*第90話 ダモンの誇り
王都エルベルアントのミーチェー通りに在るレイサン家本邸。
そう、此処が本宅なのだ。
カイエント城はカイエント辺境伯の城。
レイサン家の本籍地はこの屋敷である。
その屋敷を王国騎士団と教会の聖騎士がぐるりと取り囲んでいる。
ジャニスの出奔に際して真っ先に疑われたのは、
当然ながらレイサン家だ。
王家と教会からの呼び出しに対して一切応じない。
痺れを切らした国王は騎士団に出動を命じた。
教会も聖騎士を動員して歩調を合わせた。
元より、それしきの戦力でレイサン家に
対抗出来る筈も無いが、メンツの問題である。
そして今、応接の間に緊張で顔を強張らせて
いるのは、騎士団長モーリス・ラインバーグ。
かつて精霊院でエルサーシアと同級生だったあのモーリスだ。
「お久しぶりですわねモーリス様。ラミア殿下はお元気?」
モーリスの妻はバルドー帝国の王女殿下だ。
身分違いの大恋愛だった。
「サーシア殿、今はそれどころでは無いよ。
私が何の為に来たのか分かっているだろう?」
「えぇ、もちろんですわ。
そして私の答えも分かっているのでしょう?」
「あぁ、だがそこを曲げて貰いたいのだ。
このままでは王家の面目が立たない。」
「知りませんわ、そんな事。
あの子は私の保護下に在りますの。
ダモンの庇護の元に入りましたのよ?
その意味がお判りになりませんの?」
懐に飛び込んで来たひな鳥を受け入れた。
ならば一族の総力を挙げて護る。
それがダモンの誇りである。
ジャニスはすでにダモンの城に匿っている。
「どうしても駄目か?」
「駄目ですわ。」
「君は変わらないな。昔からそうだった。
相手が誰であろうと一歩も引かない。」
「そうでしたかしら?」
「あぁ、そうだよ。交渉は決裂だね。
私が隊に戻ると同時に騎士団が屋敷に押し入る事になる。」
「どうぞご自由に。」
「お願いがあるんだ。」
「何かしら?」
「騎士達を殺さないで欲しい。
手加減をしてやってくれないか?」
「サーシアにそんな器用な事は出来ませんよ。」
「まぁ!それくらい出来るわよ、ルルナ!」
「辛うじて命があっても再起不能ですよ。」
「良いでしょう?生きているのだから。」
「ちょ!ちょっと待ってくれ!再起不能も困る!
せめて骨折くらいで勘弁してくれよ!」
だからぁ~
そんな細かい調整なんか出来ないんだって。
戦略爆撃機は街ごと破壊する為に有るのだよ。
ピンポイントで倉庫を狙うなんて無理なのだ。
分かるかい?モーリス君。
「お母様、私がお相手をしますから、
お母様は見物していて下さいな。」
「そう?じゃぁお願いね、サラーラ。」
器用さでアルサラーラの右に出る者はいない。
レイサン家の敷地に所せましと、
騎士団と聖騎士が体育座りをする事となった。
お見事!




