*第3話 七色の蝶々
この世界で手紙を届ける方法は二つ。
自分で郵便魔法を使う。
教会に依頼する。
通常はそのどちらかである。
郵便魔法は自分の契約精霊に依頼して
郵便を専門に請け負う精霊を呼び出して貰う。
高位の上級精霊の呼びかけでなければ応じて呉れない。
従って一般的には教会に依頼する事になる。
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この数日、シオンは部屋に籠り泣き続けている。
食事も喉を通らない。
辛うじて薄いスープを口にする程度である。
無理に食べさせても吐いてしまう。
本人も食べようとはするのだが、
体が受け付けて呉れない。
少女の存在は揺らぎ始めて、徐々に消え去ろうとしていた。
日毎にやつれて行く娘を慰める事も出来ない。
何と言って励ませば良いのか?
「愛人も悪く無いよ!」
などとは言える筈も無い。
このままでは本当に死んでしまう。
ケイコールは意を決した。
部屋の中でシオンは泣き疲れて寝ている。
起こすのは可哀そうだが大事な話が有る。
「シオンや、起ぎな、起ぎなへ。」
「か、かか様・・・」
「逃げるべさ、シオン。」
「逃げる?」
「んだ、オバルトさ行げ。」
「オバルトだべが?」
「聖女様に、エルサーシア様にお願ぇするべさ。」
「だども、そったら事すたら・・・」
この谷で村長に逆らったら暮らしては行けない。
他所の土地に縁者も居ない。
「後の事はえがら、我がの明日さ考げぇるべさ。」
「かか様・・・」
「まんず食ぇ、がへねだばまいね。」
「わがたちゃね。」
オバルト王国へ行くには陸路で約60日。
海路の方が早いが非常に高額であり、
金持ち相手の商売なので庶民は相手にされない。
陸路で行くにしても銀貨40枚は必要だ。
親子3人が半年は暮らせる大金である。
「街さ着いだら、売るべさ。」
ケイコールは小箱から髪留めを取り出す。
七色の宝玉が嵌め込まれた蝶々の形をしている。
「かか様!こでは!」
それは昔、エルサーシアから送られた友情の証。
母の宝物。
「お前さの為に売るだ、エルサーシア様も許すて呉りょべさ。
んでこの手紙さ出すべな。」
エルサーシアに救援を乞う内容が書かれている手紙だ。
この谷にも教会は在るが、村長の息が掛かっているので
信用が出来ない。
季節は後陽も半ばを過ぎ、北国の短い夏が駆け足で逃げて行く。
旅立つのならば急がなければ途中で雪が道を塞ぐ。
「10日後の夜さ立つべな。」
「わがたす」