*第28話 踊り子
野生の王国ハイラムでの体験は、シオンに逞しさを与えた。
その気になれば虫でも食べられる!
しかも美味い!
あれから蜘蛛の巣をみると涎がでる様になった。
学生生活にも慣れて、仲の良い友達も出来た。
中休みのお茶会は恒例となっている。
「ねぇ、まだ婚約しないの?」
クラスの中でも特に仲良しのエリーゼがじれったそうに聞いて来る。
ミラームの求婚はみんな知っている。
「えんやぁ~まだ分がんねだよぉ~」
エルサーシアは、卒業するまでじっくり考えて、
それから決めれば良いと言うけれど。
さすがにそれは気の毒だ。
今年中には心を決めて返事をしよう。
どっちに転んでも自分の歩く道だ。
早めに答えを出したい。
「悩むなんて理解出来ないわ。王子様よ?
しかもあの美貌よ?」
貴族の婚姻は家同士の政略で決められる。
夫婦は義務としての役目であり、恋愛とは切り離されている。
互いが他所で愛人を作る事は珍しく無い。
「良が男過ぎで、オラにゃもったいねべさ。」
男爵令嬢であるエリーゼと、平民出のシオンとでは価値観が違う。
殆どの意見は一致しない。
だが、その食い違うところが面白くて、一緒に居るのが楽しい。
「もったいないくらいだから良いのよ。王子妃なんて大出世じゃないの。」
「そったら出世さすたら、もう踊んねべさ。」
「何を言っているの?王子妃ともなれば毎日の様に舞踏会へ行くわよ。」
その”踊り”では無いのだよ。
上流階級の社交的なダンスでは無く、みんなの願いを精霊に届ける”舞”が、
シオンの踊りだ。
「デンスでねだよ、舞だべさ。」
そうか・・・
私は踊り子なんだ・・・
ハイラムでは晩餐の度にドンチャン騒ぎになった。
皆に乞われて舞を披露した。
エルサーシアの歌う精霊歌と手拍子に合わせて、
時には揺蕩い、時には情熱的に。
自分が自分である事の証明。
それが”舞”だ。
あっ!
答えが出てしまった。
「ありがんどねぇ。」
「え?何が?」
ミラームには申し訳ないが、結婚の話は断ろう。
谷には帰れないが場所は何所でも良い。
踊り子として生きて行こう。
なんかスッキリしたなぁ~~~
「あぁ~!居た居たぁ~!」
「シオン~良い話があるのぉ~」
「おめでとうシオン、貴方が選ばれたのよ。」
怪し過ぎる~~~
平凡同好会の三柱がシオンを取り囲んで、何処かへ連れて行こうとする。
「な、何だべがぁ~?」
怖い怖い怖い。
見た目が地味なだけに余計に怖い。
特にミサが怖い。
ヘコヘコアザラシの黒木ミサをコピーした精霊がミサだ。
校則通りのセーラー服に長い黒髪。
表情の読めない、やや釣り目の三白眼。
「”平凡の友”夏の特別号の表紙に貴方が選ばれたの。
袋とじで特集も掲載するのよ。」
ミサに言われると黒魔術の生贄に選ばれた様な気がする。
「じ、辞退するだぁ~」
「駄目よ、先週号で予告してるし、予約も沢山入っているの。」
「さぁ!行くよぉ~!」
「ど、何所さ行くだ?」
「モスクピルナスだよぉ~」
「聖地のグラビア撮影が定番なのぉ」
「売り上げが伸びるのよね。」
「エリ~ゼ~~~」
「ごめんなさい・・・」
エリーゼが目を合わせて呉れない。




