*第5話 長女リコアリーゼ
大陸間大戦争が終結して4年。
大聖女の称号を冠したエルサーシアは、
聖地総本山を拠点とし、本人の意思に反して忙しい毎日を送っていた。
来年に開校する総本山精霊院の学長に任命されてしまったのだ。
さらに基礎教育科を新設し、5歳から11歳までの学生を
受け入れる事になった。
元来が面倒臭がりやのエルサーシアは山積みの書類にうんざりしていた。
「懐かしい人から手紙が来ましたよ。」
エルサーシアの契約精霊ルルナが
ひらひらと嬉しそうに封書を見せる。
差出人の名を見たエルサーシアの顔もパァ~ッと花が開く。
「まぁ!ケイコちゃんからですわ!」
「何て書いて有るのですか?」
「まだ見ていませんわよ、せっかちですわね。」
「早く早く~」
「え~っとぉ・・・・・
・・・・・・・・・・・」
「まぁ!大変ですわ!」
########
来年からは私も精霊院に通いますの。
飛び級しても良かったのですけれど、
折角だから新設の総本山へ入学なさいと
お母様に勧められましたの。
基礎教育科も在りますので、
アーミアとサラーラも其方に入学しますのよ。
「アリーゼちゃ~ん!
師匠が呼んでまっせぇ~!
大至急や言うてますわぁ~!」
筆頭侍女のシモーヌが来ましたわ。
シモーヌは独立運動を主導したレジスタンスのメンバーでしたけれど、
お母様に引き抜かれて付き人になりましたの。
その後、ム-ランティス大陸を支配していたニャートン帝国との
戦争で活躍して、男爵位を徐爵されましたの。
「大声を出さないでシモーヌ、はしたないですわよ。」
「はぁ、すんません・・・つい」
「それに廊下をドタバタと走ってはいけないと何度も言いましたでしょう?」
「い、急いどったもんで・・・」
「子供ではないのですよ?
一児の母親でしょう?
リョーマンが真似をしたらどうしますの?」
「エラいすんません・・・」
「事故が起こってからでは遅いのですよ?」
「ホンマにすんません・・・」
「”すまん”で済んだら『警察』は要らなくてよ?」
「ケイサツ?って何んですのん?」
あ・・・
「せ、精霊言語で”憲兵”と言う意味よ!」
「精霊界にも憲兵いてますのん?」
「当然よ!」
「そうですか~勉強なります~」
後ろでハニーとモモがコソコソしていますわ。
ハニーは私の契約精霊で、モモはシモーヌの契約精霊ですの。
「お母様が呼んでいますのね?何方にいらっしゃるのかしら?」
「総本山の執務室ですワ。」
「そう、直ぐに参りますわ。」
えぇ、そうですのよ。
私は転生者ですの。
お母様も、二人の妹達もそうですの。
私達はそれぞれに地球で死んで、この世界に人格をコピーされて
生まれて来ましたの。
内緒ですわよ!