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青きに染む  作者: たびー
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イデア

 死体のようにしか見えない。

 シルヴィは格納庫に固定されているイデアをみてそう思った。(から)の四基の固定器具が、天井の高い格納庫に並んでいる。おそらく、そこへもイデアを固定するのだろう。

「イデアを見るのは初めてかしら」

 格納庫の扉の隙間から中を覗いていたシルヴィは女性の声に振り返った。

 漆黒の肌をした小柄な女性が立っていた。年の頃は五十ほどだろうか。ぱっちりとした目が生き生きと輝き、グレーの髪は耳のあたりで、すっきりと整えられている。

「よろしく、イデア管理局局長のユウ・ミカミです。仕事熱心ね。移動に80時間はかかったでしょう」

 差し出された右手をおずおずと握り返してシルヴィは答えた。

「こちらこそ。シルヴィ・スターです。いいえ、むしろ久しぶりの休暇だったのでゆっくり休みました。部屋にいても、することがないので早目に新しい職場を見ておきたくて」

 初対面の人と話す緊張感から、一本にしたグレーの長い三つ編みをもてあそぶ。

「それを人は仕事熱心と呼ぶわ。作業服まで着て気合は十分ね。覗いていないで、入ってみる? ちょうどうちのエースがメンテナンス中だから」

 ユウは合金の扉を開けて、シルヴィを中へと招いた。

 シルヴィはイデアの正面で待つユウのところまで恐々と歩いた。いきなり動いたりしないだろうか。恐怖心から、なるべくイデアから距離を取る。

「うちのイデア、エースのサフィールよ」

 目を背けるようにしてゆっくりと顔をあげ、シルヴィはサフィールを少しずつ視界に入れた。

「今は隠されているけど目の色がねえ、青だからサフィール。単純でしょ。今夜の試合(ヒート)に出陣だから、調整中よ」

 大きな星型の真ん中に、サフィールの体があった。ユウの言う通り、目はシールドで隠され高い鼻梁と薄い唇が見える。

 星の形はヒトデの五本の腕にあたる。紫色に縁どられたヒトデの内側はオレンジ色だ。ヒトデの中心にヒトの腰あたりまでの上半身が融合している。全体の高さは三メートルほどだろうか。白い肌とコントラストをなす黒髪は肩につくくらい、わずかに開けた口からは象牙色の歯列がのぞいている。

 ヒトデの五本の腕は固定されているが、サフィールの腕はだらりと下げられている。

「今は外しているけど、試合(ヒート)に出るときには右腕に(ブレイド)が固定されるし、腰には弾が二発だけはいった銃が装着される」

 ユウの説明が頭に入らない。シルヴィは目の前に異形の人工生命体が禍々しく感じられ、背中から腕にかけて鳥肌立った。

「助かったわ。バイオプログラムの人手が不足していて困っていたのよ、こんな不便なとこにはなかなか希望がないから」

 シルヴィは中途半端に笑顔を作った。頬が少し痺れたように引くつく。髪を指に巻き付ける。

「何かワケアリかな」

 耳元にふわりと右息がかかり、シルヴィは飛びのいた。右耳をおさえ、ぎくしゃくと振り返るとシルヴィの背後に男性が立っていた。

「ミラン!」

 ユウの注意もものともせずに、ミランはシルヴィへ軽く手を振ってよこした。赤毛で鼻のあたりにそばかすが散っている。

「よろしく、おれはミラン。イデアのメンテナンスの技術師。きみの異動は希望? 左遷? ちなみにおれは左せ……」

「き、希望です。希望してきました。し、静かなところで働きたくて」

 思わず食い気味に答えると、シルヴィはうつむいた。

「希望してくれて、ありがとう。さあ、本日はここまで。食堂へご案内するわ」

 ユウはシルヴィの背中にそっと手を当てた。

「静かかどうかは、保証できないけどな。それなりの楽しさはあるぜ」

 ぱちん、とウインクをしたミランからは、体を離すようにしてユウと通路を歩く。はめ殺しの窓の外には、茶色の大地が広がっていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 初対面では怖さの方が勝ってる! シルヴィが変わっていく過程も楽しみ!
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