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大聖女エルサーシアの娘たち~あっちゃこっちゃで大騒ぎ!  作者: おじむ
第三部第一章 侍女物語
76/97

*第76話 ネイサン・パレット

デカシーランドがまだ帝国の植民地だった頃。

シテネー州の片田舎かたいなかチウキ村で

ネイサンは生れた。


漁業が中心の小さな村で、バルドー人の

役人と地元の娘との間に出来た私生児しせいじだ。


父親には本国に妻子がいて、

認知はして貰えなかったが、

生活の面倒はちゃんと見て呉れた。


バルドーの役人と言えば地元では名士めいしだ。

ネイサン親子も、わりかし丁寧な扱いを受けた。

だがネイサンには友達が居なかった。

子供達の中で浮いた存在だったのだ。


大人たちは表向き笑顔であったが、

家の中では陰口をささやいていたのだろう。

子供はそれを知っている。


午前中は教会で勉強し、放課後は子供達が

楽しそうに遊ぶのを横目にしながら、

ぶらぶらと船着き場まで行き、

出入りする船を眺めて過ごすのが日課だ。


「何しけたツラしとんねん。」


そんなネイサンに声を掛けて来たのが

ネオミールと言う少女だ。

漁師の娘で男勝おとこまさりの少々乱暴な所がある。

ネイサンの苦手なタイプだ。

挿絵(By みてみん)


父親は酒癖が悪く、しょっちゅう揉め事を

起こす鼻つまみ者で、彼女もまた

子供達の中で浮いた存在であった。


「別にええやろ、放っとけや。」

「なんや、人が親切に話かけたったのに。」

「なんやてなんや、誰も頼んでへんわ。」

「なんやてなんやてなんや、嬉しいくせに。」

「なんやてなんやてなんやてなんや!

なんも嬉しないわ!」


「なんやてなんやてなんやてなんやてなんや!」


「なんやてなんやてなんやてなんやてなんやて

なんやてなんやてなんやてなんやてなんや!」


「もうええわ!わははははははははは!」

「あはははははははははははは~~~!」


それからは、なんとなく何時も一緒に居た。

やがて恋心が芽生えて将来は夫婦になろうと

互いの気持ちを確かめ合った。


12歳で役所に見習いで入り、14歳で

正式に職員となった。

そろそろ祝言しゅうげんを挙げて所帯を持とうかと

思って居た頃だった。


あいつらが村にやって来た。


ミリピッピ州から流れて来たトム・ヒーヤー

と言う名の男と、その仲間達だ。


トムには不思議な魅力があった。

話も上手で、村の集会所で若者を集めては、

世の中の事や、この国の未来の事とかを

熱っぽく語っていた。


ネオミールが、ドはまりしてしまった。

目をハートマークにしてトムを見る。


「あいつに近づくな、なんかヤバイ。」


ネイサンはトムのうさん臭さに気付いて

注意したが、すでに手遅れだった。


「なんや!焼きもちかいな!みっともない!

トムはんはな、この国を変えようと

してはるねん!」


「なんやてなんや!お前の為に言うてんねん!」

「なんやてなんやてなんや!

トムはんを悪う言わんといてんか!」


「なんやてなんやてなんやてなんや!

あいつと俺と、どっちが大事やねん!」


「なんやてなんやてなんやてなんやてなんや!」


「なんやてなんやてなんやてなんやてなんやて

なんやてなんやてなんやてなんやてなんや!」


「もうええわ!あんたとはもう終わりや!

一生磯くさい村で紙にハンコついとったら

ええねん!

時代遅れのあんたにはお似合いやで!」


その目には侮蔑ぶべつの色が浮かんでいた。

彼女からそんなふうに見られた事が、

恐ろしかった。


荒々しく部屋を出て行く彼女を

言葉も無く呆然ぼうぜんと見ていた。

二日後、彼らと共にネオミールは

行ってしまった。


無気力な日々が続いた。

淡々と仕事だけをこなす毎日。

同僚の慰めに愛想笑いで答える。


ある日、男がたずねて来た。


「やぁ、君がパレット君だね。」

「へぇ、そうでおますけど。」

「少し話がしたいのだけど良いかな?」


つかみどころのない、ぼや~っとした

特徴のない顔の男だった。


何故か彼はネオミールの事を知っていた。

そしてネイサンにレジスタンスに入るように

勧めた。


スパイとして。


帝国の情報を提供するから、それを利用して

連中の中枢に食い込めと言うのだ。

そうすればネオミールを取り戻せるかも

知れないとささやかれた。


今にして思えば、何かの術だったのかも

知れない。

本気にしてしまった。


ネイサンはレジスタンス”白い恋人たち”に

身を投じた。


***


「あれから28年も過ぎたのか・・・」


今日は聖女御一行様と一緒に

孤児院への慰問と商業組合幹部との

会食に同行する。


「大統領、お時間です。」

「うむ。」


重い足取りは体重のせいだけなのだろうか。


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