*第32話 ウルサイヨのバラ
精霊院大講堂にて”劇団春夏秋冬”の初回公演が開催された。
院生のみならず開発区の住民も押しかけて
入りきれなかった者は窓から覗き込んでいた。
満員御礼であった。
「あぁ・・・素敵でしたわぁ。」
「アーミア様のメスカル最高でしたわ!」
「アリーゼ様のオンドレにも痺れましたわ!」
「私、アーミア様の声を始めて聞きましたわ!」
「あら、あれはサラーラ様の声ですのよ。」
「え?口パクですの?」
「ほら観劇のしおりに書いて有りますわ。」
「まぁ!本当ですわ!声:アルサラーラって書いて有りますわね。」
「ではサラーラ様はマリーナントカネットの二役ですのね。」
「エリーゼ様のポロリーも可愛かったわね!」
「私はシオン様のペロゼンが良かったですわ!」
「踊りが素晴らしかったですわね!」
「あれ本当に接吻したのではないかしら?」
「まさかぁ~」
「でもひょっとしてぇ~」
「クライマックスの精霊歌!!」
「それ!泣きましたわぁ~」
「あぁオンドレ!私を置いて行くな!お前を愛しているのだっ!」
「きゃぁ~~~!」
「萌えますわぁ~~~!」
大好評である!!
*********
「ぷはぁ~~~終わりましたわぁ~」
楽屋代わりの談話室のソファーでぐでぇ~~~っとしているのは
リコアリーゼである。
「ほ、本当にチューしたべさ!」
シオンが抗議している。
アルサラーラが本番で強引に接吻したのだ。
「まだ怒っているの?あれは事故よ、事故。
ちゃんと謝ったでしょう?」
「し、し、舌入れたべさぁっ!」
首をガシッとホールドして足で胴体をカニ挟みし
逃げられない様にしたのだ。
「ふにゃふにゃもごら。」
サラアーミアも少し怒っている。
「女の子同士なのだから良いでしょう?」
良いのか?
「ごにょごにょふにゃり。」
「そこがまた萌えるのよ、お姉様!」
末恐ろしい6歳児である。
「つ、次は私がペルゼン役をやりたいですわ!」
おやぁ?目覚めたのか?
「まぁ!エリーゼ!もちろん宜しくてよ!」
一瞬で隣に移動したアルサラーラがエリーゼの手を取り見つめる。
「百合の花はお好きかしら?」
「好きかも・・・」
「ちょっと良いですか~」
ミサは何やら不満があるようだ。
「何かしら?」
「ルルナ姉さんやハニーは貴婦人役でセリフも沢山あるのに、
何で私達は町娘なんですかぁ?」
「セリフも無いし、衣装も地味だし。」
「これって差別ですよねぇ~」
平凡同好会にピッタリの役柄だった。
実に様に成っていたのだが・・・
気に入らなかったようだ。
「仕方が無いわねぇ。
じゃぁ次回作では出番を増やしてあげますわ。
だから今回は辛抱なさいな。」
「次回作?」
「えぇ、ハイラムの密林が舞台なのよ!」
「どんな話ですか?」
「密林に捨てられた赤ん坊が動物たちに育てられて、
やがて密林の王になるの!」
「面白そうですね!」
「でしょう?パイオツキングって言うのよ!」
「なんでパイオツ?」
「そこは色々とあるのよ!大丈夫!成功間違い無しよ!
心~配~ないさ~~~♪」
不安しか無いぞっ!!
*********
城に戻るとシモーヌが呼びに来た。
「師匠が”夕陽の庭園”で待ってまっせぇ。」
宮城の東側に在る庭園は、沈む夕日の逆光に映える設計が為されている。
あぁ、念のために説明するが、この世界では西から昇ったお日様が、
東へ沈む。
これで良いのだ。
「お母様が?なにかしら?」
「今日の晩餐は、お外かしら?」
「ふみゅふみゅ~」
今日はエリーゼも一緒なのでサラアーミアの人見知りは発動したままだ。
そう簡単には慣れない。
庭園では”蝶々の舞”の衣装を纏ったエルサーシアとルルナ、
そしてケイコールが待っていた。
「かか様!サーシア様!そでばぁ!」
「今日は”キヨランテの夜”よ。」
「忘れだがやぁ?」
「忘れるものがやぁ~」
な・・・泣きそう・・・
「貴方も着替えて来なさいな。」
「んだす!」
井桁に組まれた松明に火が着けられて、
やがてパチパチと爆ぜる音と共に炎が立ち昇る。
上昇気流に巻き上げられた火の粉が生れては消え、
消えてはまた生まれる。
ドンドコ♪ドコドコ♪
ドンドンドン♪
ドンドコ♪ドコドコ♪
ドンドンドン♪
カルアンの打つ太鼓に合わせて三人と一柱の踊り子が舞う。
あの頃に時が戻る。
あ~すた天気さすてけろや~♪
あ~すた天気さすてけろや~♪
あ~すた天気さすてけろや~♪
あ~すた天気さすてけろや~♪
夕陽が奇麗だ。




