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 昼寝から疋田さんが目覚めてベッドの上で起き上がった。俺はそれを椅子から眺めて手を振る。


 ボーッと寝顔を見ていると、疋田さんの顔の綺麗さに見惚れてしまい帰る気にならなかったのだ。


「んん……え!? まだいたんすか!?」


「人を呼び出しといてその言いぐさはなくない!?」


「あはは……佐竹さんのことなので、スッといなくなるかと思ってましたよ。折角ですし私の凹に凸します? あだっ!」


 疋田さんはエロい誘いをしたいのかパーカーのチャックを勢い良く上下させていたのだが、皮膚を挟んでしまったようで急にその手を止める。


「大丈夫?」


 本当、忙しない人。


「うぅ……まぁ大丈夫です。晩ごはんどうします? 折角なら一緒に食べませんか?」


「うん、いいよ」


「では、デリバリーをしましょう!」


 疋田さんは笑顔で携帯のデリバリーアプリを立ち上げて見せてくる。


「ちなみに私の奢りです。お給料が入ったので好きなお店をどうぞ」


 疋田さん、結構稼いでいそうな気がするけれど、金遣いが荒いような雰囲気はないのでたまの贅沢なのだろう。俺に選択権を委ねてくれるのはありがたいけれど気が引けてしまう。


「それなら疋田さんが選びなよ」


「いえ、餌付けですから。ここに来れば好きなものが食べられると佐竹さんに刷り込もうかと」


「そんな簡単に洗脳されないから……」


「難しいですね……」


 疋田さんは眉間にシワを寄せて真剣にご飯を選び始めた。


「そういえば佐竹さんは鶏の唐揚げがお好きでしたね。どうっすか?」


「あ、うん。唐揚げにする?」


「はい、そうしましょう」


 自分の好きなものを食べたらいいのに、優しいのかお人好しなのか。


 手慣れた様子で疋田さんはアプリを操作して注文を完了する。


「早いね……」


「こう見えてゴッド会員なんすよ。しかもこの注文でハイパーゴッド会員になりました」


「はっ……ハイパーゴッド?」


 小学生みたいなネーミングセンスに耳を疑う。もっとこう「プラチナ」とか「ダイヤモンド」とかそういうのじゃないのか。


「そっす」


 疋田さんが見せてくれた画面は確かにハイパーゴッド会員と書かれている。


「あ、今私のことを疑ってましたね。わかりますよ」


 疋田さんは怒っている風でもなく、ドヤ顔で俺を見てくる。


 無視していると、疋田さんは「どっこいしょ」という掛け声とともに立ち上がり、俺にゲーム機をよこしてきた。


「来るまで暇なのでやりませんか? スプスプトゥーン」


「あぁ……陣取りシューティング?」


「そっす! 今度バイト先で大会があって練習中なんですよ」


 いつも通り愉快なバイト先だこと。


「バイト先って……あそこ? Edge?」


 疋田さんのガードが緩んだので久しぶりにジャブを打ってみる。


「あっ……ほっ、他のところです! 私は……そのー……はっ、派遣であそこにいただけなので! 普段はその……あちこちでケーブルを巻き巻きするバイトもしてるんすよ!」


「そっ……そうなんだ……」


「それよりほら! やりますよ!」


 これ以上いじめるのも可哀想なのでゲーム開始。


 4対4で塗った陣地の面積を競うゲームだ。 


 疋田さんは対戦が始まってしばらくするとマップの隅に走っていった。


「どうしたの?」


「この微妙な隙間、すっごい気持ち悪くないですか? ミッチリ塗らないと気がすまないんすよ」


 普段の性格や言動と解釈が一致しすぎたプレイスタイルだ。


「もしかして部屋の床も服とかで隙間なく塗りつぶしてるの?」


「それは単に物が多いだけです。でもどうせ使うんですし、どこに何があるか分かってるので一番効率が良いんですよ」


「それ、例えば同棲してもそうなの?」


 疋田さんがピタリと止まる。


「どっ……どどど……ど!? ど……同棲ちゃうわ!」


 それは童貞。


 疋田さんのこまめな塗りにより僅差で勝利したのでゲーム機を置いて向かい合う。


「今はそうだけど……もしこれから付き合って……その……そのまま良かったら同棲とかもあるわけだけど……」


 疋田さんは不意打ちを食らったように顔を赤くしている。


「そっ……それは想定していませんでした。確かにありえますね。そうすると佐竹さんは私に矯正を強制しますか? しかし共生してくためには必要な事ですね。決めておきましょう」


「まぁ……お互いに部屋があると前提を置くなら、共用のスペースだけ綺麗に使ってればいいのかな?」


「しっ……寝室も……別ですか?」


 もじもじしながら聞いてくるのでなんとも可愛いらしく見えてくる。


「それは……一緒……かな?」


 疋田さんは無言で顔を手で覆う。


「おっほ……こっ……これは……なんといいますか……リアルに現実味が出てきましたよ」


「そ……そこで!?」


 疋田さんの脳内は基本的にピンク色が占めていそうな気がしてならない。


「先に謝っておきます。部屋を汚くしてすみません」


 疋田さんは顔を手で覆ったまま謝罪してくる。


「それは改善しようか……」


「徐々にリビングにも侵食していきます」


「掃除しようねぇ!?」


 本当、この人大丈夫なんだろうか。

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