*第93話 キーレント陥落
「レイラッ!ライラッ!無事かっ!」
「はい!お父様!」
「まだ戦えます!」
混乱の中、ようやく合流する事が出来た。
領軍は国境を守り切れなかった。
退却を余儀なくされ、領都に籠った。
「いや!引こう。これ以上は被害が大きく成り過ぎる。」
「でも!」
「私達が引けば殺戮は止まる。領民ごと全滅するわけにはいかないのだ。」
「お父様・・・」
オバルト歴1565年 後陽第三週二日
夜明けと共にバルドー軍が攻めて来た。
宣戦布告も何も無い。
明らかに国際法違反だ。
それだけでは無い。
北からは味方である筈のオバルト軍まで攻撃を仕掛けて来る。
挟み撃ちにされた。
領軍を二手に分けねばならず、敵を押し返す事が出来ない。
あっと言う間に領都を包囲されてしまった。
そして敵側には正体不明の聖女が居る。
いや、聖女とは呼べない。
教会が認定したのでは無いのだから、言うなれば魔女であろうか。
こちらにも聖人が四人居る。
ただの軍隊であるならば容易く撃退する事が出来た筈だ。
だが魔女を相手にそうはいかなかった。
なによりその数だ。
ざっと十人の魔女が襲い掛かって来たのだ。
「デル、あれは・・・」
「あぁ、間違いない。サーシアのクローンだ。」
「なんて事を・・・」
「我らだけでは対抗出来ない。キーレントは明け渡そう。
領民を救うにはそれしか無い。」
このまま戦えば領民ごと皆殺しにされる。
名誉の戦死など何の意味も無い。
生きていればこそである。
「行こう!カイエントへ!」
「はい!」
脱出後は直ちに武装解除し投降するようにと指示を出した後、
最小限の護衛と共に、エルサーシアの元へと落ち延びた。
***
「実にあっけないものでしたな!わっはっはっは!」
バルドー軍司令官サジアン・ゲライス元帥。
そしてオバルト軍司令官ウイリアム王太子。
「うむ、先ずは紛い物を追い出してくれたわ。後はロンミルの方だな。」
第二王子ロンミル率いるダモン討伐軍。
あちらも国境に到着している頃だ。
「十人の戦乙女でこの威力ですからな。
二十五人いれば、いかにダモンと言えどひとたまりも無いでしょうな。」
バルドーでは彼女達を戦乙女と呼んだ。
聖女でも魔女でも無く。
ただ戦いの為だけに作られた少女たち。
喜びも知らず。
人の温もりも知らず。
泣く事も、笑う事も、愛する事も知らない。
愛される事も・・・




