始まりの光と声
「よし!いよいよラスボスだな!」
俺の名前は賢生 真一
今年で20歳になったばかりの社会人で、ゲームが好きといったこと以外はザ・平凡な人間である。
そんな俺は明日も仕事だというのに、自分一人だけが住んでいる1K6畳程の部屋でゲームをしている。
「さーて、やってやるか!」
今、プレイしているゲーム「ゼノファンタジー」は俺の中ではかなり傑作で、休日の全てを費やしてしまった程だ。
俺はジャンルでいうとRPGゲームが特に好きで、魔法があったりするファンタジーな世界物が好きなので、今回のゲームはズバリ当てはまっていた。
それこそ、今いる現実の世界から抜け出して、目の前のゲームの世界に行きたいと思うほどに。
(ま、そんな世界があるわけないんだけどな……)
現実は残酷だ。
行ってみたいと思えるような世界が画面の中には広がっているのに、実際にそこへ行くことはできないのだから。
それでもゲームをしている間は、会社で怒られ、特に何もない日々を忘れさせてくれるのだから感謝している。
ゲームを作っている人は本当にすごいと改めて思う。
「よし……!これで最後だぁ!」
俺の叫び声と共に、ゲームの主人公がラスボスに向けて必殺技を使用した。
その一撃がトドメとなり、断末魔を上げながらラスボスは消えていった。
「よっしゃあー!倒したぞ!」
ラスボスを倒したことで、主人公やその仲間達は戦いが終わり感極まっている。
そして、画面にエンドロールが流れ、画面に〜Fin〜の文字が浮かぶ。
俺はゲームを終えた感動を噛み締めつつ、ゲーム機の電源を切った。
「んー!……うわ!もうこんな時間か!」
凝り固まった体を伸ばし、時計を見ると時刻は既に1時を超えていた。
「明日から仕事だし、そろそろ寝ないとな……」
俺はそう言い、寝る準備をしようとその場を立ち上がる。
「ん?」
そのとき、微かだが男の声が聞こえたような気がした。
「なんか、声が聞こえたような……隣の人かな?」
この建物は防音性がそこまで良いわけでもなく、部屋もワンルームのため少し大きい声を出したり、物音を立てると隣に響いたりする。
たす……けて……くれ
「また……?でも、これ頭に直接響いているような……」
もしかしてイヤホンでも付けているのかと思って、耳を触って確認してみる。だが、イヤホンは付いていなかった。
そして、その直後だった。
「な、なんだ!?」
急に俺の床が光り出したのだ。
しかも、その光は徐々に目をまともに開けられないくらい強くなっていく。
「い、いったいなんなんだよ!これ!」
眩しさのなか、何とか足元を見てみるとそこにはゲームに出てくるような魔法陣のようなものが浮かんでいた。
しかし、それを見た刹那、光は俺を完全に包み込むかのように輝きを増していった。
「う、うわあぁぁ!」
俺は目を開けることができず、瞑ってしまう。
そして、気づけば意識が無くなっていた。
た……のむ……
「これはさっきの声……?」
そこは何もない虚無の空間だった。
そして、まるで夢の中にいるかのように頭がふわふわしているかのような状態のなか、意識が無くなる前に聞こえた声が再び聞こえる。
たすけて……ほしい
「たす……ける?」
声の主の姿は見当たらず、声だけが何もない空間に響き渡る。
俺のかわりに……妹を……!
その言葉を最後に、俺は再び意識が無くなってしまった。