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 目が覚めると何故か床で寝ていた。時間も不明確だが、明るいので昼くらいだろうか。


 二人して酔い潰れ、疋田さんもうちに泊まっていったことをおぼろげに思い出してきた。


 クラクラする頭を持ち上げて起き上がる。


「クンカクンカ……すぅー……はぁー……」


 俺のベッドを占領して寝ていた疋田さんは既に起きている様子。寝起きで目が開かないので、壁際を向いて寝転んでいる疋田さんが何をしているのかは分からない。


「おはよう、疋田さん」


「おっ!? おはっ……オハヨ……ザマス」


 目をこすりながら声をかけると、びっくりした様子で疋田さんがこちらを向き、起き上がる。


 気だるそうに髪の寝癖を直している姿は実家のような振る舞いだ。


 なんというか警戒心の薄い人だと改めて思う。俺がそれだけ信用されているということなのかもしれないが。


「何してたの?」


「何もしてないっすよ。えぇ、本当に。今起きました」


 疋田さんは寝起きとは思えないハキハキとした声でそう言う。


「その割には声が出てるね」


「鍛えてるんで、ここ」


 疋田さんはそう言って自分の喉をツンツンと突くと、ベッドから降り、「掃除しますかぁ……」と呟いてテーブルの掃除を始めた。


 掃除といっても湿気たポテチの袋を持ち上げて奥の方に残っていた欠片を食べたり、気の抜けた炭酸水で喉を潤したりと残飯処理をしているだけだが。


 こうやって疋田さんの部屋が出来上がっているのだろうと失礼なことを考えていると、きちんとゴミ箱に丸めて捨ててくれたので、単にゴミを散らかす人ではないらしい。


「さてと……もう昼なんすね。久々のオフなんで、ヒルナンスヨでも見ましょうかね。お邪魔しました」


 手早くテーブルの上を片付けると、疋田さんはそう言ってぺこりと頭を下げる。


「あ……うん。ありがとう」


「時に佐竹さん。何か好物はありますか? あ、ちなみに食べ物でお願いします。石の名前を答える場面ではありませんよ」


 好物と鉱物をかけているらしい。別に好きな鉱物なんてないけど。強いて言うなら高い物だ。


「うーん……好物……唐揚げかな」


「唐揚げ……鶏ですか? 牛ですか? 豚ですか? 羊――」


「鶏かな」


 黙っていると無限に唐揚げの食材候補が出てきそうなので割り込んで答える。疋田さんは割り込まれたことについては一切苛立ちを見せずに笑顔で頷く。


「承知っす。それでは、お邪魔しました」


 疋田さんは俺の好物を聞き終わると、また一礼をして部屋から出ていった。


 部屋に一人になるも、疋田さんメソッドでメンタルは超回復を果たした。


 少しだけ心に余裕が出てきたので、歯を磨き、インスタント味噌汁を作るための湯を沸かしながらSNSを開く。


 一晩でアデリーに対するリプライは500件を超えていた。


『ダンマリですか?www』


 すかさず右へスワイプして削除。


『えくすぷろぉらぁに通報しますた!』


 右へスワイプ。削除。


 一晩寝かせたことと、二日酔いで若干ボーッとする頭なら感情も大きく動かずにリプライを処理できる。疋田メソッド、完璧だ。研究の進捗で教授に詰められた時もこれで対処しようと心に決める。


『アデリー様、初めまして。えくすぷろぉらぁを運営している株式会社Edgeの代表取締役――』


 はいはい。これも削除……じゃない!


「え? 本物?」


 ITベンチャー界隈では知らない人はいない超有名女性起業家、安東成海あんどう なるみ。20の頃から次々と事業を成功させては、大手に事業売却を繰り返しているやり手だ。


 そんな御本人のアカウントからDMが来ていた。IDをタッチすると縦巻きのロングヘアに爽やかな笑顔がアイコンの本人のアカウントにたどり着くし、認証マークもついている。本物だ。


 義憤に燃える誰かが本当に通報して、法務をすっ飛ばして社長直々に動いたのではないかと背筋を冷や汗が伝う。


『最北南を始めとする弊社所属タレントが利用させていただいている表情管理ツールについて、是非お話をさせていただきたいです。リモートでも対面でも、ご都合の良い方で。対面の場合は交通費と個室の焼肉をご用意しております。本日を含む木曜日の夕方〜夜であれば――』


 焼肉というのは、本当に牛肉を焼いて食べるあの焼肉なのだろうか。


 顔に傷の入った人に椅子に縛り付けられて自分の体の肉を削がれたりなんてしないかとヒヤヒヤしてくる。


『初めまして。お騒がしてしまい申し訳ございません。ぜひ対面でお願いしたいです。どちらにお伺いすればよいでしょうか?』


 返事をすると5分でレスがきた。忙しいだろうにマメな人だ。


『それでは本日の19:00から以下のお店でお待ちしております。安東で予約しておきます』


 貼られているリンクをタッチすると、都内の高級焼肉店のページに飛んだ。


 見るからに高そうな雰囲気に緊張を覚える。


 それにしても直々に注意するとはいえ、わざわざ部外者に焼肉なんて奢るだろうか。


 有名人からの誘いに食いついてしまったとはいえ、目的が分からず、今更話を受けたことを後悔してきたのだった。

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