*第29話 愛あればこそ
「はぁ~い、いいよぉ~!
もう少し足を開いてぇ~!
そうそうそう!
可愛いよぉ~!」
「なんで私まで・・・」
「道連れだべさ!」
このままでは逃げられないと思ったシオンが、最後の悪あがきをしたのだ。
「エリーゼさ一緒でねが行がね!」
無関係の人間をほいほいと聖地には連れて行けないだろうと思った。
「じゃぁその子も連れて行きましょう。」
ほいほいと連れて行くようだ。
「この格好で撮るの?」
「んだなや。」
銀色の細かい鱗状の生地で出来た、超ミニのワンピース。
ロングブーツに手袋。
頭には触角の生えたカチューシャ。
これは・・・あれだ。
いわゆるピンコレデーのコスプレだ。
「向い合せで両手を繋いでぇ~!。
指を絡ませてねぇ~!。
体をくっつけてぇ~!
いいよいいよぉ~!
じっと見つめ合ってぇ~!
うん!最高ぉ~~~!」
「ちょっと!顔が近いわよ!」
「しょがねべさ!」
「ほら!エリーゼ!笑って!
そうそうそう!
もうYou達チュ~しちゃいなよぉ~!」
「無理だべさ!」
「出来ません!」
その後も散々にチラロイドされた二人は、夕方になってようやく解放された。
「どうしよう・・・親にバレたら勘当されるかも・・・」
「会員制だはんで大丈夫だぁ。」
平凡同好会のファン倶楽部会員向けの冊子で、
通し番号の入った一人一冊の限定品だ。
外部には流出しない。
たぶん・・・
あっ!忘れてた!
サーシア様に今後の事を相談しないと!
エリーゼを寮まで送り届けて、大急ぎで城に帰った。
ギリギリで晩餐には間に合った。
「何所へ行っていたの?」
リコアリーゼが駆け寄って来た。
姿が見えないので心配していたらしい。
実は斯々然々と事情を話す。
「もう!あの子達は碌な事をしないわね!後できっちり叱っておくわね。」
「えんやぁ、けっこう楽んのすがったべさ。」
「そんな美味しい事をしてたの?見逃したわ!一生の不覚!」
「次からはちゃんと誘う様に釘を刺して置きましょう!」
シオン大好きの二人は悔しそうだ。
食事の後はお茶の時間だ。
「あんのぉ、サーシア様ぁお話さあるべな。」
「なぁに?」
「やっぱすオラぁ・・・」
昼間に考えていた事を話す。
エルサーシアは優しく微笑んでいる。
三姉妹も黙って聞いている。
「シオンがしたいようになさいな。殿下には私からお断りして置きましょうね。」
「えがね?」
「えぇ、もちろんよ。」
エルサーシアは身内にとことん甘い。
「ねぇシオン、一緒に歌劇団を作りましょう!」
「カゲキダン?」
「歌って踊るお芝居よ!」
「そりゃ面白れぇだべな!」
「あら、孤児院の子供達と作ったでしょう?」
「あれはお遊戯ですわ、お母様。今度は本格的に作りますのよ!」
アルサラーラの夢は、オバルト王国の首都に在る女性だけの劇団。
コブシ歌劇団に入団する事である。
「演目はもう決めて有りますのよ!ウルサイヨのバラですわ!お母様!」
「まぁ!それは素敵ね!」
「ねぇお母様、劇で歌う精霊歌を作って下さいな。」
「それなら丁度良いのがあるわよ!」
「聞かせて下さいませ!お母様!」
「えぇ良いわよ!」
ジャラァ~ン♪
『罵り~♪それは~♪
甘~く~♪
鞭~♪それは~♪
強~く~♪
縄~♪それは~♪
尊~く~♪
蝋燭~♪それは~♪
気高~く~♪
あぁ~良い~♪
あぁ~良い~♪
あぁ~~~♪
良い~~~♪
あぁ~~~♪
叩かれ~て~こそ~♪
生き~る喜~び~♪
あぁ~~~♪
踏まれ~て~こそ~♪
世界~は広がる~♪
痛み故に~♪
人は美~し~~~♪』
ジャァ~~~ン♪
「感動ですわ!お母様!」
「良ぐ分がんねけんど、すんげぇ~。」
レイサン家は愛に満ちている。




