*第97話 家族の肖像画
年が明けてオバルト歴1567年。
エルサーシアは46歳になった。
誕生日でもある昇節の日には、
近親の一族が集い盛大に祝った。
しかしエルサーシア当人は意識の無い、昏睡状態が続いていた。
まだ意識の有った去年の内に発注した家族の肖像画が届けられた。
精霊院時代からの友人、クローディアが涙に絵の具を溶かして描いた、
渾身の一架である。
中央には椅子に腰かけたエルサーシアとルルナが描かれ、
その後ろにはカルアンが居る。
片手をエルサーシアの肩に乗せ微笑んでいる。
その手にそっと自分の手を添えるエルサーシアも柔らかな笑みを
湛えている。
三人の娘達と精霊。
広い部屋だが、その壁一面を埋めた。
大作だ。
***
ダモン事変のその後だが、
カイザルを将来の王にする話は廃案となった。
離宮で働く娘に手を出そうとして抵抗され、
激高したあげくに殺してしまったのだ。
性根の腐った奴だ。
さすがに王には出来ぬ。
合議の末に元老院は決断した。
血統を遡り、フリーデルを王座に着ける。
公式には先々代の王シルベストの子である。
準備期間を考慮し、再来年の即位が決まった。
ここに黎明王ウイルアスから続いた王朝は事実上に於いて滅びた。
マルキスの描いた野望「我らの子を王に」
四十数年の時を経て実現した。
旧バルドー帝国は州ごとに分裂状態でまだ混乱が続いている。
精霊教会が調整役として介入しているが、決着までには数年を要するだろう。
世界は変わりつつある。
聖女の力の大きさを思い知った。
この世界は脆い。
簡単に滅びてしまう。
誰もがそう認識した。
この世界は変わりつつある。
***
寝台の周りを親族が囲む。
息が細い・・・
その時が、いよいよ訪れようとしている。
「・・・ン・・・」
「お母様?」
「カ・・・ア・・・」
唇が微かに動いている。
リコアリーゼが耳を寄せて必死に聞き取る。
「まぁ・・・カル・・・アン・・・
これ・・は・・・
だ・・・めだ・・・と・・・
言い・・・まし・・・た・・・
で・・・しょう・・・
うふふ・・・
お・・・し・・・お・・・き・・・
です・・・わ・・・ね・・・
ふふふ・・・」
幸せな夢を見ている。
エルサーシアの娘たち 完
ご愛読ありがとう御座いました。
次作「大聖女エルサーシアの復活」
引き続きご愛顧の程、どうぞよろしくお願い致します。




