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 部屋にけたたましい着信音が鳴り響く。


『フューチャーメイキングカンパニー』のアプリエンジニアチームリーダーの小田おだはモゾモゾとシングルベッドから腕を伸ばしてサイドテーブルの携帯を取り上げる。


 携帯の右上には4:43と表示されている。


「あ゛……はい……お゛だです……」


 小田は寝起き特有のガスガスの声で電話に出る。


「フューチャーメイキングカンパニーの小田様でしょうか」


 深夜にこの電話の導入は一つしかない。システムトラブルだ。


 小田は速やかにメガネをかけ、冷蔵庫にストックしているボトルコーヒーを脇に抱えてパソコンチェアに座る。


「はい、そうです」


「アプリケーション『フリモ』で障害発生です。障害項目は――」


 小田は障害内容を聞き取り、自宅のパソコンから社内のパソコンへ接続。そこから更にシステムの管理画面へ接続した。


「いやぁ……佐竹君様々だよなぁ……これがなかったら今頃会社で寝泊まりしてるんだし……」


 会社の急成長に伴って雑に整備していた運用もきちんと整備せよと社長の南部が言い出したのだ。


 それまでは朝に確認して何かあれば対応をしていたところを、システム障害を検知して連絡してくれる会社と勝手に契約をしてきたのだ。


 それらを担当していたのが佐竹だった。


 どんなエラーが出たときに連絡をすべきか、大量の切り分けルールを作り、更に自宅から対応できるようにリモート接続環境を整えた。


 外部の評価機関もセキュリティ上はこれで問題ないと太鼓判を押していた。


 もちろん、本来はインターンの佐竹ではなく、システム担当の社員がやるべき仕事。だが、急拡大するアプリの要件と南部の鶴の一声で早まるスケジュールに対応するために既に社員全員が疲弊しきっていてそれどころではなかったのだ。


「あれ……つながらないぞ……はぁ……会社行くか……」


『フューチャーメイキングカンパニー』は会社の所在地から徒歩20分圏内の物件にしか住宅補助を出さない。


 渋谷の一等地に住める。そう聞くと魅力的に感じるが、要は電車のない時間にも会社に駆けつける必要があるから近くに住まわせたいだけなのだ。


 小田は思う。この会社に本当に将来性はあるのだろうか、と。


 入社を決めた時の南部はアプリを大きくする1メンバーとして一緒にやっていた。


 だが、会社が大きくなるにつれて、アプリや個別サービスではなく会社そのものを大きくすることにしか注意が向かなくなっている、と小田も周りのエンジニアチームの社員も内心で思っている。


 社長としてはそうあるべきであることも理解はしている一方、彼の人を顧みない一面が顕在化してきている。


 佐竹を即日でクビにしたのもその一例だ。


 その日以降、あちこちでシステムが火を吹いている。


 佐竹が作成した共通部品が使いやすいため、どのチームもそれを使っていたのだ。


 作成者の佐竹がいなくなり、それを誰もメンテする余裕もないのだからこうなるのは必然。


 だが、エンジニアチームは誰一人として佐竹を恨んではいない。


 小田がエンジニアチームに、佐竹が引き継ぎ期間も設ける余裕もなくクビにされた、ときちんと報告しているからだ。よってエンジニアチームのヘイトは南部に向かっている。


 小田はチームメンバーから退職の相談も受けることが多くなってきている。


 それを南部に報告すると「じゃ、外注しちゃう? その方が単価も安いでしょ」とのたまったのだ。


 本当にこの会社に将来はないのかもしれない。


 そう思いながら小田は寝間着からTシャツに着替え、六畳一間のワンルームマンションを後にした。

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