*第9話 母を訪ねて
グワッシャン!!!
直立した姿勢のまま前に倒れた鋼鉄の海底人は、
地面で一度きりバウンドして動かなくなった。
「ア、アリーゼ~!」
「まぁ!大変!」
さすがに慌てたルルナとハニーが大急ぎで潜水服を解体する。
中からすっかり茹で上がったリコアリーゼが引きずり出された。
「この娘っごさ誰いだば?」
「私のアリーゼだよぉ~」
人型精霊は自分の契約者を紹介する時に
”私の”と前置きして対である事を誇示したがる。
「わいはぁ!夢の聖女様だべが!」
*****
村長の屋敷に運び込まれたリコアリーゼは貴賓室で寝かされている。
貴族の客も多い観光地を仕切るだけあって、落ち着いた趣味の良い部屋だ。
隣の応接間ではルルナの前で村長が土下座をしている。
「か、堪忍してけろ!」
聞けばケイコールとエダンは谷を追い出され行方知れずだと言う。
「彼女がサーシアの友人だと知っていたでしょう?」
ダモンの友人に仇なす者は、ダモンの敵である。
「覚悟は出来ていますか?」
「ま!ま!待でけろ!ぎっづど探すで連でぐるねし!」
「3日だけ待ちましょう」
「そでばぁあんまし難んずがすだぁ。」
「死にたく無ければ頑張りなさい。
私は優しいから命までは取りませんけれど、
私のサーシアは容赦などしませんよ。」
真っ青な顔で部屋を飛び出した村長は、配下をかき集めて捜索を命じた。
かなりの額の懸賞金を出したものだから、
谷の住民も手の空く者は挙って参加した。
「見つかるかしら?」
体調の回復したリコアリーゼは不安そうだ。
「万が一の事があったらお母様が悲しみますわ。」
「夢の聖女様、えっとさえがねし?」
扉の向こうから問いかける者が居る。
この声は、たしか村長の息子だ。
「お入りなさいな。」
「すんずれすますだ。」
ペコペコと頭を下げながら入って来たのは、
予想通りにジャンゴであった。
「夢の聖女様さ体もぢどんだばねし?」
「えぇ、もう良くなりましたわ。」
「んだすが!いがったぁ。」
「それで?何か用かしら?」
「シオンさ達者だべが?」
その言葉を聞いた途端にリコアリーゼの目が吊り上がる。
「貴方がその名を口にするのは不愉快ですわ。」
ゆっくりと静かに、それが却って怖い。
「か、か、堪忍してけろ。」
「話はそれだけですの?」
「えや、シオ・・あん子がととさとかかさんが事でねし。」
「何か知っていますの?」
それを早く言え!
「オラの知りぇんどこさ隠ぐれちょるべさ。」
「直ぐに行きますわよっ!」
ジャンゴが言うには、追い出された二人を追い駆け、
路銀と手紙を持たせて、親しい友人に託したそうだ。
その後、無事に保護したと報せが届いたとの事だ。
村長を呼び出して馬車の用意をさせた。
谷に有る一番に豪華なものだ。
「命拾いしましたね、親孝行な御子息で良かったわね。」
畏まる村長の頭に肩に、降り始めた雪が積もる。
ルルナの言葉は、それより尚も冷たい。
案内役のジャンゴが御者となり、馬車は走り出した。