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青きに染む  作者: たびー
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プロローグ

「エリダヌス産のシャンパンはいかがですか」

 銀の盆にのせられた華奢なグラスをウエイターに勧められて、シルヴィは顔をあげた。

 いいえ、とシルヴィは断りかけて考えを変えた。なんのためにわざわざVIPシートのチケットを購入したのか。これからのプランを思うと、軽く飲んでしかるべきだ。

「いただくわ」

 褐色の肌にエメラルドの瞳のシルヴィが微笑むと、ウエイターはどこか戸惑うようにして瞳を反らした。ウェイターが去り際に、わずかに頬を赤らめていたのをシルヴィは見逃さなかなかった。

 髪を手入れし、丁寧にメイクをする。着るものに細心の注意を払い、臆することなく微笑むだけで、人の態度が変わる。

 ただ髪を伸ばし、作業着やパーカーなどラフな格好をしていた時には気づかなかった。今更ながら、その滑稽さをシルヴィは笑った。

 グラスを受け取り、カウチにゆったりと背を預けると正面の大型ビジョンに目を向ける。ビジョンに映るのは、はるか10キロ先の戦場で組み合う「イデア」たちだ。

【さあ、本日の試合(ヒート)の後半の戦いはいかに。優勢はキャロル社所属サフィールです。サフィールは一時、ピンチの時には腕を切り落とさせても接近戦で勝という戦法を取っていましたが、いまはむしろ正攻法ですね。さあ、マールーシャ社所属、オシリスはどう反撃するか】

 MCが戦いの行方を実況する。

 大型ビジョンのしたには、実際の窓が大きく取られてありイデアたちがいるあたりに砂埃が舞う。

 植物など見えない荒地には、長年体積したイデアたちの【思い(メモリー)】がある。

 シルヴィはグラスに口を付けた。はじける泡、甘さの中にほのかな苦みを感じ、淡いアルコールの刺激がのどを下りていく。

 高みの見物とはよく言ったものだ。

 金を賭け、人工生命体を戦わせる。

 人では倫理上まずい、かといって、人と違い過ぎる姿ではつまらない。

 かくてイデアは生まれた。

 ヒトデの中心に人の上半身が縫い付けられたような異形の人工生命体。

 突然、となりの席の婦人が悲鳴を上げ足をばたつかせた。大型ビジョンに大写しにされていたのは、サフィールの刃がオシリスの喉深く突き刺さり、崩れる場面だった。

「ああっ、五万アガルがっ」

 レディの大ぶりの真珠のイヤリングが揺れる。眉間の皺を深くし赤く塗った唇を醜くゆがめた。

 画面の中に血しぶきではなく、細かな紙吹雪のようなものが飛ぶ。倒されたオシリスの顔は割れ、うすいプラスチックをまき散らして崩れていった。

【勝者サフィール、今期十連勝中です。現在勝ち星のトップを独走中】

 VIPルームが沸き立つ。敗者と勝者、それぞれに賭けた者たちの悲喜こもごもが渦巻く。

 シルヴィは細いヒールの靴でカウチから立ち上がった。サフィールの顔が正面から写る。

 ついさっきまでの激しい格闘とはまるで無縁の冷静な青い瞳、陶器のような白い肌に黒髪。真紅のプラスチック製のスーツには傷ひとつついていない。

 シルヴィはミルキィホワイトのドレスの裾を揺らしながら、ゲーム終了の熱気がこもるフロアを横切っていく。モーツァルトの旋律を口ずさんでVIPたちの横を通り過ぎる。賭け事の結果に、紅潮した頬と上ずる声、フロアは熱を帯びていた。ウェイターの手から次々とグラスが渡される。

 誰もシルヴィに関心などない。シルヴィはペンダントに組み込んだスイッチを押した。

 サフィールの両目が大きく見開かれ、体を取り囲む五本の腕をふるわせた。

 シルヴィはフロアの隅の壁までいくと、緊急非常脱出口の解放レバーを強く引いた。

ゆっくりと更新です

しかし、タグに「ヒトデ」と入れて、誰が検索するだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] わーい!新連載! どこに話しが転がっていくのか、楽しみに追いかけます! ひーとーでー☆
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