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「佐竹さーん! 元気ですかー!」


 目の前にいるのはアントニオ疋田。いつものように、俺の部屋で陽気に酒を飲んでいる。


 今日は昼間にミーティングで安東さんからも「期待している」と良いコメントがあったのでいつもより上機嫌だ。


 対する俺は小田さんを見捨てたことで若干のマイナス。


 俺と疋田さんの元気の差分が大きいので、酔っ払いの疋田さんも何かを察したらしい。


 大きな目をパチクリとさせて俺に話せと促してくる。


「いやぁ……実はね――」


 疋田さんは俺が話そうとした瞬間、手を伸ばして制してきた。


「え? 話さないほうがいい?」


「いえ。なんだか難しそうな話な気がしたので少しマイルドにしたいなと。ポケモンで例えてください」


 また無茶苦茶なオーダーだ。


「んー……俺は昔ロケット団にいたんだよね。で、ボスが嫌になって辞めたんだ。だけど、今になってロケット団が大変だニャってニャースに呼ばれてるんだ。ニャースにはお世話になったから恩返しはしたいけど、ロケット団には戻りたくないし……って感じだね」


「全く頭に入ってきませんでした。佐竹さんがRと書かれた服を着ている姿や、ニャースにお世話になっている姿を想像してしまうとどうにも意識がそっちに持っていかれてしまいますね。というかアニメ版ですか。そこはゲームの方で例えてくださいよ」


 疋田さんは真顔で缶からグラスにビールを注ぎながら感想を述べた。無茶振りに対してうまく対応したつもりだったのに散々な言われようだ。


「自分が言わせたんだよねぇ!?」


「つまりあれですか? 昔ランターンしてた会社に戻れと言われているんですか?」


「そうだけど……頭から電球ぶら下げてないから」


「シャイターン?」


「俺は悪魔じゃないよ」


「シャンターン?」


「中華料理屋で使われてそうだね」


「インラーン?」


「エロい事はしてないよ」


 疋田さんはわざと言い間違えていたのか、ゲラゲラと笑い始める。


「俺は真面目に相談してるんだけど!?」


「ヒッヒッ……さーせんさーせん。でもそれって佐竹さんが悩むことないですよ」


「そりゃ論理的にはそうなんだけどさぁ……」


「論理の塊みたいな人が遂に人の心を理解しましたか」


「そこまでひどかったかな!?」


「冗談ですよ。佐竹さんは十分すぎるくらい人間らしいですから。でもあれっすよねぇ。トロッコの話あるじゃないですか。あれに近いっすよね」


「5人の命と1人の命のどっちを取るかって話?」


「そっすそっす。例えば私がトロッコの運転手だったとしたら、1人の方が佐竹さん、5人の方が赤の他人だったら迷わず1人を轢き殺しますね」


「あれ? 俺が轢かれるの?」


「んー……あぁ! 逆です! 逆です! 5人を轢き殺します!」


 TPOがかなり限られそうな疋田さんによる虐殺宣言。自分が何を言ってるのかも分かっていないくらいには酔っているようだ。


「要は重み付けっすよ。佐竹さんがすべてをなげうってまで助けたいのかどうか。佐竹さんなら両方を助けられる状況ならとっくにそうしてるって分かりますから。割り切りが必要な場面は割り切るしかないです」


 酔って気の大きくなった疋田さんは隣にやってきて座り直す。


 コップを両手で持ち、真面目な話をするのが照れくさいのか、コップの水面を見ながら話してくる。


「その選択をして佐竹さんが責められたら私が助けますから、安心してください。よく言うじゃないですか。世界のみんなが敵になってもってやつ。私くらいは佐竹さんの味方になってあげますよ。他に佐竹さんの味方になってくれる人、いなさそうだし」


 疋田さん、めちゃくちゃ俺を肯定してくれる。それによって、今欲していたのは全肯定理解のあるハイパーウルトラ最強つよつよ彼女だったのだと気づく。


 それを先回りして気づいて役割を買って出てくれた疋田さんがいつもの5割増に頼もしく見えてきた。


「なんか……嬉しいこと言ってくれるんだねぇ……」


「当たり前っすよ。今の生活で佐竹さんがいなくなったら私はもう鬱コースまっしぐらですから」


「そこまでかね……」


「えぇ。なので少しは自分が貴重な存在であることを自覚してください」


 何故か俺が怒られる流れになっている。


 それにしても、俺が「疋田さんにとって」貴重な存在である、と省略したのはわざとなのだろうか。


 小野寺さんの「疋田さんは素直じゃない」というアドバイスを思い出すも、疋田さんの横顔は無表情なままなのでその本音は見えない。


 うーん……と悩みあぐねていると、疋田さんは「寒いっすねぇ」と言って立ち上がって窓を閉めに行った。


「お、もうイルミネーションの時期なんすねぇ」


 疋田さんは窓際から外を見て、駅前の商店街で点灯しているイルミネーションを見ているようだ。


 気づけば12月に入り、クリスマス配色の物が街中に増えてきているし、もうそんな時期らしい。独り身には堪える季節だ。


「この時間まで点灯してるの?」


 すでに日付を回っているのにまだ点灯しているのかと驚く。


「みたいっすねぇ。はしゃいじゃって……電球の無駄遣い、電気の無駄遣い、社会リソースの無駄遣いですよ」


 疋田さんアンチクリスマスイルミネーションの急先鋒らしい。普段の感じからしてこういうカップル向けのイベントは好きではないのはなんとなく分かるけど。


「好きじゃないの?」


「はいっす。トラウマもんですよ。聞きたいですか?」


「ランターンとしては電球の無駄遣いは許せないしね。是非聞いておきたいかな」


 俺の話も聞いてもらったし、疋田さんも話したそうなので好意的に受ける。


「ではこれを」


 疋田さんはティッシュを一枚引き出して俺に渡してくる。


「なにこれ……」


「お涙用です。悲しすぎて涙ちょちょ切れチョンチーになっちゃうので。ちなみに普段の処理には一回あたり何枚使う人ですか?」


 アレの時の話だとすぐに分かったので無視すると疋田さんは一人で話し始めたのだった。

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