*第54話 引っ越しやさかい
「ちょっとぉ!どうして離宮なの?」
「アーミアの隣が良いわ!」
双子がゴネている。
カイエント城は元ニャートン帝国の皇宮である。
やたらと広い。
延々と続く城壁に囲われた中に、幾つもの宮殿が点在している。
林には野生動物が生息し、湖にはネッシーが泳いでいる。
「いやあそこは本宅やさかい家族だけですねん。
おたくらは、お客さんですよってに離宮でおます。」
かつての内裏を本宅として使用している。
「シモーヌだって住んでいるじゃないのっ!」
「のっ!」
「うちは筆頭侍女として師匠の傍に居らんとあきませんねん。」
双子の引っ越しと入学準備を仕切るようにとエルサーシアから任されたものの、
転生者では無い、言うなれば本物のお姫様の相手をするのは初めてだ。
なにせ大公家のお姫様なのだ。
”殿下”と呼ばれる立場だ。
男爵位であるシモーヌでは、本来なら口を利く事すら憚られる、
雲上人なのである。
だが、長年エルサーシアと共に過ごして、
異常な体験を重ねて来たシモーヌは、良い塩梅にぶっ壊れていた。
「もっと近くにも離宮が在るじゃないの!」
「どうしてこんな端っこですの!」
サラアーミアたってのお願いである。
「湖もあるし景色よろしいですやん。」
「あれは何ですの?浮かんでいるのは!」
「気になって景色どころではありませんわ!」
「あぁ、あれは師匠の契約精霊ですわ。体はデカイけど大人しいでっせ。」
「怖いのよっ!」
「アーミアは何所?連れて来なさいよっ!」
「いとはんは勉強中ですわいな。」
「サラーラでも良いわっ!」
「こいさんもですがな。」
「じゃぁ誰と遊ぶと言うのよっ!」
「二人で遊んだらよろしおますやん。」
「二人では海賊ごっこが出来ないでしょう!」
「しょう!」
「知らんがな!」
「あぁ~もう!うっとおしいんじゃぁ!」
シモーヌの契約精霊ヤンキーモモが切れた!
背中に”愛羅武勇”の金文字刺繍の入った特攻レディースガウンに、
ひらひらのミニスカート。
片手にステッキ代わりの竹刀と、真っ赤なゴム長靴。
コンセプトが全く分からない。
でもパンツが見えるから良しとする!
「ごちゃごちゃ言ってねぇ~で、さっさと中へ入れっ!」
「じゃぁ貴方でも良いわ!」
「貴方が海賊ねっ!」
「は?」
「私がお姫様をやるわ!」
「いやちょっと待てや!」
「では勇者は私ね!」
「きゃぁ~~~助けてぇ~~~」
「勝手に始めるな!」
「おのれっ!海賊め!」
「なんとかしてくれシモーヌ!」
「後は頼んだでぇ~~~」
「シモーヌ~~~~~!」
逃げ足上等!
オォ~!ラピーヌ~~~!




