競争
「……」
今日はリーサと王都に行く日で、俺はいま集合場所である村の門の前にいる。
家が隣同士なのにわざわざ集合場所を設定したのはデート気分を味わいたかったからだろう。
だが、当の本人の姿は見えない。
「……こない」
ちなみに集合時時刻は8時。そして、現在の時刻は8時15分と集合時間を15分過ぎていた。
「これは……やったな」
おそらく、俺が考えていた嫌な予感は的中しているだろう。
俺は門を離れてまだその場にいない寝坊助を向かいに行くか、もう少しこの場で待つかを考える。
「仕方ない……向かいにいく……か?」
俺がその場を離れようとした時だった。村の中からこちらに向かってとてつもない速さで走ってくる白髪の女性が一人いた。
だが、まだ距離があるため普通なら大人が全力で走っても1分以上はかかる距離だろう。しかし、その女性は20秒後には俺の目の前にいて、しかも、大して息を切らしてもいなかった。
「ふう……えっと、あの、その……ですね?」
目の前にいる白髪の女性は気まずそうに俺の方を見ては視線を逸らす動作を繰り返していた。そんな彼女に俺がまずかける言葉は一つだった。
「……まず言うことはあるか?」
その瞬間、目の前の女性は刹那の勢いで
「すいませんでしたあー!!」
見事な土下座をしていた。
「……まあ、リーサが遅れることは何となく予想はしていたことだからいいとして」
「うう、何でこうも朝は苦手なんだろう……」
目の前にいる女性ことリーサは遅れたことを反省しながら、先程の土下座で服についた土を払っていた。
「列車が出るまで残り10分もないか……」
さて、どうするか……
王都に向かう最寄の駅へは大人が走っても村から10分以上はかかる距離だ。
予定していたのは8時30分発の電車のため、普通に向かっていては間に合わない時間だ。
そして、次の列車は1時間後になるため、王都に着くのは予定よりも1時間遅くなってしまう。……まあ、普通の大人であればだが。
「あの……遅れた私が言うのもなんだけど、急げばまだ間に合うと思うし、予定していた列車で行きたいかな……って」
俺の考えていること察したのか、土の汚れを落とし終わったリーサが俺に言葉を投げかける。
なんとなく、俺はリーサがその考えを提案してくると思っていたため、すでに心の準備はできていた。
「じゃあ急ぐとするか。多分、俺の方が少し遅く着くと思うけど文句言うなよ?」
「いや、シンが本気を出したら私と変わらない速さだと思うよ?」
俺たちが何を言ってるのかって?それは今に分かることだ。
「……じゃあ、せっかくだし競争でもするか?」
俺の提案に対して、リーサはニコリと笑みを浮かべた。
「いいね。本当はゆっくり歩きながら向かいたかったけどこんな展開もありかも」
気づけば俺たちはお互い、走る体制になっていた。
この時点で駅から列車が発車するまで残り8分を切っていた。
しかし、俺もリーサもまだ間に合うと思っている。
「よし、それじゃあ行くぞ」
「うん、行くよ?よーい」
「「ドン!」」
二人揃っての掛け声が発せられた瞬間、俺とリーサはその場から消えた。
否、高速で移動を始めたのだった。
俺とリーサはとてつもない速さで村からどんどん離れていく。
俺の少し前をリーサが走っているため、俺も負けじと速度を上げる。
しかし、リーサも速度を上げるため、途中で俺がリーサを抜かしたかと思えば、再度リーサが前を行くといった動作が繰り返される。
そうこうしているうちに、最寄駅が見えてきた。
「くそっ!負けるかあー!」
俺は再度、力を振り絞って走る。しかし、前方にいるリーサとの距離は縮まらない。そして、駅に最初に着いたのはリーサだった。
「はあ、はあ……よし!私の勝ち、だね!」
「はあ……くそ、負けたか……」
リーサは呼吸を整えながら、勝負に勝てて嬉しいような顔をしていた。
俺も息が切れ、呼吸をするのが苦しいので息を整える。
「やっぱり、リーサは早いな。さすがは<銀閃>様だ」
「もう……だからその呼び方は止めてよ……それに、シンもそこまで変わらなかったし」
俺が<銀閃>という言葉を出すと、リーサは照れながらも困っているような表情を見せた。
そして、俺は呼吸を整えながらも駅にある時計を見た。
「あと3分か。何とか間に合ったな」
時計の針は8時27分を示していた。
それはつまり、大人が走って10分以上はかかるはずの距離を5分ぐらい時間で走ってきたことになる。
「じゃあ、急いで切符を買って列車に乗らないとね」
俺とリーサはまだ息が整っていない状態だが、そうも言ってられないので駅構内に入って王都行きの切符を急いで買いに行く。
そして、何とかか発車前の列車に乗り込むことができると列車は汽笛を鳴らして発車した。
列車の中は人が少ないのもあり、空いている席もすぐに見つかった。俺たちはお互い向かいあうように座り、一息つく。