*第34話 キューピーハニー
いきなりだった・・・
声を掛けようと近づいた途端に、地面に叩きつけられた。
「おごっ!」
痛ってぇ~!
何だぁ~?
「ウゴォー!ウゴゴー!」
魔法を発動しながら近づいて来たから大型化したサスケが取り押さえたのだ。
問答無用である。
「サ、サスケ!どすたべが?」
「ウゴッウゴゴッ!」
「申す訳ねだな、オラにゃ分がんね。」
さすがに動物精霊の言葉は理解できない。
「アリーゼ様さ呼んで来るべさ。」
*****
とんだ誤算だ!
こんな凶暴な奴らだとは思わなかった!
まだ一言もしゃべって無いのに!
ニコニコしながら近づいただけじゃねぇ~か!
するか?普通。
いや確かに悪意はあるよ。
それは認めるよ。
似顔絵を描きながら褒めちぎって、
仲良くなったら絵のモデルに誘って、
アジトに連れ込んで薬漬けにして・・・
今まで失敗した事は無かったのに!
なんだ!このでかい猿は!
さっきまで肩にちょこんと乗っかってた白い小っこいやつか?
そんな精霊がいるのか?
契約者の指示も無いのに
自発的に行動するなんて反則だろ~!
自由意志を持っているのは人型精霊だけの筈じゃねぇのかよぉ~
ヤバイよ、ヤバイよ~!
聖女が来たよぉ~。
長女のリコアリーゼだよぉ~。
あいつもかなり危ないんだ。
7歳でニャートンの戦艦をボコボコ沈めてたからな。
とにかく大人しくして置こう。
******
「まぁ!どうしましたの?」
「ウガ!ウゴウゴウゴ!」
取り押さえた経緯をサスケが説明した。
光学系の魔法で容姿を偽り接近した時点でアウトだ。
「そう、シオンに悪さをしようだなんて、そんなに死にたいのかしら?」
目が吊り上がっている。
怒っている証拠だ。
「ま!待って下さいよぉ!
なんの事ですかぁ~!私は画家です!
そちらのお嬢様が余りにも可愛らしいので、
絵のモデルになって欲しかっただけですよぉ!」
「可愛ぇらすだばめぐせでやぁ~」
「ウブですわねぇ~シオンは。」
「誤解なんですよぉ~もう諦めますからぁ~
許してくださいよぉ~」
「城に連れて行きますわ。」
「ウゴッ!」
「ちょっ!話を聞いてっ!」
「ハニー、縛り上げて頂戴な。」
「はぁ~い。」
「話を聞けよ!あ、いや、聞いてください!」
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「うぅ~・・・
ふぅ~、ふぅ~、ふぅ~
おふっ・・・
うぅぅぅぅ~~~」
で、この状況である。
「洗いざらい、お話しなさいな。」
「私は、うぅ~
只の~はぁ~
画家ですぅ~うぅ~」
「ハニー、お願いね。」
「はぁ~い!任せてぇ~」
キューピー形態クイ~ンスペシャルの嬢王様ハニーが鞭を唸らせる。
「この薄汚いブタがぁっ!」
「ぎゃぁぁぁ~~~!」
「さぁ、見ていてもつまらないから、私達はお茶にしましょうね!」
「だ、大丈夫だべか?」
「こういうの得意なのよハニーは。」
「んだのが・・・」
「嬢王様とお呼びっ!!」
「あぎゃぁぁぁ~~~!!」
「あはははははは!」
怖い・・・
ハニー怖い・・・
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「はぁ~良が香だべなぁ~」
「カモミールとレモンバームよ。」
「ハンブテーだべな。」
「落ち着くわねぇ~」
暦の上では秋なのだが、ムーランティスでは四季を味わう事は出来ない。
その代わり一年を通して色とりどりの花を愛で、午後のひと時を中庭で微睡む。
「そろそろ頃合いですわね。」
あれから四刻程が過ぎた。
もう充分だろう。
部屋の中では四つん這いのタラルにハニーが跨り、
お馬さんごっこをしていた。
「ほら!しっかり歩きなさい!」
「ひひぃ~ん!」
「調教は終わったの?」
「うん!完璧だよぉ~」
「ひひぃ~ん!」
タラルはハニーの僕となった。




