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 目の前で疋田さん、もとい最北南からアデリーにSNSでDMが送られた。


 俺にある選択肢は「構わず返事をする」、「通知を切って無視する」、「正体を明かす」、くらいだろうか。


 これを目の前で返事するのはかなりリスキー。画面を見せなくてもメッセージ受信のタイミングで確度はグングンと上がってしまう。


 無難な手段は、通知だけ切ってしまって無視すること。そうすれば疑いは晴れないにしても乗り切ることはできる。


 正体を明かすことはありえない。それだけは。疋田さんのためにも佐竹とアデリーを分けておくことは重要なのだから。


 方針を速やかに決めて無視を決め込んでいたのだが、突発的にあるアイディアを思いついた。賭けだが、信頼してベットできる。


 携帯を開き雫花にメッセージを送る。


『ヘルプ! ティッター! Id、adeliae。PWはPenguin1234@』


 俺が携帯をいじり始めると、横目に疋田さんの視線を感じる。念の為通知音を切ってから携帯を置くと、疋田さんは自分の携帯を見始めた。


 アデリーからの返信が来ていないか確認しているのだろう。


 俺の携帯にはすぐに雫花から2通連続で返事が来た。


『なにこれ?』


『あぁ……了解。意図と違っても文句は言わないでね』


 少しすると疋田さんの携帯から通知音が鳴る。俺をちらっと見て疋田さんはまた携帯を操作。すぐに携帯に音無しで通知が表示される。


『あ……すみません。いつでも大丈夫っす! ちなみに日中と夜だとどちらがご都合良いですか?』


 どうやら雫花は俺の意図を汲んでそれとなく断りの連絡をしてくれているようだ。


 疋田さんはメッセージを送って以降、俺から目を離さない。


「どうしたの?」


「いっ……いえ。なんでもないっすよ」


「今日、いつもより静かだね」


「そういう日もあるんですよ」


「そういえば、昼間に言ってた報告って何なの?」


「あ……あぁ! 後で! 後で話します!」


 メッセージに返信が来たようで、疋田さんはそっちに夢中になる。


『了解っす! ではまた!』


 雫花は上手いこと疋田さんを撒いてくれたようだ。


 疋田さんも首を傾げつつ、俺がアデリーでない事を受け入れているように見える。


「ふぅ……佐竹さんって実は電脳世界に繋がってたりします? 頭にチップを埋め込んでたり」


「SF映画でも見たの?」


「いえ。そうではないんですが……そうですか……そうですよね」


「何が?」


 疋田さんは言うか言うまいか悩んでいる様子。だが、少しすると覚悟を決めたように頷いた。


「実はですね……その……少しだけ佐竹さんを疑っていたんです。細かいことは割愛しますが、その……少々ネットで絡みのある人がいまして……それが……佐竹さんなのかなぁ……って薄っすら思ってたんですけど、やっぱりそんなことないよなぁ、と」


 ビタリと当てられていたので脇汗が止まらない。


『ペンギンみたいっす。食べちゃっていいすか? ペンギンさん』


『佐竹さんですか? ペンギンさんを待ってるんです』


 思い起こせば、唐揚げにつけられた付箋にもペンギンが書かれていたし、俺のことをペンギンと呼んできたこともあった。あれは俺の反応を見るためにやっていたのかもしれない。アデリーを最寄り駅に呼び出そうとしたのも俺だと確信していたからなんじゃないだろうか。


 だが、雫花のファインプレーで疑いは晴れた様子。目の前で動いていなかった人がメッセージを書けるわけがないのだから。


 雫花様様。雫花先生。今度会ったらプリクラでもスイーツ食べ放題でもなんでも付き合おう。


「あははっ! 俺が正体を隠して疋田さんとこそこそやり取りしてるってこと? 何のために? そんなことをするくらいならここで話すよ」


「そ……そうっすよねぇ! わざわざ私達の間で隠し事なんて……しなくてもいいですもんね」


 それはそう。俺がアデリーであること、疋田さんが最北南であること。今時点のお互いの信頼度であれば、隠し立てするような事でもないはず。


 でも、一度ついてしまった嘘を取り消すのは勇気がいること。だから、お互いに言い出せないのだ。些細なことなはずなのに。


 しばしの沈黙の後、疋田さんは「そういえば」と切り出す。


「バイト、首にならずに済みそうです」


「良かったね。続けられるんだ」


「はいっす! これからも愚痴、聞いてくださいね」


「もちろん。そういえば最近暑いしブランコ行ってないね」


「もう少し涼しくなったらにしましょうか。まだ暑いっすよ」


「そうだよねぇ」


「ま、でも今日くらいいっときます?」


「そんなにバイトが続けられるのが嬉しいの?」


「そうなんすよ。凄く好きなので」


 疋田さんはニッコリと笑ってそう言う。そういえば彼女は何をモチベーションにVTuberなんて始めたのだろう。倍率も高そうなオーディションを潜り抜けてまで。


 それはもっと仲が深まってから聞けばいいのだろう。


 キョロキョロと俺の部屋を見渡していた疋田さんは一点を見つめている。


 やがて、立ち上がると俺の机に山積みにされた本の陰に隠れているスマホより少し小さい箱を取り出した。


「アメスピ、まだ残ってるんすね……っていうか一本も減ってなくないですか?」


「あはは……忘れてた。もう湿気てるかもね」


 そういえば俺は疋田さんにもう一つ嘘をついていたのだった。

(文字数だけ)キリがいいので、一旦ここで一部完とします。

また明日以降、更新しますのでよろしくお願いします。

もう少し続きますのでよければお付き合いくださいませ。


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