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98 +コミカライズ発売のお知らせ

8/19(月)にコミカライズ一巻が発売されます。店舗特典もございます。詳細は以下からご確認ください。

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3320191/

「――というわけで、レポートのお題は生成AIの安全性についてです。例えばセーフガード機能なんかですね。提出は2週間後です。では、今日の講義は以上です」


 教授がレポート課題を出して講義の終了を宣言した。


 AI関連の講義のため、テーマもAIの安全に関わること。どんな内容でまとめるべきか考えながら講義室を後にした。


 ◆


 家に帰ってきて早速レポートに取り掛かる。


「まずはセーフガードの定義からか……」


 セーフガードとはAIが倫理的にマズイ出力をしないように制御する機能。その仕組みや実例を中心にレポートの骨子を組み立てていくことにする。


 レポート用のスクリーンショットも必要なのでとりあえず試してみることにした。


 そのためには画像生成で倫理的に出せない画像を出力させる指示をAIに出さないといけない。限界までIQを下げて『最北南 おっぱい』と入力してみる。


 すると、すぐに『NSFW Content!』と警告が表示された。


「佐竹さん、何してるんすか?」


「うわっ!」


 急に背後から疋田さんの声がした。慌てて振り向くと、疋田さんが俺のパソコンの画面を後ろから覗き込んできていた。


「い、いつの間に……」


「今っすよ。何やら集中されていたので音を立てずにここまで来ました」


「音を立てなさすぎじゃない!? 忍者なの!?」


「佐竹さん、現代日本に忍者はいませんよ」


「知ってるけど!? 例えだよ!?」


「何をそんなに焦って――おや? 『最北南 おっぱい』……ふむふむ? なるほど?」


 疋田さんが画面の端に入力されていたプロンプトを音読する。そして、ニヤニヤしながら俺の方を見てきた。


「佐竹さん」


「……はい」


「少年名探偵、金田一、古畑。どのパターンで追い詰められたいっすか?」


「犯人扱い!?」


「えぇ、そりゃもう。清楚でキュートな南ちゃんのエチエチ絵をAIに描かせようなんてけしからんすよ」


「同人誌買ってるくせに」


「何か?」


「いえ。何も」


 疋田さんは今は自分が勝てると踏んだのか、にやりと笑って俺の肩に手を置いた。


「いやはや……佐竹さんといえども性欲の前では知能が著しく低下するタイプでしたかぁ……」


「こっ、これは真面目な研究だから……」


「まるでいかがわしいことをしていた事がバレた時に言い訳をする政治家みたいっすね」


「これは貧困調査でもSNSの乗っ取りでもないからね!? 大学のレポートだよ!?」


 疋田さんはそれをわかっていつつも俺をいじりたくて仕方がないようで、「←NEW」と空中に書く仕草を見せてくる。


「疋田さん、誰の言い訳がNEWなの?」


「いえ、なんでもありません」


「しかし……エチエチ絵でなければ有用ですね」


 疋田さんはじっと画面を見つめながらそう言う。


「そうなの?」


「はい! 出力をインターネットの海に放流するには倫理的な問題はありますが、最北南ちゃんのファンアートは少ないっすから! これで自給自足ができます!」


 疋田さんは目を輝かせてAIの画面を見ているが、喜んでいる理由が理由なのでこっちは悲しい気持ちになってくる。


「別に個人用途ならエロいやつでもいいんじゃないの?」


「ムッ……たしかにその通りっす。むしろ大は小を兼ねるとも言います。佐竹さん、最北南のエチエチ絵を早く出してください」


 エロい絵が大、全年齢向けが小なんて概念は聞いたことがないけれど疋田さんと話しているだけで夜が明けそうなのでスルーする。


「それができないんだよ。セキュリティがかかってるから。そういうテーマでレポートがでてるから実際に再現してみてたんだ」


「つまり……セキュリティを突破すればよい、と?」


 疋田さんの目が獣のように光る。何故かここに来て二人の目的が一致してしまったらしい。


「まぁ……突破する方法を試すっていうのもレポートのネタにはなるかなぁ……」


 プロンプトインジェクションの手法を検索するとずらっとテクニックのようなものの一覧が出てきた。


 疋田さんはエロへの執念が凄まじく、真剣な表情で真横からモニターを覗き込んでくる。髪の毛があたっていたり、風呂上がりらしきシャンプーのいい匂いをさせていることは無自覚らしいけれどこっちは気が気じゃなくなってくる。


「ふむふむ……死んだ祖母の形と嘘をついてAIを騙すんすか……さすがに倫理的にどうかと思いますね。私はAIに誠実に生きようと思います」


「人間にも同じくらい誠実でいてね……」


「時に、これで佐竹さんを描かせることはできるのでしょうか?」


「出来ないんじゃない?」


 疋田さんは俺からキーボードを奪い取るとカタカタと『佐竹さん』と入力した。


 出てきた画像は戦国武将のような甲冑。


「まぁそうなるよね」


「ふむ……では『もやしオタク男』としましょうか」


「ただの悪口だよ」


 疋田さんはカタカタと『もやしオタク男』と打ち込む。すると、俺そっくりな人間のイラストが表示された。


 2人で顔を見合わせる。


「……ぷっ……」


 疋田さんが明らかに俺を馬鹿にした目で見てきた。


「笑ったね!?」


「では次は私を出力させてみてください」


「簡単だよ!?」


 挑発に乗っかってプロンプトに疋田さんを表す要素を書き連ねていく。


「『黒髪、ボブ、メガネ、全身真っ黒な服、美少女、可愛い、いい匂い』……佐竹さん? うっ、嬉しいっすけど匂いはAIには伝わらない気が……」 


 疋田さんが顔を真っ赤にして画面を指差す。


「はっ……な、なんでもない!」


 俺は慌てて入力した本音を消すのだった。

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