*第83話 お気遣い無く!
これまで正式に聖女と認定されたのは
大聖女エルサーシア様と、
その娘の三姉妹だけだ。
デーデルン出身の四姉妹も聖女だと
言われているけれど、
あくまでも非公式なものだ。
今回、私が認定されれば五人目の聖女。
しかも平民の無印聖女だ。
教会はそれが嬉しくて堪らないらしい。
王家も教会も大聖女様には頭が上がらない。
戦争に勝てたのも大聖女様のおかげだからだ。
感謝はしているが、とても扱いづらい人物で、
何をしでかすか分からない怖さがあるそうだ。
だもんで何の関係も無い私を抱き込んで、
大聖女様とは少し距離を置きたい様だ。
王家も先代がご逝去されてからは、
あまり親しい付き合いはしていないらしい。
現国王は影の薄いお方で、市井の人達には
名前を知らない者も多いのだとか。
ここいらで人気取りをしたいだろうから、
王族との縁談もあるかもよぉ~
と、
とてもおしゃべりな世話係の女官さんが、
私の髪を結いながら、聞いてもいないのに
教えて呉れた。
世知辛い話しを楽しそうに言うなぁ~
気が滅入る~
「ふむふむ、なるほどなるほど。
それで?ほうほう!なんとまぁ!」
香子はとっても聞き上手!
なんちゃら公爵夫人と、かんちゃら伯爵が
不倫関係だとか、王太子の長男は我儘で
手が付けられないとか、
王宮の噂を聞き出しては書き留めている。
そう言えば、こいつにはヤバイ癖があったな。
「あんた、それ人に言っちゃ駄目だからね。」
「え?なんで?」
あ~やっぱり~
言いふらす気まんまんじゃ~ん
こいつの事だから言うだけじゃ済まない、
ほにゃらら日記とか題名つけてばら撒くぞ!
「揉め事になるに決まってるからよ!」
「匿名で投稿するから平気だよぉ~」
「投稿って!何所に?」
何を言い出すんだ!こいつは!
「”平凡の友”とか言う会員向けの情報誌に
記事を書いてみないかって誘われたのよ。」
「誰に?」
「精霊の先輩に。」
「何で?」
「なんでも精霊新聞に”紫式部現る!”って
大見出しで出たらしいのよねぇ~
ほら~私って世界最古の女流作家ってことで
有名でしょう?」
精霊新聞なんてあるんだ・・・
「とにかく!私を巻き込まないように
してちょうだい!
やっかい事は御免よ!」
「分かってるってぇ~」
あぁ~不安だぁ~
***
聖女の就任式に備えて打合せや予行練習を
している所に、お客様がお見えですと
女官が取り次いで来た。
なんでも聖女アルサラーラ様の使いだとか。
何の用だろう?
応接の間に行くと、私と同じくらいの歳の
少女と人型の精霊が居た。
聖人サナ様とトモエ様だ!
序列では私の方が上になる筈なんだけれど、
有名人を前にすると緊張する~
「おぉ~来た来た!ほな行こか!」
「ど、何所へですか?」
挨拶抜きでいきなり?
「孤児院に決まっとるがな!
みんな待っとるで!早よ行こ!」
「こ、孤児院ですか?」
なんで?忘れ物あったかな?
「そうや!みんなで練習したんやろ?
一人だけ仲間外れは可哀そうやっちゅうて、
迎えに来たんやがな。」
あぁ~~~!
忘れてたぁ~~~!
精霊歌だぁ~~~!
そう言えば今日だった~~~!
「い、いえ~どうぞお気遣い無く~」
「何言うてるねん!主役が居らなんだら
話しにならんやんけ!」
「主役?」
「そうや!アンタ聖女なったそうやな!
ほいで精霊が紫式部やてな!
平凡同好会の連中喜んどったでぇ~」
「平凡同好会?」
「知らんかいな?
ミサはんが主催してはるんやけどな~って
そんなんどうでもえぇねん!」
うわぁ~なんどっしゃろう、この人。
やりにくおすえ~
***
で・・・
断り切れずに帰って来ました孤児院へ・・・
「まぁ!貴方がジャニスね!可愛らしいわね!
さぁ、こちらにいらっしゃいな。」
と・・・とんでもない別嬪さん・・・
この人がアルサラーラ様か・・・
まさに男装の麗人!
カッコ良い~~~
「は、初めまして!ジャニスと言います!」
「分かっていましてよ。
私はアルサラーラ、
サラーラと呼んで頂戴な。」
「はい~~~!」
さすがコブシ・ジェンヌのトップスター!
後光が差してる!
「さぁ、みんな並んで!
一緒に歌いましょうね!」
まじかっ!
あぁ~あの顔で!あの声で!
あれを歌うのか!
えぇい!ままよっ!
この人と一緒に歌えるのなら、
どんな下品な歌でもかまうものか!
よし!歌うぞ~~~!
『父~ちゃんがコタツでぇ~♪
屁ぇ~こい~た~ぁ♪
母~ちゃんもコタツでぇ~♪
屁ぇ~こい~た~ぁ♪
おいらも~おまけでぇ~♪
屁ぇ~こい~た~~~ぁ♪』
ドン~~~チャッチャ♪ドン~チャ♪
ドン~~~チャッチャ♪ドン~チャ♪
『今~も~聞こえ~る~♪
よがりたお~す声~え♪
今~も~聞こえ~る~♪
あの~あえ~ぎ声~え♪
工事現場~の~ビルの~上~♪
向かいの~ホテル~が~♪
丸見え~で~♪
聞こえ~て~来るよ~♪
昼間~から~♪
若い~ねぇちゃんの~♪
盛る~声え~♪
エロい~ねぇちゃんの~♪
盛る~声え~♪』
これが精霊歌どすえ~~~~~~




