に動揺を起こさせれば、いづれ大戦争を決起したおりには、有利に働くと計算していた。

 常に宇宙全体を映し出す巨大モニターなどの機器がある総合指令室で、トレーシは首を捻っていた。片隅にある太陽系の小さな惑星に、ダストロン人が何故触手を延ばしたのか。

 トレーシはガレと共に艦長室に行くと、状況を報告した。

 「確かに、ダストロン人が地球に向けてちょっかいを出そうとしているようです。まだ、具体的な動きはないようですし、地球の人類もダストロン人の存在に気付いておりません。人類は月や火星、木星に向けて血眼になっており、平和ボケしているのです。もっとも、ダストロン人が地球を消滅しようと図れば、多分一瞬で片が付くでしょう。ダストロン人とってゴミのような人類は、どうでもいいだろうし。それより我々が煙たがり、手を出してくるのを待ち構えているんじゃないですか?」

 「つまり我々を挑発して、戦いを仕掛けてくるように仕向けていると」

 グラニットは、苦々しげにトレーシを睨み付けた。

 「でも何故だ。人類など気にせず、堂々と我らに戦いを挑めばよいではないか。我らは、いつでも受けて立つものを。お前はどう思う?」

 グラニットは傍らに立つガレに聞いた。

 「彼らは自分たちから戦いを起こすのではなく、モホロヴィチッチ人が戦いを仕掛けてきたから、しょうがないから受けて立つという、シチュエーションを作りたいのではないかと思います」

 「戦いが始まれば、原因などどうでもいいことだ。要は勝つか負けるかだ」

 「しかし、宇宙人を束ねているモホロヴィチッチ人が理由無く戦いを始めれば、他の宇宙人から反感を買いかねません」 

 「うむ、それではどういう風に戦いを始めるのがよいと思うのか?」

 グラニットは、ガレに意見を求めた。横に佇んでいたトレーシは、遠慮がちに言った。

 「こういうのはいかがでしょう。つまり、正当な理由を付けることです。宇宙の平和を維持する為に監視している我々にとって、一惑星に住む人類であっても、宇宙人の一員である。それを阻害するダストロン人から人類を救い出す使命がある」

 「なるほど。それならば人類を救い出すことが理由で、ダストロン人がおとなしく地球から引き下がれば戦いを挑むことはない。ただ、あくまでも引き下がればの話だ。ダストロン人が戦いを仕掛けて来たら、応戦するまでだ」

 それでもグラニットは、ダストロン人が大人しく引き下がるとは思っていない。

 「いつでも戦闘が開始できるように準備をしろ」

 グラニットは、ガレに命じた。

 「はい、承知致しました」

 ガレは、そう言うと艦長室を出て、総合指令室に戻っていたトレーシの元に急いだ。ガレは腕を組みながらトレーシと共に、巨大なモニターを見つめ、戦闘態勢を整えるべく議論を重ねた。そのとき、トレーシが以外なことを言った。

 「地球人を何人か連れてきてみてはどうだろう?」

 「そんな下らないことを。地球人を?何のために?」

 ガレは、トレーシの横顔を睨むように見つめた。

 「地球人など一瞬でダストロン人によって宇宙の藻屑となって消えるだろう」

 ガレはトレーシに向かって首を振った。

 「地球人に現実を知らしめるためです。たかだか端っこにある太陽系の中にある、小さな惑星の地球だが、人類は我らと同じ宇宙人であり、自分たちの地球は自分たちで守る。勿論、地球人がダストロン人の相手になる訳はない。だから、我々モホロヴィチッチ人が助けの手を差し出す。そうすれば他の宇宙人から称賛を浴びるであろう、どうです、いい案だと思いませんか?」

 トレーシは、自信を持ってガレに言った。

 ガレは、男女二人の地球人を地球から見繕うと戦闘室に連れて来た。上下左右に多数のイスが配置されている。一番後ろにあるイスに亮と実日子が座らさせられていた。二人は緊張した面持ちで、何故ここにいるのか理解していない。ガレは巨大モニターの一つに太陽系を、更に米粒のような地球を写し出した。

 「いいか、これがお前達が住んでいる地球だ。今、ダストロン人がこれを破壊しようとしている、一瞬で。我々は、君たちの地球を守るための戦闘を始める。地球人の代表として、我々と共に戦うのだ」 

 「戦うって?」 

 亮と実日子の声が重なり、訳が分からない表情でガレを見つめた。

 「君たち地球人は狭い地球の中で争い、温暖化などで自然を自ら破壊し、自滅への道を歩き始めている。そんなことだから、ダストロン人の恰好の餌食になるのだ。まずは地球人も宇宙人としての自覚を持つことから、戦いが始まるのだ。そして、その事を若い者たちが地球に戻ってから、地球人に知らしめる。今回はダストロン人を我々モホロヴィチッチ人が退散させよう。しかし、今のままでは、自滅か餌食になるか時間の問題になるだろう。まあ、いつの間にか地球が消えていても我々は気付かぬと思うが」

 ガレは、笑いながら言った。


                    (三)


 亮と実日子は、いつの間にか映画館のイスで眠っていた。

 「なぁ、俺たち映画を見ていたよなぁ。寝ていなかったか?」

 「そうねえ、夢見ていたような気がするけど。地球の危機を自ら救えと言われたような」

 「そうだなぁ、そういう気がするよな」

 二人は、映画館から出ると思わず空を見上げた。眩しい光の中に巨大戦艦マントル号が浮かんでいるような気がした。そして、ダストロン人が隙あらばと地球を狙っていると。確かにモホロヴィチッチ人が言うように、人類は、狭い地球のあちこちで戦争を起こしている。また、温暖化が自滅の一歩だとも言っていた。戦う相手は宇宙にいるのではなく、地球上にいる。自然を破壊する人間が。


    






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