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 18:55。疋田さんと約束していたマンションのエントランスで待機。


 エレベータを使えば部屋から一分で来られるのだけど、なぜか少し早めに来てしまった。


 だが、それは疋田さんも同じらしく、マンションのエントランスにある柱の隙間から公園の方を伺っていた。


 いつもの黒い細身のズボンに黒い大きめなパーカーの黒コーデに、靴も黒。黒いバケットハットを目深に被っているので首とわずかに頬だけが白く見える。これで黒マスクなんてした日には不審者だ。


「何してるの……」


「ひぃ!? さっ、佐竹さん! 驚かさないでくださいよ……」


「そんな探偵みたいな事してる方がよっぽど驚くよ……」


「あ……あのですね……いつもの場所、取られちゃってまして……」


 公園の方を見ると、いつも俺達が座っているブランコは初々しい高校生カップルが使用中だった。


 あまりの眩しさに目を背けてしまう。


「若いねぇ……いいねぇ……」


「佐竹さんって女子高生が好きなんすか?」


「いっ……いやいや! そういう意味じゃなくって! ああいう青春って感じ、良いなってだけだから!」


 高校生の時はひたすら受験勉強だったので恋愛経験は皆無。陰キャ街道をひた走った結果が今の自分なのだから受け入れるしかないのだけど。


「ま……そうっすよねぇ」


 疋田さんはあまり思い出したくないことがあるように冷たい目で高校生を見つめる。


「と、とりあえず行く? 服、買うんだよね」


「そっすね! 行きましょう!」


 疋田さんと並んでマンションのエントランスを出る。


 横にいたはずの疋田さんは歩くに連れて徐々に俺の背後にズレていく。


「あ……あれ? 疋田さん?」


 振り向いて呼びかけると、慌てて俺の隣に来てバケットハットを目深に被り直す。


「はいっす」


 返事はしてくれるものの、どうにも声に覇気がない。


「大丈夫? 体調悪いなら――」


「ダ……ダイジョブ……っす……」


 僅かに見える頬はかなり赤くなっている。普段は夜行性だし人のいる時間帯に出るのが慣れていないのかもしれない。


「顔赤いし……熱とかあるんじゃない?」


 手を伸ばすとパシッと振り払われた。


「無いっす……ほんと……」


「そ……そっか」


 疋田さんはその場に立ち止まり「あ……あの……」と呼びかけてくる。


「こっ……これ……その……デートみたいっすけど……そういうんじゃ……ないはずで……なのにデートみたいって思っただけで……緊張しちゃって……」


 バケットハットのツバを少しだけ持ち上げて目を合わせてくる。目をうるうるさせて見てくる疋田さん、可愛すぎる。


「ふっ……服を買いに行くだけだしね!」


「だけ……なんすか? なんか、好きな食べ物とか聞かれたんすけど……」


 疋田さんは変なとこだけ勘が鋭い。ホヤが好きなんてリクエストが来たものだからあちこち探しまくってやっと見つけた居酒屋は既に予約済み。


 つまり、服を買うだけでは解散にならない。


「あっ……あんま意識するとね、ほら! 緊張しちゃうからさ! ね! 俺のことは飼い犬かなんかだと思ってくれればいいから」


「なっ……なるほどっす。サタケ! お手!」


 疋田さんはそう言って自分の右手を差し出してくる。


 戸惑いながら手を載せると「ちがーう!」と距離感に似つかわしくないボリュームの声が飛んできた。


「手はグーですよ。犬ですから」


 俺はパーで手を載せていたのだがそれが気に食わなかったらしい。


 グーで載せると「良く出来ました」と言って背伸びして俺の頭を撫でてくる。


 頭を撫でられながら不意に目が合う。疋田さんはニッコリと笑い俺の手を引く。


「佐竹さんが犬だと思いこむと緊張しなくなりました! やっぱり人間は苦手です、私」


「俺も人間だよ……」


「佐竹さんはサタケという新種なので。未知の生命体と思うことにしました」


「何それ……」


 相変わらずの疋田ワールドだが、そこに浸ることの心地良さもある。


 つかず離れずでショッピングモールまで向かうのは何故かとても居心地よく感じるのだった。

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