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今は俺が兄だ

朝食を食べ終わった俺は、自分の部屋に戻るとベッドに寝転がる。

そして、天井を見上げながら、シンの記憶をあらためて遡ってみた。

名前はシン・フェレール。年齢は今年で18歳になったばかりだ。

バンとセリスの息子で、妹はアーニャの4人家族だ。

バンとセリスは二人とも38歳で、アーニャはシンの二つ下の16歳だ。

今、俺たちが住んでいる村はルービット村といい、自然が多くのどかな場所だが、逆を言えば田舎みたいなものだ。

最初はどこにでもいるような一般的な家庭だと思った。

ただ、一つを除いては。


「……ちょっと様子を見にいこうかな」


俺はベッドから起き上がると自分の部屋を出た。

部屋を出るとセリスがキッチンで朝食の後片付けをしていた。


「あれ?父さんはもう出かけたの?」


俺は後片付けをしていたセリスに尋ねる。


「ええ。今日は早めに調べたいことがあるって言ってね」

「そっか……」

「何かあった?」

セリスは不思議そうな顔をしながら俺に尋ねてきた。


「いや、ただ気になっただけ。そういえば、アーニャはもう部屋にいる?」

「ええ。でも、会いにいくならあまり無理させないようにね?」

「うん、わかってる」


俺はセリスと会話を終えると妹であるアーニャのいる部屋へと向かい、アーニャの部屋の扉をノックする。


「……はい?」


少し間を置いて、部屋の中から可愛らしい声で返事が返ってきた。

それは朝食の時にも隣の席に座っていた可愛い妹の声だった。


「アーニャ、俺だけど入っていいか?」


「兄さん?うん、いいよ」


アーニャからの了承を得た俺は、部屋の扉を開けて中に入った。

すると、部屋にはベッドで布団をかけながら背を壁に預けているアーニャの姿があった。

俺は部屋の扉を閉めると、アーニャの近くに移動してベッドの近くにあった椅子に腰掛ける。


「アーニャ、体の調子はどうだ?」


「うん。今日は調子がいい方だよ。体の痛みも特にないし」


「そうか……」


アーニャは朝食の時と同じように微笑みながら、俺に答えた。

だが、その表情は心配をかけさせまいといったように、無理して作っているような感じだった。


「ねえ、兄さん。そういえば父さんは今日も出かけてるの?」

「ん?ああ。そうみたいだな」

「そっか……」


それを聞いたアーニャは俺から視線を外し、暗い表情になっていく。


「……ねえ、兄さん」


アーニャは俯きながら俺を呼ぶ。だが、その表情は暗いままであり、そして何か思い詰めたかのようだった。


「どうした?」


俺はそんなアーニャを見ながら、返事をする。

そして、このあとアーニャが言うであろうことも何となく察してはいた。


「私、ずっとこのままなのかな……」


「っ……」


俺はその言葉を聞くと、胸が締め付けられるような感情に襲われる。

そう、実はアーニャは不治の病に犯されている。

病の正体や原因も不明で、治療法も見つかっていない状態だ。

自分一人では歩くことができず、普段は寝たきりの生活をしている。

なので、今日の朝食の時も実は母さんが肩を貸してリビングまで連れてきていた。もちろん、父さんや俺が連れてくる時もある。

そして、アーニャは一年前からこの状態らしく、最近では急に体が痛んだりするようにもなっているらしい。


「……きっと、父さんと母さんが治療法を見つけてくれるさ」


「でも、私のせいでお父さんやお母さんに迷惑かけてる……それが本当に申し訳なくて……きっとお父さんもお母さんも私のこと……」


「アーニャ」


俺はアーニャの言葉を遮るように名前を呼び、そして手を握った。

すると、アーニャは不思議そうに俺の方に顔を向ける。


「父さんも母さんも迷惑がかかっているなんて全く思っていない。何としてでもアーニャを救ってあげたいという気持ちが痛いほど伝わってくるほどなんだから……もちろん、俺だって」


アーニャを救ってあげたい。

今、俺の中にあるこの気持ちはもしかしたら俺のものではないのかもしれない。でも、この一ヶ月、アーニャと一緒に過ごしてきて思ったんだ。

俺だって、この子を助けてあげたい。


「だから、あきらめるな。俺もできることはする。だけど、アーニャがそれを重荷に感じることなんてないんだ。親が子を、兄が妹を助けるのに理由なんていらないだろう?」


「兄さん……」


俺がそう言うと、アーニャの目に涙が溜まっていく。そして、俺が握っている手に力を入れて握り返してきた。


「うん……ありがとう。私だけこんなんじゃ駄目だよね……だから、私もあきらめないよ」


アーニャは涙を目に溜めながらも、決意を強くした表情を見せてきた。

そして、俺はその表情を見れたことが何よりも嬉しいと感じた。

そう、アーニャは本来、根が強い子なんだ。

「ほら……涙を拭け。可愛い顔が台無しだぞ」


そう言って俺は近くに置いてあるハンカチのような布をアーニャに渡す。


「……私、可愛くなんてないもん」


アーニャは受け取った布で涙を拭きながら、少しむくれた顔を見せる。

なぜかアーニャは自分がとんでもなく可愛いことを自覚してないため、不思議でしょうがない。


「アーニャは可愛いよ」


なので、俺が(前はシンが)その度にアーニャは可愛いということをしっかりと教えてあげているわけだ。


「っ……!もう!いつもだけど、そんな真剣な顔で言わないでよ!て、照れちゃうじゃん……」


な?俺の妹は世界一可愛いだろう?

……え?俺の本当の妹じゃないだろうって?

そんなのは知らん。今は俺がアーニャの兄だ。


「ま、そういうことだ。それじゃあ、そろそろ行くからゆっくり休めよ?」


俺は照れて顔を赤くしているアーニャにそう言い、握っていた手を離し、椅子から立ち上がった。

アーニャが「あ……」と残念そうな顔をした気がするが、きっと気のせいだろう。


「うん。ありがとうね、兄さん」


俺はアーニャの言葉に対して頷くことで返事をすると、アーニャの微笑んだ顔を見届けてそのまま部屋を出た。

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