*第87話 精霊王
乾燥した空気と強い風。
何よりも長い長い時間が作り上げた
岩の砦が乱立する荒野。
遊牧民と旅人が通り過ぎるだけ。
この地を棲家とするのは小動物と
それを狙う猛禽類くらいのもの。
だった。
12年前。
この地に精霊教の総本山が建立された。
聖地のお膝元。
隣接するトナリン開発区は、もはや都市の規模に成りつつある。
ここから北の方角に視線を向けると、
天を貫くかと思う程に聳え立つ巨大な絶壁が視界を埋め尽くす。
その頂きにモスクピルナスが在る。
***
「はい、おっしゃる通りで御座います・・・」
「不束なりと悔いはべりたり・・・」
延々とお説教されている・・・
今日のルルナは気合が入っている。
なにせロイペのアンティークが手に入ったのだ。
しかも伝説級の名工の作だ。
引き受けたからには完璧にこなす!
それがルルナのモットーである。
サーシアも見習うべきだ!
ルルナのパンツを煎じて飲めと言いたい!
さすがのミサもルルナを相手に隠し通す事は出来なかった。
「記事を書いたのは誰ですか?」
と聞かれて
「新米精霊の香子ですぅ~」
と亀甲縛りで三角木馬に跨りながらゲロッた。
情報源秘匿の原則も砕け散った。
ハニーが良い仕事をしたのだ。
「この裏切り者~!」
そう言えばハニーも平凡同好会の一員だった。
補欠だけど・・・
ハニーは縄を持つとスイッチが入る。
相手が誰であろうと一切の容赦はしない。
心の師と仰ぐ明智伝鬼氏に恥じない仕事を常に心掛けている。
「もうその辺で許してあげてちょうだいな。
二人とも反省しているようだから。
そうよね?」
アルサラーラが助け船を出した。
「はい~反省してますぅ~」
「ゆめゆめ繰り返すまじ。」
「はぁ~いいでしょう。
サラーラに感謝しなさい。
では先ほどの件、お願いしましたよ。」
「はい!お任せくださいっ!」
「必ずや成し遂げて奉らむ!」
どうやら二人はルルナから何某かの措置を言いつけられた様だ。
大丈夫かな~?
「もう話は終わりまして?」
「えぇ、ちょうど切りの良い所ですね。」
「お母様!それにクラウスも来たのね!」
「はい、お久しぶりですサラーラ姉様。」
エルサーシアの兄オルエルトの孫、クラウスが遊びに来ていた。
ジャニスと同い年の10歳だ。
「ではみんなでお茶にしましょうね。
貴方がジャニスね、それと香子ね。」
「は、はい~お、お初におめ、おめ---」
「落ち着きなさいな、危ないわよそれ。」
「はい~お、落ち着きます~」
初めて対面する大聖女を前にして、
完全に舞い上がってしまったジャニス。
直立不動で気配を消そうとする香子。
精霊である香子には解る。
こいつはヤバイ奴だ!
ルルナ様は怖いが道理を弁えている。
でもこの人には通じない。
理不尽の権化だ!
「初めまして聖女ジャニス殿、
私はダモン家のクラウスと申します。
どうぞお見知り置きを。」
「ジョージ?」
「え?」
「あぁジョージ!また逢えたのね!」
「いや・・・私はクラウスです。」
「え?ジョージじゃないの?」
「えぇ、違います。」
混乱している。
ジャニスの前世、モルガンお雪。
その夫であったジョージ・デニソン・モルガン。
年齢こそ10歳だが、当に生き写しだった。
「あらまぁ!人違いナンパ?」
「違うと思います。」
うん違います。




