*第71話 おさびし山
カヒの心の原風景。
それは幼き日に、ひとり隠れて泣いた屋敷の裏山。
楡の木の枝に登り口笛を吹き小鳥を呼んだ。
その頃はまだソイランが主人格で、
カヒとデコー老人が、代わる代わるに慰めていた。
カヒが主人格となって以来、その山を訪れる事は無くなった。
「うふふ、どうして今さら思い出すのかな?」
窓の無い独房の壁に映る幻を眺める。
「あの木はまだあるのかな?」
<さぁ、どうじゃろうかの~>
<きっとまだあるよ、行ってみようよカヒ>
「あぁ、そうだね。行こうソイラン」
「あぁ~もうしろしか~」
「そげん気にしぇんでもよかろうもん。」
「いらいらするったい!」
相変わらず気の短い監守が、
何時もの様に怒鳴りつけようと腰を浮かせた。
ドッゴォ~~~~~ン!
天上に穴が開き、地下牢に日の光が差し込む。
土埃の中に目を凝らすと人影がゆっくりと降りて来るのが見えた。
「な!なんね!きさんは!」
「カヒは何所だ?」
忍者装束に赤い仮面の男がそこに居た。
「く!曲者んたい!」
「侵入者じゃぁ~!」
シュパッ!シュパッ!
一閃、二閃。
刃が閃く。
憐れ看守の首は胴体から転げ落ちる。
「うふふふふふ。随分と騒がしいね。私に何か用かな?」
「お前がカヒ・ゲライスだな。一緒に来て貰おう。」
「うふふ。それは構わないが、一体、君は何者かね?」
「あっ!忘れてた!これを言わないと駄目だった!
『アカハジ参上!』
いやぁ、マズイな・・・
最初に言った事にして呉れないかな?」
「良いけれど・・・何?それ。」
***
精霊院大講堂で劇団春夏秋冬の定期公演が上演されている。
今回の演目は”ホモレット”だ。
オバルト王国の”拳の会”と提携し、
花形スターを招いての競演が実現した。
「はぁ~素敵でしたわ~サラーラ様。」
「サインを頂けないかしら?」
「無理よ、親衛隊のガードが凄いもの。」
今や団員は五十名を数え、ファン倶楽部会員は千人を超える。
精霊院を卒業したら正式に入会する事も決まり、
コブシジェンヌに成ると言う夢は、アルサラーラの目の前で輝いていた。
「サラーラ、今日の流し目は良かったわ。」
「有難う御座います!お姉様!」
「観客の一人一人が恋人だと思うのよ。」
「はい!お姉様!」
コブシジェンヌのトップスター、
マリアンヌに褒められてアルサラーラの目に薄っすらと涙が滲む。
「王都の舞台に一緒に立つ日が楽しみだわ。」
「光栄ですわ!お姉様!」
「残念だけどその夢は叶わないわ。」
「御免なさいねサラーラ。」
「ここで貴方は死ぬの。」
「サラーラ・・・」
若草姉妹が楽屋に現れた。
親衛隊は気を失っている。
「大丈夫よ、怪我はさせていないわ。」
軽い衝撃波で脳震盪を起こしたようだ。
「話は聞いていますわ、反抗期ですって?」
いや、だから違うんだって・・・
「問答無用よっ!」
「覚悟しなさいっ!」
「『お座りっ!!!』」
アルサラーラの精神系魔法が発動した。
脳の運動中枢に電磁パルスを当てて、強制的に従わせる。
四人並んで体育座りをさせられた。
パンツが丸見えである。
「な!何よこれ!」
「卑怯よ!」
「猫被ってたのね!」
「漏れる~!」
総合力のリコアリーゼ。
破壊力のサラアーミア。
そして多彩な技を操る、技能力のアルサラーラなのだ。
「あら、もう終わっていましたの?」
「お母様!」
エルサーシアが来た!
「喧嘩はもう御終いになさいな。さぁ、一緒に帰りましょうね。」
「お、お母様・・・」
エルサーシアの顔を見た途端に涙が溢れて、言葉が出てこない若草姉妹。
「それに貴方達、パンツはこまめに替えなさいと言いましたでしょう?
いつから履いていますの?」
「お・・・おとといから・・・」
「んんんまぁ~~~!」




