*第53話 聖人の娘
両親共に聖人だ。
その娘だからと言う目で周りは見る。
人型精霊と契約が出来るかも知れないと。
生れつきそれが出来るのは聖女だけだ。
だからもし”聖女の秘術”を受けずに人型精霊と契約が出来たなら
それは新たな聖女の系譜が誕生したと言う事になる。
母方の実家であるチャーフ公爵家は、過剰な期待を抱いていた。
それはオバルト王家も同じであった。
オバルト王国が諸外国の中で優位性を保っているのは聖女の出身国であり、
彼女達が王家の親族だからだ。
しかし・・・
とにかくエルサーシアは扱いづらい。
何を仕出かすか分からないし、面倒くさいの一言で断られる。
彼女だけでは無い。
レイサン家の人間は何所かズレている。
正直な所は存在が怖い。
「フリーデルは王族であるし、チャーフは直臣だ。
キーレントから聖女が誕生するのなら、レイサンとは距離を置けるのだがな。」
「まったくダモンとレイサンは厄介で御座いますな、殿下。」
会話の主は王太子ナコルキン。
その相手はターラム大公ルイスールだ。
「父上とは親交があるようだが、あの者達は好かぬ。」
ダモン家は王命に対して拒否権を持つ。
数百年前のダモン併合に伴う盟約だ。
国防の一翼を担い軍務には着くが、
国政に参加しようとしない。
まだコイントが敵国であった頃は北方の防衛線としてそれでも良かったが、
和平が成立した今では政治案件だ。
「もはや時代は変わった。戦で解決をする世は終わったのだ。」
軍を縮小して予算を削りたいのだが、それをすると強力な軍事力を持つ
ダモンとのバランスが崩れる。
ましてや他国との軍縮交渉など出来ない。
「おたくがそのままなら、うちもそのまま」
そう言われるのがオチだ。
「戦闘狂の山猿ですからな。」
軍縮を打診したが
「我らはダモンである。」
と言って聞く耳を持たない。
知るかそんな事!
ちょっとは政治に関心を持てよっ!
「ダモンとは敵対するなと父上はおっしゃる。
だが、あ奴らが国政の妨げと成りつつあるのだ!」
「我が父もそうでしたな。ダモンを信用し過ぎなのです。」
「いずれは取り除かねばならぬ。」
「御意に御座いまする。」
様々な思惑の中、降霊の儀が行われた。
結果は上位上級精霊との新規契約が成立した。
レイサン家以外では初の事である。
充分にお目出度い。
エルレイラはキツネの精霊、エルライラはタヌキの精霊だ。
「良かったわぁ、人型じゃ無くて。」
「そうだね。」
フリーデルもタチアーナもほっとした。
聖女なんかにされたら厄介なだけだ。
エルサーシアくらいの強烈な個性が無ければ、政治の道具にされてしまう。
「御免なさい・・お父様・・・」
「御免なさい・・お母様・・・」
「何を言っているの?私もデルも、とても嬉しいのよ!」
「その通りだよ、レイラ、ライラ。」
「本当に?」
「聖女じゃ無くても?」
「聖女なんてキワモノは、真っ当な人間が成るものでは無いのよ!」
確かにっ!
「そうですの?お母様」
「えぇ!」
「そうですの?お父様」
「あぁ~う、うん、そうかな・・・」
ちょっと気まずいフリーデルであった。




